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サイケデロス・サーガ 第4話「街へ」【創作大賞2026|ライトノベル|ファンタジー小説】

俺達は街へ繰り出す。

目の前には広がるのは、亜人の街。

石造りの建物に、木の看板。
軒先では魚の干物が並び、猫耳の店主が声を張り上げる。

通りには、様々な姿の亜人たちが行き交っていた。
狼耳、兎耳、猫耳。
通りの端では子供たちが木剣を振り回していた。
耳と尻尾をぴこぴこ動かしながら、戦士ごっこをしているらしい。

あの王の事だから、もっと緊張感ある街と思ったがそうでもないらしい。

俺達は少し歩くと、広場に出る。
噴水の周りにベンチが並び、商人や旅人らしき者たちが休んでいる。

ユウとカジは昼食を買う為に露店を巡るそうだから俺は一人でベンチで休む事にした。

俺は空いているベンチに腰を下ろし、ポケットからタバコを取り出す。

辺りをよく観察してみると、ここの住民は大きく分けて二種類いる
顔が人間っぽくて耳や尾がついたタイプと、顔が完全に獣のタイプ。

ユウとカジが食事と飲み物を買ってきた。
食べ物は肉を焼いた串、飲み物は羊の皮を使った革製の水筒に飲み物が入っている。

三人で座り御飯を食べる

肉は焼いて油がで味がついてて美味しいが、
塩や胡椒があればもっと良かっただろう。
飲み物は、ココナッツの香りがついた薄い水。

肉を食べ終え、俺たちはしばらく噴水の前でぼんやりと過ごした。

異世界の街のざわめき。
獣耳の子どもたちの笑い声。
露店の香ばしい匂い。
遠くで鳴る鐘の音。

どれも現実味がないのに、確かにここで生きているという実感だけはあった。

「……なんか、普通に街って感じだな」
ユウが串をゴミ箱に放りながら言う。

「そうっすね、露店回ってきたっすけど気さくな人ばかりで、もっと殺伐としてるかと思ったっすよ」
カジも水筒を飲みながら頷く。

「まぁでも、油断はするなよ。
昨日の王の態度、それにカエル男が言ってた奴隷の存在……この国は表と裏はあるだろうさ」

俺がそう言うと、二人は真顔になった。

ユウが手を頭の後ろに組みながら言う。

「そういえば能力ってさ、俺ら結局まだ使えてねぇんだよな。」

「カジは肉体強化系で、ユウは雷だったな。なんか念じたりしたらそれらしいの出たりするのか?」
俺はタバコに火を付けながら答える。

「いーや、なんなら念じるも、唱えるも、ポーズ付けるも全部試したが、全然駄目だったわ」

「俺も特に変化無しっすね、超能力みたいなの本当にあるのかも謎です」

「あるぞ、街の商人とか良く見て見ろ」俺は大荷物を片手で持ち上げる商人を指指す

「例えばあの華奢な商人が片手で二つの樽を持ち上げているだろう」

「あー確かに、軽々と持ち上げてるな」ユウは顎を触りながら関心している。

「街の人間を観察していると、体格に似合わずの奴が何人かいてな、能力なのだろう。」

「さすがイサムさんよく観察してますね。つまり俺は強化型って言ってたのでああ言った力が増えると思っていいのかもですね」カジは自分の拳を閉じたり開いたり交互にする

「亜人が人間よりも力が倍とも考えたが、力が倍なら昨日あそこまで警戒なんてされてないだろう。」

「昨日連行される時か」ユウは思い出したかのように言う

「そうだ、カエルのリーダー、そして亜人達もみんな武器で距離を取って警戒をしていた」

「なるほどなー。つまり能力って言うのはそれだけ警戒される物って事か」

「この世界で生き抜くには。能力を良く把握する事が大きなアドバンテージになるだろうさ、でも…」
俺はタバコの煙を吐き出しながら続ける。

「俺には能力は無い、だからこそ能力の把握と対処法を知っておかないとだろう」

「大事なのは能力に100%頼らずって事だな。てゆかイサム」ユウはイサムを見て話す。

「ん?」

「お前にはその目、そして剣道の腕だってあるだろう、その辺の剣を握る奴よりずっと有利だろう」

「よく言うぜユウ、お前が言うなよ」

ユウと俺は中学まで一緒に剣道をやっていて、ユウは何十年に一人と言われるほどの天才だった。
しかしユウは剣道を中学卒業と同時に辞めた。

「お前がもしも剣道を続けて居たら、俺は剣道を挫折してたかもしれないし、刑事にもなってなかったかもしれないぞ」

ユウは鼻で笑いながら語る
「俺は天才とかもてはやされたけど、その天才の俺が、イサム…お前からは一本も取れなかったよな」

