鷲のごとく飛べ(Fly like an Eagle):スペース・サウンドの曙(1万文字)

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鷲のごとく飛べ(Fly like an Eagle):スペース・サウンドの曙
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【注釈】本稿は、筆者個人による調査・読解・考察をもとに構成されたものであり、筆者は本稿で扱う分野における専門家ではありません。内容の作成にあっては、公開されている資料の参照や、近年一般化しているAIを用いた情報収集・整理・ファクトチェックを活用していますが、それらはあくまで理解を助ける補助的な手段であり、記載内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。本稿には、事実として確認可能な情報の紹介に加え、比喩的表現、仮説的な推論、個人的な解釈や読み替えが含まれています。これらは特定の立場や結論を断定する意図によるものではなく、読者に思考の材料を提供することを目的としています。最終的な判断や解釈については、必ず一次資料や他の視点も参照したうえで、読者自身で行ってください。
1. Space Intro / Fly Like an Eagle
スティーヴ・ミラー・バンドは、1966年にサンフランシスコで結成されたアメリカンロックのバンドである。代表作には『Fly Like an Eagle』(1976年)、『Book of Dreams』(1977年)、『Abracadabra』(1982年)がある。地域的には西海岸寄りのバンドであり、音楽的にはブルースロック、サイケデリックロック、カントリーブルース的な地面、アメリカンロック、ラジオ向けポップの間を移動している。本稿では、このスティーヴ・ミラー・バンドを基準点として置く。以後に取り上げるバンドは、同じ時代のロックがどのように音を広げていったかを照らす比較対象である。
筆者にとってスティーヴ・ミラー・バンドは、アメリカンロックへの入口としてちょうどよかった。いきなり西部劇や南部風味のカントリー&ウエスタンを味わう前に、SF風味でコーティングされたポップスとして、アメリカのリズム、リフ、低音、ラジオ向けメロディを受け取ることができたからである。スペース・シンセは、アメリカンロックの土臭さを消す飾りではなく、その土臭さに入りやすくする薄い膜のようにも働いていた。
アルバム『Fly Like an Eagle』(1976年)は、冒頭の「Space Intro」からタイトル曲「Fly Like an Eagle」へ流れ込む順番で聴くと、その性格がはっきりする。最初に来るのは、バンドの歌ではなく、約1分15秒の宇宙的な音である。音程を持った電子音、白い風のようなノイズ、エコーマシンまたはディレイによる反復音が重なり、タイトル曲へ入る前に耳の置き場を変えてしまう。電子音が先に空気を作り、その中へ低く回るベース、安定したドラム、抑えたギター、ゆったりした歌が入ってくる。この曲順が重要である。
本稿でいうスペース・イントロとは、このアルバム冒頭に置かれた「Space Intro」を指す。スペース・シンセとは、そこに顕著な音程感のある電子音やシンセのフレーズを指す。スペース・サウンドとは、その電子音に、エコーやディレイの反復、白い風のようなノイズ、低く回るベース、安定したドラム、音と音のあいだに残る余白が重なって生まれる飛行感まで含めた呼び方である。スペース・サウンドは、シンセの音色だけの話というより、音が奥へ返っていく感じ、風が通る感じ、地面で回り続けるリズムの床まで含んだ音の作りである。
『Fly Like an Eagle』は、アルバム全体をスペース・サウンド一色で塗った作品というより、ブルースロック、アメリカンロック、ラジオ向けポップ、軽いファンク的な反復の流れを保ちながら、要所要所にスペース・シンセを置いた作品である。その電子音は、オーケストラのように厚く広がるものではなく、短い音型が反復され、エコーやディレイで奥へ返っていくものが多い。クラフトワーク、タンジェリン・ドリーム、あるいはヴァンゲリスのサウンドトラック的な電子音に近く、ラジオドラマで風景や宇宙船や遠い場所を音だけで立ち上げるような、音声による視覚効果を狙っているようにも聞こえる。この置き方によって、アルバム全体にはコンセプトアルバム的な連結感が生まれている。
