多言語観察|前と後ろ ー 横の世界 / Multilingual Observation|Front and Back — The Horizontal World
【空間の言葉 3】
前回は「上」と「下」という、空間の縦の軸を見たので、今度は、空間の横の軸 ー 「前」と「後ろ」に目を向けてみよう。
前に進む。後ろへ戻る。
ただそれだけのことなのに、この “向き” の感覚も、言語によって少しずつ違っている。時間の流れにも似て、空間の前後は、人が世界をどう “捉えているか” をそっと映し出している。
今日はそんな、「前」と「後ろ」を見ていこう。
日本語: 前 / 後ろ
身体の向きにそのまま乗っている。目の前に広がる方向が「前」で、見えない背中側が「後ろ」。
空間は、身体の位置から静かに広がっていく。
英語: front / back, forward / backward
身体の向きだけでなく、“進む / 戻る” という抽象的な方向性を帯びている。
前は「進展」、後ろは「後退」。
空間の向きと、心の向きが重ねられているように感じる。
アラビア語: أمام(amām) / خلف(khalf)
身体の前方・後方というよりも、“位置関係” としての前後が際立つ。
誰の前にいるのか、どの位置に立っているのか。
方向よりも、関係の中で、前後が置かれていくかのよう。
ヒンディー語: आगे(āge) / पीछे(pīche)
ほんの少し、“時間の流れ” の影が差している。
前は “先へ進む” 感覚に重なり、後ろは “過ぎていった方” の気配を帯びる。
空間の向きが、時間の向きとゆっくり重なっているようだ。
前の広がりも、後ろの気配も、ただの方向のようでいて、世界の横軸をどこに置くかで、言語ごとに少しずつ形が変わっていく。
日本語は視線の向かう先で、英語は進む軸で、アラビア語は前後の緊張の線で、ヒンディー語は時間の中の位置で。
前回、縦の世界では、「上」の高さも「下」の深さも、言語によって静かにちがっていた。
そして今日、横の向きもまた、そっとゆれていることが見えてきた。
これで、空間の縦と横がひと通り姿を現したことになる。
けれど、空間はまだ平面では終わらない。
次は、内と外。その境界がどんなふうに揺れているのか、また見ていこう。
※ 「空間の言葉」と合わせてご覧いただきたい、「時間の言葉」シリーズ↓
※ 次回↓
※ 前回↓
※ 多言語観察 目次↓
いいなと思ったら応援しよう!
応援いただき、ありがとうございます。いただいたチップは、観察の活動費として活用させていただきます。