「清らかな心」それはただの弱さだったのかもしれない。

この街では、誰もが少しだけ嘘をついて生きている。
それは罪ではない。むしろ、生き延びるための技術だった。
水は配給制で、食料もまた同じ。人は一人では生きられない。それなのに、誰もが他人を完全には信じていなかった。助け合わなければ死ぬ世界で、助け合いは「善意」ではなく「取引」だった。
——その均衡を、僕だけがうまく保てなかった。
「また損してるよ、お前」
そう言ったのは、かつて唯一信じていた友人だった。
彼は笑っていた。悪びれる様子もなく、僕の差し出した水を飲み干して、空になった容器を軽く振った。
「正直すぎるんだよ。そういうの、ここじゃ餌にしかならない」
餌。
その言葉は妙にしっくりきた。
僕はずっと、誰かに食い尽くされる側の人間だったのだと思う。
断れない。疑えない。裏切られても、「何か理由があったのかもしれない」と考えてしまう。
それが「清らかな心」だと、昔は信じていた。
でも、それはただの弱さだったのかもしれない。
この世界では、嘘をつける人間ほど生き残る。
顔色を読み、適当に話を合わせ、必要なら平気で裏切る。そういう人間が、食料も水も、人間関係さえも、うまく手に入れていく。
じゃあ、正直であることに意味はあるのか?
僕は何度も考えた。
そして、何度も裏切られた。
それでも——。
それでも僕は、完全に嘘つきになることができなかった。
不器用だからだ。
人より少しだけ、世界とのズレが大きいからだ。
みんなが当然のようにできることが、僕にはできない。
だから、孤独だった。
群れの中にいても、ひとりだった。

でも、ある日。
「……それでもいいんじゃない?」
そう言った人間が、初めて現れた。
彼女は僕と同じように、水を分け与えていた。
見返りも求めずに。
「損してるって思う?」
彼女は静かに笑った。
その笑い方は、この世界ではあまりにも場違いで、だからこそ少しだけ、救いのように見えた。
「私はね、信じたいんだよ。裏切られるかどうかじゃなくて、自分がどう在りたいかを」
その言葉を聞いたとき、僕は初めて思った。
——この世界でも、「選べるもの」があるのかもしれない、と。
たとえ損をしても、裏切られても。
それでもなお、信じることをやめないという選択を。
それが、愚かさなのか。
それとも、強さなのか。
まだ、僕にはわからなかった。


試行錯誤中のLaLaLaです。
この物語は、共同マガジンの仲間のエムゼロさんの記事を読んでいてひらめいたアイディアを物語にしてみました。
みなさんもぜひ読んでみてください。(※ネタバレあり)

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