その一方で、スティーヴ・ミラー・バンドの音楽性は、電子音だけの方向へ進んだわけではない。『Book of Dreams』(1977年)の「Jet Airliner」には、ZZトップを思わせる太く乾いたギターリフの感触があり、「Rock’n Me」には、カントリーブルース、ブルースファンク、ブギー、同時代のグランド・ファンクやバックマン・ターナー・オーバードライブにも通じる、わかりやすく前へ進むポップリフの感触がある。つまりスティーヴ・ミラーの面白さは、電子音による宇宙的な視覚効果と、地上を走るアメリカンロックのリフが同じバンドの中に同居している点にある。水と油のような要素が、ラジオで聴ける短い曲の中で混ざってしまう。その混ざり方こそが、『Fly Like an Eagle』を単なるスペース・シンセの作品ではなく、ミックスドカルチャーとしてのアメリカンロックにしている。
「Fly Like an Eagle」本編に入ると、低音とドラムが安定した床を作り、その上にシンセが広い空を描く。ドラムは暴れず、ベースは低い場所で回り続け、ギターは曲の主役として前へ出るより空気の一部として置かれる。ボーカルは電子音の余白の中を進み、曲全体が地上から少し持ち上がる。タイトルにある飛翔のイメージは、歌詞の意味に加えて、音そのものによって作られている。ここには、ブルースロックやアメリカンロックの身体性、ディスコ的な反復、スペース・シンセの浮遊感が同時にある。
音階面では、「Fly Like an Eagle」はAマイナーを重心にしている。歌メロとロック的な骨格には、A、C、D、E、Gを中心にしたAマイナー・ペンタトニックの感触が強い。そこへFやCが加わることで、Aナチュラル・マイナー、または相対調としてのCメジャーの広がりが生まれる。さらにAmからDへ動く場面では、Dメジャーに含まれるF♯の気配によってAドリアン的な明るさが立ち上がる。このマイナーの重心とドリアン的な開きの混在が、暗い短調に閉じない、少し開けた宇宙的な浮遊感を支えている。
「Abracadabra」は、シングルも同名アルバム『Abracadabra』も1982年の作品である。シンセサイザーの艶、ダンスミュージックに近い軽いリズム、少し妖しいタイトルの語感が前に出るため、70年代のスティーヴ・ミラーを知っている耳には急な変化として響きやすい。しかし「Space Intro」から「Fly Like an Eagle」へ流れる1976年の設計を踏まえると、「Abracadabra」は、1976年にすでに鳴っていた反復グルーヴとスペース・シンセが、1980年代の音色とラジオ向けポップスの形を得た曲として聴ける。スティーヴ・ミラー・バンドの先駆け性は、スペース・サウンドを難しい実験としてではなく、普通に口ずさめるアメリカンロックの中へ通したところにある。
2. イギリス:鍵盤、録音、幻想の系譜
イギリス側の比較対象には、ゾンビーズ、ピンク・フロイド、アージェント、ELO、パイロット、アラン・パーソンズ・プロジェクトを置ける。ここでは、アメリカンロックの地面とは違う形で、鍵盤、シンセ、声、コーラス、録音処理、アルバム全体の構成が発達している。スティーヴ・ミラーの軽さを考えるには、この英国側の濃い録音文化を横に置くとわかりやすい。彼らはロックを大きく、深く、緻密に作る。スティーヴ・ミラーは、そのような大作志向とは違う場所で、短いラジオ曲の中にスペース・サウンドを通した。
ゾンビーズは、1960年代前半にイギリスで結成されたポップ/ロックバンドである。代表作には『Odessey and Oracle』(1968年)がある。明るいメロディの中に翳りが入り、柔らかいコーラス、オルガンやピアノの繊細な響き、細く透明な歌声によって、英国ポップ特有の湿った陰影を作った。共通点は、短く聴きやすいポップソングの中に、声、鍵盤、コーラス、余白のある録音で独特の奥行きを入れた点である。相違点は、ゾンビーズが室内の光と影のような英国ポップの陰影へ向かった点である。
