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星は威張らない

#創作大賞2026

#エッセイ部門

私と同じ名前をもった人は、さまざまな人の思いを受けて、いまだに生きている。
空のどこかに。

自分の名前の由来を知ったのは、父の四十九日に和食店で食事をしているときだった。
まだ若かったが、私は長男として、弔問客の相手をしていた。
ほとんどが、幼いころかわいがってくれた人たちだった。
そのうちにひとりであるNさんに向かい合い、私の知らない父の話を聞いていた。
何がきっかけかは覚えていないが、私の名前の話になった。

小学生のころ、宿題で「自分の名前の由来」を尋ねるものがあった。
父は面倒くさそうに、
「語呂がいいからな。それと、まあ、俺の名前が一文字だからだろ」
と素っ気なく答えた。
それが違ったのだ。

まだ私が生まれる前の頃だ。
「ああいう人が偉いというんだ」
とつぶやいたという。
自分の部下たちに
「ご苦労様」と一人一人に頭を下げるYさん、
アルバイトが、
「あのおじさん誰ですか?」
と近くの人に聞き
「うちの専務」
と答えた声が聞こえたときにも、
「頑張ってね」と優しく声をかけたという。

「威張る人」を嫌った父。
後輩でも呼び捨てにしなかった。
ただ息子の私にさえ幼いころから君付けで呼び続けたのは、名前の由来に関係があるのかもしれない。

誰に聞いても「優しい」といわれる父だが、恐いという人もいた。
穏やかな人ではあったが、目下に強く当たる人には、無言で圧を掛ける人だった。
学生アルバイトに無茶な命令をしている人がいたとき、遠慮なく平手を飛ばした父。
「威張るやつには威張っていいんだ」
父の怒るポイントはここだけだった。

私が生まれて、同僚たちが名前を聞くと、Yさんと同じだったことで、仲間たちは悟ったという。
父は人付き合いこそいいが、照れ屋であったため、
「Yさんの名前をもらった」
ことに触れる人はいなかった。

その頃より老けたNさんが、
「照れくさくて言えなかったんだよ」
とビールを一気に飲み干すと、コップを強めに置いて影に目を移した。
照れくさそうな笑顔を浮かべている写真。
見つめるNさんの目が潤んだ。

それから数年後、ふと思い出してYさんの名前を打ち込んだ。
検索の中に異質なものがあった。

ひとつだけローマ字が並んでいるものだった。

渋谷のシンボルとして知られていた、ビルの屋上に銀色の帽子が飛び出たようなドーム。
その中は星がきらめくプラネタリウムだった。

父が他の会社へ移っていたため知らなかったが、キャリアの最後にYさんはプラネタリウムの名誉館長をしていたという。
そこに働いていた若手天文学者が星を見つけ、すでに亡くなっていたYさんの名前を付けた。
気遣いで付ける意味などない。
「あの人の名前を永遠に残したい」
理由はそれだけだったという。

「まさか星の名前になるほどの人だったとは…」

自分の名前の大きさに、驚いたと同時に、父の人を見る目の正しさがわかり、奇妙な喜びが心の中にあふれた。
それと同時に、あまりに存在が大き過ぎて、天井を向いてため息をついた。

遠くて見えなくても、確実に自分が見上げた空の中に、Yさんの名前を冠した星がある。
緊張感と見守ってもらっているという安心感が共存した、不思議な気持ちが生まれた。

遠い小さな星からの光は、ずっと届いている。
すべてを見習って生きることなどできない。
ただ威張らずにいようと思う。
そうしないと、夢で平手を飛ばされそうだ。

※一本ずつ独立したエッセイ。以下はテーマが同じもののリンクです。

父についての連作エッセイ①
逃げ場所は映画館

父についての連作エッセイ②
観覧車のあるビル

父についての連作エッセイ③
星は威張らない

父についての連作エッセイ④
照れくさそうに見続けた父




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