「二人にそんな因縁があったんすねー」
カジはパンをボロボロこぼしながら話す。

「お前食ってから喋れよ、ぼろぼろこぼれてんぞ」ユウがカジに水を渡しながら注意する

二人のそんなやりとりを見て、少しだけ肩の力が抜けた。

しばらく雑談した後、ユウが話題を変えた。

「なあ、イサム。元の世界に帰れると思うか?」

「……わからん。その為に生き抜くんだ」

少しだけ空を見上げて答える。

「ただ……」

――もしショウがここにいたら、どうするだろうか。

思わず呟いていた。

「ショウちゃんとあのベッッピンちゃんも居酒屋にいたけど、飛ばされたのは俺たちだけっすね。」
カジが首をかしげながら言う。

「最悪なのは、もしもショウ達も飛ばされてたらと考えるとな…」

「俺の妹だぞ、もしも飛ばされてたとしてもアイツは大丈夫さ」
ユウは笑いながら言い、わざとらしく咳払いする。
「……で? 俺らはどうすんの?」

「決まってる。」
「……生き残るために、やれる事を全部やろう。」

カジとユウが頷いた。

そしてユウが立ち上がる。
「ま、とりあえず腹も満たされたし!せっかく自由なんだし、街を見て回ろうぜ。情報集めも必要だろ?」

「そうっすね。歩いてみないと分からない事もあるっす」

二人の言葉に、俺も立ち上がる。

「……そうだな。
この世界で生きるためにも、まずは知るところからだ」

三人で歩き出す。

陽の光に照らされた石畳の道が、どこまでも続いていた。

こうして――
俺たち三人の、異世界での最初の探索が始まった。

街を探索しながら、必要な物を揃えた。
結構探索はしたが、街全体を回れた訳ではない。

ここは俺達が思う以上に広い街だった。

歩いている内に本が並ぶお店に入り、地図を買った。

次に足を止めたのは、白い粉を山のように積んでいる露店だった。
店主はヤギ頭の亜人で、角に布を巻きつけ、商売慣れした笑みを浮かべている。

「いらっしゃい、人間。洗い粉はどうだ?武器も鍋もピカピカになるぞ」

「洗い粉?」俺は白い粉を指差す。

「そうだ。血も脂もよく落ちる。」

……洗い粉?
どう見ても塩にしか見えない。

「ちょっと触ってもいいか?」

「好きにしろ。でも盗むなよ」亭主はニヤっと笑う。

俺は指先につけ、ほんの少し舐めてみた。

「……やっぱり塩だな」

その瞬間、ヤギ亭主が目を剥いた。

「お、おい人間!正気か!?洗い粉を舐める奴なんて初めて見たぞ!」

「…………」
そうか、たぶんこの国の文化では俺達が居た日本とは大きく違うのだろう

「これ樽でもらうとしたら幾らぐらいだ?」

「そんなに買ってくれるのかい?なら樽をもう一つサービスでつけて銅貨一枚でいいぞ」

「ありがとう」

「しかし、粗い粉をこんなに買って何に使うつもりだ?……まさか変な使い方するんじゃねぇだろうな?」

ユウが興味津々で言う。
「逆に聞くけど、この塩をなんで料理に使わねぇんだ?」

「料理?洗い粉を」

「ああ、料理に使わないのか?」

「当たり前だろう!洗い粉は汚れを落とす粉だ。
食い物に混ぜるなんて、そんな発想……誰もしねぇ!」

「なるほどやっぱり文化の違いってやつか……」俺は呟く。

ヤギ亭主は樽に塩を詰めながら続けた。

「それと肉も買っていけ。今日仕入れた新鮮の魔獣の肉だが、折角だからサービスしてやる」

そう言ってヤギの亭主は指を三本立てながら「新鮮の肉だから銅貨五枚の所、銅貨三枚でどうだ?」

俺は店内の調味料の棚を物色し黒い粉を見つけた。
これは粉末にする前の胡椒に違いない。
俺は胡椒を手に取り「この黒い粉を樽でもらうとしたら幾らになる?」

「黒粉を樽なら、銅貨二枚でいいぞ」

「じゃあ肉と合わせて、銅貨十枚置いとくよ」

「そんなに掛からない、合わせて銅貨六枚でいいぞ」
ヤギの亭主は慌てて言う

俺は遠慮する亭主の手の上に銅貨を押し付けながら
「今度から色々とここで世話になるから、むしろ受け取ってくれ」

「そうか、お兄ちゃん気に入ったぜ!まいど!」

俺達は塩と胡椒の入った樽、それに肉持ちお店を出る。
ヤギの亭主は満面の笑みで手を振ってくれている。

「……この世界、思った以上に文化差があるな」俺が呟くと、

「てかイサム、よく舐めたな……」ユウは呆れた顔をしていた。

「この黒いのは胡椒っすね」カジそう言いながら樽担いだ。

「よし、手分けして持って帰ろう」

家に着いて、俺はタバコに火を付け一服する。

