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多言語観察|上と下 ― 縦の世界 / Multilingual Observation | Up and Down — The Vertical World

【空間の言葉 2】

上と下。
ただ方向を示すだけの言葉、のはず。

けれど、誰もが同じだと思い込んでいる言葉ほど、静かにズレが潜んでいることを、これまでの観察で学んできた。
空間の “縦” もまた、そのひとつ。

今日は、上と下。
この、一見当たり前すぎる二つの方向が、言語によってどんなふうに描き分けられているかを見ていこう。


日本語: 上 / 下

「上」は、背筋をそっと伸ばすような “位置の高さ” だけではない。そこには、役割や関係の “序列” が静かににじむ。
「下」は、低さではなく、 支える側の落ち着きを帯びることがある。
上下には、身体と社会が同じ場所に重ねて置かれているかのよう。

英語: up / down

"up" は、身体の上を軽く越えて、空の広がりへと引き上げられるような、軽い解放の方向を帯びている。
"down" は、足元ではなく、心の奥へ静かに沈んでいく深さを含む。
上下を、その人がどちらの方向へ向かっているかで描き分けているんだろう。

インドネシア語: atas / bawah

"atas" は、一点ではなく、上方向へふわりと動いていく帯のように扱われる。
"bawah" は、ただ落ちるのではなく、雨が降るときのように、静かに状況が変わっていく方向を示すようだ。
上下には、世界がゆっくり流れていく向きとして使われている感覚がある。

アラビア語: فوق(fawq) / تحت(taḥt)

فوق
目の前ではなく、天井のさらに先の、“上方の空間” を指す。“上は遠い” という気配をまとっている。それはきっと、神の絶対的な超越性と尊厳が根底にあるからなのかもしれない。人が容易に触れられない遠い領域であり、同時に、権威や支配が及ぶ場所なんだろう。
تحت
何かに覆われた、あるいは制限された領域の “下側” に広がる、深い空間を示すことが多い印象がある。
アラビア語の上下は、高さでも深さでもなく、世界をつつむ “気配の方向” をそっと示しているんだろう。


当たり前すぎて、これまで疑問に感じることもなかった「上」と「下」。
同じ方向のはずなのに、「上」の高さも、「下」の深さも、言語によって実は少しずつ違っている。

その違いの先には、まだ見えていない “空間のかたち” が静かに隠れているんだろう。

「空間の言葉」の観察は、まだ始まったばかり。
でも、「上」と「下」がこれだけ違うなんて、思いもしなかった。

次回は、前と後ろ。
果たして、どんな景色が見えてくるんだろう。


※ 次回↓


※ 前回↓


※ 多言語観察 目次↓

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