ピンク・フロイドは、1965年にロンドンで結成されたイギリスのロックバンドである。代表作には『The Dark Side of the Moon』(1973年)、『Wish You Were Here』(1975年)、『Animals』(1977年)がある。演奏、効果音、シンセ、声、時計音、心臓音、テープ編集を重ね、聴き手の周囲に音の部屋を作るようなアルバムを作った。共通点は、シンセ、効果音、反復音、声、録音の余白によって、普通のバンド演奏の背後に広い音の奥行きを作った点である。相違点は、ピンク・フロイドがアルバム全体で暗く深い音の部屋を作った点である。
アージェントは、1969年にロッド・アージェントを中心に結成されたイギリスのロックバンドである。代表作には『All Together Now』(1972年)と『In Deep』(1973年)がある。ゾンビーズから伸びた英国ポップの繊細さを、オルガン、分厚い演奏、長めの構成、プログレッシブロック寄りの展開へ広げた。共通点は、聴きやすいメロディを残しながら、鍵盤、厚い演奏、長めの曲構成でロックの音を広げた点である。相違点は、アージェントが英国的な鍵盤ロックとして曲を大きく展開した点である。
ELOは、1970年にイングランドのバーミンガム周辺から出てきた英国ロックのバンドである。代表作には『Face the Music』(1975年)、『A New World Record』(1976年)、『Out of the Blue』(1977年)がある。ジェフ・リンは、ビートルズ以後のポップソングを、ストリングス、分厚いコーラス、シンセ、重ね録りで磨き上げ、明るく人工的な光沢を持つロックにした。共通点は、ロックをギター、ベース、ドラムだけの音から広げ、シンセ、重ね録り、録音の光沢で上へ持ち上げた点である。相違点は、ELOが弦楽器、コーラス、ポップなメロディで明るく人工的な光沢を積んだ点である。
パイロットは、1973年にスコットランドを含む英国ポップ/ロックの流れから出てきたバンドである。代表作には『From the Album of the Same Name』(1974年)と『Second Flight』(1975年)がある。デヴィッド・ペイトン、イアン・ベアンソン、スチュアート・トッシュといったメンバーは、後にアラン・パーソンズ・プロジェクトの重要な演奏陣となる。共通点は、ラジオで聴きやすい軽さと、録音された音の整理された美しさを持つ点である。相違点は、パイロットが英国ポップの透明なメロディとコーラスを担った点である。
アラン・パーソンズ・プロジェクトは、1975年頃からアラン・パーソンズとエリック・ウールフソンを中心に動き出したイギリスの録音主導型プロジェクトである。代表作には『Tales of Mystery and Imagination』(1976年)、『I Robot』(1977年)、『Eye in the Sky』(1982年)がある。アラン・パーソンズはイギリスの録音スタジオ文化から出てきたエンジニア、プロデューサー、アーティストであり、アルバムごとに歌手、演奏家、編曲家を集めて録音物としての世界を組み立てた。共通点は、シンセ、声、エコー、オーケストラ、ミックスを使って、ロックの曲に奥行きと物語の手触りを与えた点である。相違点は、アラン・パーソンズ・プロジェクトが企画アルバムとして精密に音を組み立てた点である。
アラン・パーソンズ・プロジェクトの『Tales of Mystery and Imagination』(1976年)は、エドガー・アラン・ポーの作品世界を音楽化したデビュー作である。同じ1976年には、アンブロージアの『Somewhere I’ve Never Travelled』も出ている。アンブロージア自体は南カリフォルニアのバンドだが、『Somewhere I’ve Never Travelled』のプロデューサーはアラン・パーソンズであり、アンドリュー・パウエルのオーケストレーションも関わっているため、この章では英国録音文化との接続として扱う。共通点は、1976年にシンセ、声、オーケストラ、録音処理を使って、現実の足場が少し浮くような幻想性を示した点である。相違点は、APPが怪奇文学とアルバム全体の物語へ向かった点である。
