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18.森で迷ったハヤトの目印

朝の光がまだ低いうち、ハヤトは昨日と同じ道を歩いていた。
倒木を越え、湿った土を踏みしめる。
昨晩の雨のせいか、今日も空気がまだ重い。

「この辺だったはずなんだけどな……」

昨日、曲がり角に大きめの石を置いた。
帰り道で迷わないように。

けれど、そこに石はなかった。

流れた土の跡と、散らばった小枝。
夜のうちに降った雨が、人知れず景色を動かしていた。

「あれ……?」

胸の奥がほんの少しだけ冷える。
迷った、とまでは言わないが、いつもの確信が揺らぐ。

「多分、こっちなはず……」

自信なさげに歩き直す。けれど進めば進むほど、見覚えのある木がまた現れる。
たまに看板を見つけても、古びていて読めない。

足が止まる。

「もしかして……同じとこ、回ってる?」

森は教えてくれる。
でも、方向までは指示してくれない。

(……こういう時は慌てちゃダメだ)

ハヤトは目を閉じ、深く息を吸った。
ひと呼吸置き、耳を澄ます。
すると、左の方から水の流れる音が聞こえた。

ゆっくりと向きを変え、来た道を戻る。
それから少し高い場所へと上った。

「あ……」

遠くに、昨日くぐった枝の裂け目が見えた。

「良かった……」

目印のはずだった石。
でも、ただ置いただけじゃ残らない。

ハヤトはリュックを下ろし、赤い布切れを取り出した。曲がり角の枝に、きつく結ぶ。

二重に、視線と同じくらいの高さへ。

結び目を指で押さえ、グッと引く。
ちょっとくらいの風ではほどけないように。

少しだけ位置を変え、見え方を確かめる。
これなら、遠くからでも分かる。

「……残すなら、ちゃんと残さなきゃ」

少し離れたところから振り返る。
赤い布は、はっきりと見えた。

森は動く。
雨も降るし、風も吹く。
覚えるだけじゃ足りない。
残す工夫があって、初めて“戻れる”。

ハヤトは一度だけうなずいた。

それから、歩き出す。
今度は、迷わないように。




🔍森の奥を歩く小さな冒険


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