ユウは樽を置きながらカジの肩をポンポンと叩いた。
「カジ、料理は任せたぞ」

「任せて下さい。イサムさんが交渉してくれたお陰で、大漁に食材と調味料が入りましたからね」
カジは袖をまくり、手際よく準備を始めた。

買ってきた塩を大きな木のコップに入れ、棒で叩いて細かく砕く。
コツン、コツンと木を叩く音が台所に響く。

俺も胡椒を木のコップに入れ、棒でぐりぐりと潰していく。
香りが立ち上がり、鼻をくすぐった。

「うわ、これ……めっちゃ良い匂いするな」
ユウが思わず顔を近づける。

「胡椒ってのはこういうもんだ。肉に合う」
俺は砕いた胡椒をカジに渡す。

カジは鳥肉と豚に似た魔獣の肉を切り分け、塩と胡椒をまぶして揉み込んでいく。
肉に触れるたび、じゅわっと脂が指先に滲む。

「この肉、脂がいい感じに乗ってますね。絶対うまいっすよ」
カジは嬉しそうに笑う。

次に、台所の石窯の前に木材を並べ、火打ち石で火をつけた。
パチッと火花が散り、乾いた木がゆっくりと燃え始める。

石窯の中に鉄の網を置き、カジが肉を並べた。

ジュウウウウッ……!

肉が焼ける音が一気に広がり、香ばしい匂いが部屋中に満ちる。

「やべぇ……絶対うまいやつだろこれ」
ユウが腹を押さえながら言う。

カジは肉をひっくり返しながら、塩と胡椒を少しずつ振り足す。
焼けた脂が火に落ち、炎が一瞬だけ強くなる。

「この塩……料理に使うとこんなに香りが変わるんすね」
カジは感心しながら肉を網の端に寄せ、火加減を調整する。

焼き上がった肉を木皿に盛り付けると、
鳥肉は表面がパリッとし、魔獣の肉はじゅわっと肉汁が溢れていた。

「よし、できました。異世界初の……塩胡椒焼きっす!」

ユウが歓声を上げる。
「うおおお!絶対うまいじゃん!」

俺は皿を手に取り、肉を一切れ口に運んだ。

……うまい。

塩の旨味と胡椒の香りが肉の脂と混ざり、
この世界の素材の良さが一気に引き立っている。

「……カジ、お前、天才か?」
思わず本音が漏れた。

カジは照れくさそうに笑う。
「いやぁ……素材が良いだけっすよ」

ユウはもう二切れ目を頬張っている。
「うめぇ!これ店出せるレベルだろ!」

三人で笑いながら、焼きたての肉を頬張った。

異世界の家の台所で、
初めての俺たちの料理が完成した。
「カジ、調理ありがとうな。ごちそうさん」
食べ終わって、一息つく。

「食べた食べた……もう入らねぇ」
ユウは腹をさすりながら椅子にもたれかかる。

「まだ使ってない調味料もありますし、明日は別の料理も試したいですね」
カジは調味料袋を眺めながら嬉しそうに言った。

俺は革袋の水を飲もうとしたが、もう空だった。
飲み物に関しては、この家には水道が通っている。
匂いは問題ないが、念のため湯通ししてから飲むようにしている。

食器を軽く洗い、三人で片づけを済ませる。

「そろそろ風呂の準備すっか。今日、石鹸みたいなの売ってたから人数分買っといたぞ」
ユウが袋から石鹸を取り出す。

柑橘系の香りがふわりと広がった。

この家にはシャワーらしきスペースはあるが、お湯が出るわけじゃない。
大鍋で湯を沸かし、それを使って身体を洗うしかない。

「俺は最後でいい。お前ら先に入れ」
そう言って俺は外に出て、タバコに火をつけた。

煙を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

街の明かりは徐々に消え、空には満天の星が広がっていた。
冷たい夜風が頬を撫でる。

――この世界で、どう生きていくか。

能力が無いという事実。
それが致命的な欠点なのか、それとも別の道を示しているのか。

今日一日、街を歩いて分かったことがある。
戦うだけが生き方じゃない。
商いもあれば、技術もある。
人間の国もある。

だが今の俺たちは、王の保護下にある。
いずれ戦いに駆り出される可能性は高い。

対人なら負ける気はしない。
だが――あの大蛇のような怪物が相手なら、能力無しでは厳しい。

ユウとカジには能力がある。
ならばまずは、あいつらが生き残れる力を身につけることが最優先だ。

王が戻るまで、あと数日。
その間に……アクアに相談してみるのも一つかもしれない。

タバコを吸い終え、俺はゆっくりと家の扉を開けた。

第五話へ続く



サイケデロスサーガのマガジン

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