3. 西海岸:声、ハーモニー、乾いたグルーヴ
西海岸の比較対象には、フリートウッド・マック、ドゥービー・ブラザーズ、アンブロージア、イーグルスを置ける。結成地だけで見るとフリートウッド・マックは英国のバンドだが、1975年以降の代表的な時期には、ロサンゼルス周辺の録音文化、男女の声、洗練されたリズム、ラジオで映える曲作りと強く結びつく。ドゥービー・ブラザーズ、アンブロージア、イーグルスは、いずれもアメリカ西海岸の乾いた感覚、滑らかさ、ハーモニー、グルーヴを持っている。スティーヴ・ミラーも西海岸側のアメリカンロックとして、この棚に近い。ただし彼の場合は、そこへスペース・シンセとエコーの軽い浮遊感が入る。
フリートウッド・マックは、1967年にイギリスで結成されたブルースロック由来のバンドである。初期の代表作には『Then Play On』(1969年)があり、ロサンゼルス周辺の西海岸的なポップ感覚と結びついた後の代表作には『Fleetwood Mac』(1975年)と『Rumours』(1977年)がある。初期にはシカゴブルースやカントリーブルースを英国側で咀嚼した感覚があり、後期には声、コーラス、リズム、ギター、録音の隙間を精密に整える洗練がある。共通点は、ブルース由来のギター感覚を持ちながら、70年代の録音で音を滑らかに整え、ラジオで映えるロックへ進んだ点である。相違点は、フリートウッド・マックが男女の声、コーラス、ギターの隙間で感情の緊張を作った点である。
ドゥービー・ブラザーズは、1970年にカリフォルニア州サンノゼで結成されたバンドである。代表作には『Toulouse Street』(1972年)、『The Captain and Me』(1973年)、マイケル・マクドナルド期の『Minute by Minute』(1978年)がある。初期にはギター主体のアメリカンロック、ブギー、カントリー、R&Bの感覚があり、中期以降には都会的でソウルフルな大人向けFMロックの感覚が強まる。共通点は、西海岸側のアメリカンロックとして、反復するリズム、乾いたギター、歌いやすいコーラスを持つ点である。相違点は、ドゥービー・ブラザーズがブギー、R&B、ソウル、鍵盤の滑らかなグルーヴへ進んだ点である。
アンブロージアは、1970年に南カリフォルニアで結成されたバンドである。代表作には『Ambrosia』(1975年)、『Somewhere I’ve Never Travelled』(1976年)、『Life Beyond L.A.』(1978年)がある。『Somewhere I’ve Never Travelled』はアラン・パーソンズのプロデュースとアンドリュー・パウエルのオーケストレーションによって、西海岸の明るさ、緻密なコーラス、英国スタジオ録音の幻想性が結びついた作品になっている。共通点は、西海岸的な滑らかさと、録音によって足場が少し浮くような幻想的な響きを持つ点である。相違点は、アンブロージアがコーラス、弦楽器、複雑な曲展開に包まれて漂う点である。
イーグルスは、1971年にロサンゼルスで結成された西海岸ロックの代表格である。代表作には『Desperado』(1973年)、『One of These Nights』(1975年)、『Hotel California』(1976年)がある。カントリーロック、ウェストコーストロック、ハーモニー、ギター、ラジオ向けのメロディを高度に洗練させた。共通点は、カントリー、ロックンロール、ラジオ向けメロディを70年代の大衆的なロックへ磨き上げた点である。相違点は、イーグルスがギター、ハーモニー、乾いた西海岸の風景で曲を作った点である。
4. 北米:地上の推進力と大陸の広がり
北米の比較対象には、グランド・ファンク・レイルロード、バックマン・ターナー・オーバードライブ、カンサスを置ける。ここでいう北米は、アメリカ中西部、カナダ、アメリカ大陸の乾いた広がりを含む大きな棚である。この章の中心にあるのは、地上の推進力である。太いギター、まっすぐなリズム、身体を前へ押す音、広い地平線へ伸びる演奏。スティーヴ・ミラーにも低音の反復と地上の身体性があるが、彼はそこへ電子音とエコーの浮力を加えた。
グランド・ファンク・レイルロードは、1969年にミシガン州フリントで結成されたアメリカンハードロックの代表格である。代表作には『Grand Funk』(1969年)と『We’re an American Band』(1973年)がある。荒いリフ、大きな音量、太い声、前に出るドラムとベースによって、ライブ会場で身体を揺らすロックの力を前面に出した。共通点は、太い低音、単純な反復、身体を動かすロックの力を持つ点である。相違点は、グランド・ファンクが大音量のギターとリズムで地上を押し進めた点である。
バックマン・ターナー・オーバードライブは、1973年にカナダで本格的に始動したハードロック/ブギーロックのバンドである。代表作には『Bachman-Turner Overdrive II』(1973年)と『Not Fragile』(1974年)がある。太いギター、単純明快なリフ、労働者的な推進力、ラジオで一発でわかる骨太なロック感覚がある。共通点は、反復するリズム、太いギター、身体を前へ押す北米ロックの力を持つ点である。相違点は、BTOが地上をまっすぐ走るブギーロックとして鳴る点である。
カンサスは、1973年にカンザス州トピカ周辺で形を整えたアメリカン・プログレッシブロックのバンドである。代表作には『Leftoverture』(1976年)と『Point of Know Return』(1977年)がある。ヴァイオリンの響き、高い演奏力、複雑な編曲、中西部の乾いた地平線を感じさせる音が特徴である。共通点は、70年代ロックを普通のギターバンドの音から広い景色へ広げた点である。相違点は、カンサスがヴァイオリン、複雑な演奏、中西部の乾いた地平線へ伸びた点である。
なお、今回の比較対象の中に、厳密な意味でサザンロックとして独立章を立てられるバンドは少ない。ドゥービー・ブラザーズやイーグルスにはカントリー、ブギー、南部音楽に近い香りがあるが、一般的には西海岸ロックやアメリカンロックの文脈で扱った方が安全である。カンサスも南部というより、カンザス州トピカを背景にしたアメリカン・プログレッシブロックとして見る方がよい。したがって本稿では、サザンという章を立てず、北米の地上感、大陸感、ブギー感を広く扱う。
5. それ以外のアメリカ:アリーナ、FMラジオ、巨大な音像
それ以外のアメリカの比較対象には、スティックス、ボストン、フォリナーを置ける。ここでは、西海岸の乾いたハーモニーや北米の地上の推進力とは違い、アリーナロック、FMラジオ、巨大な音像が前に出る。大きな会場で映えるサビ、分厚いギター、劇的な展開、録音による迫力。フォリナーは英米混成のバンドなので、純粋なアメリカ枠として断定するより、アメリカのアリーナロックと英国的洗練が混ざった位置として扱うのが自然である。
スティックスは、1972年にシカゴ周辺で現在の名義となったアメリカンロックのバンドである。代表作には『Equinox』(1975年)、『The Grand Illusion』(1977年)、『Pieces of Eight』(1978年)がある。アリーナロック、プログレッシブロック、ポップスを交差させ、「Come Sail Away」のようにバラードからシンセを含む大きな展開へ進む構成を得意とした。共通点は、シンセ、コーラス、ラジオ向けのメロディを使って、ロックを大きな景色へ広げた点である。相違点は、スティックスがピアノ、コーラス、劇的な曲展開で舞台を広げた点である。
ボストンは、1976年にマサチューセッツ州ボストン周辺から登場したアメリカンロックのバンドである。代表作はデビューアルバム『Boston』(1976年)であり、トム・ショルツの録音美学がそのままバンドの音を決定している。精密に積み上げられたギター、厚いコーラス、ラジオの向こう側で大きく輝く音像によって、ギターロックをハイファイな建築物のように鳴らした。共通点は、1976年にロックを録音技術で大きく広げ、ラジオで映える音にした点である。相違点は、ボストンが厚いギター、コーラス、電子効果で巨大なロックサウンドを作った点である。
フォリナーは、1976年にニューヨークで結成された英米混成のロックバンドである。代表作には『Foreigner』(1977年)、『Double Vision』(1978年)、『4』(1981年)がある。英国的な洗練とアメリカのアリーナロック感覚が混ざり、リフ、ボーカル、強いサビ、ラジオで機能する構成によって80年代へ向かう大人向けFMロックの輪郭を作った。共通点は、FMラジオ時代のロックとして、曲の輪郭をわかりやすく磨き、大衆性を持った点である。相違点は、フォリナーが声、リフ、サビの強さで押した点である。
6. スペース・サウンドの曙
本稿の結論は、次のように整理できる。
・スティーヴ・ミラー・バンドは、スペース・サウンドそのものの発明者として扱うより、スペース・サウンドをアメリカンロックの大衆的な曲の中へ早く通したバンドとして見ると位置づけがはっきりする。
・筆者にとってスティーヴ・ミラー・バンドは、いきなり西部劇や南部風味のカントリー&ウエスタンへ入る前に、SF風味でコーティングされたポップスとしてアメリカンロックを味わわせてくれる、ちょうどよい入口だった。
・『Fly Like an Eagle』は、アルバム全体をスペース・サウンドで覆った作品というより、ブルースロック、アメリカンロック、ラジオ向けポップの流れを保ちながら、要所要所にスペース・シンセを置き、アルバムにコンセプトアルバム的な連結感を与えている。
・「Space Intro」から「Fly Like an Eagle」へ入る曲順が重要である。先に電子音、風のようなノイズ、エコーの反復が空気を作り、その後に低く回るベース、安定したドラム、抑えたギター、ゆったりした歌が入ってくる。
・スティーヴ・ミラー・バンドの核心は、電子音の宇宙感と、アメリカンロックの低音、リフ、ラジオ向けメロディが、短い曲の中で自然に混ざっている点にある。
・「Fly Like an Eagle」の特徴は、低音の床、ブルースロック由来の身体性、ラジオで聴ける親しみやすさを残したまま、その上にスペース・シンセとエコーを乗せたところにある。
・イギリス勢は、鍵盤、シンセ、声、コーラス、録音処理、アルバム全体の構成によって、ロックを濃い音の世界へ広げた。
・西海岸勢は、声、ハーモニー、乾いたギター、滑らかなリズム、ラジオ向けの曲作りによって、70年代ロックを洗練させた。
・北米勢は、太いギター、反復するリズム、身体を前へ押す力、広い地平線へ伸びる演奏を持っている。
・それ以外のアメリカ勢は、アリーナロック、FMラジオ、巨大な音像を前に出し、ロックを大きな会場とラジオに合う形へ磨いた。
・その中でスティーヴ・ミラー・バンドの特徴は、重さや巨大さではなく、軽さ、反復、ラジオ向けの親しみやすさの中で空へ抜けた点にある。大作の構築、技巧的な演奏、分厚い編曲ではなく、低音の床、風のようなノイズ、エコー、スペース・シンセを短い曲の中で自然にまとめている。
・1982年の「Abracadabra」は、1976年の「Space Intro」と「Fly Like an Eagle」で鳴っていた反復グルーヴ、シンセの艶、軽い浮遊感が、80年代のポップソングの形を得た曲として聴ける。
・本稿で「曙」と呼ぶのは、最初の発明という意味ではない。大きな建築、深い実験、緻密なコンセプトではなく、短いラジオ曲の中でスペース・サウンドを自然に響かせたという意味である。
・「鷲のごとく飛べ」というタイトルは、歌詞上の比喩にとどまらない。曲そのものが、低音の床から少し浮き上がる作りになっている。その軽い浮上こそが、スティーヴ・ミラー・バンドにおけるスペース・サウンドの曙である。
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