僕はチワワと不倫している
人は自分にとって都合のいい情報や視点で判断をしている。それは決して正しいと言い切ることはできないのに、数ある情報の中から取捨選択をして事実を作り上げている。
家を出たところで、近所のチワワと目が合った。
時期は夏前。まだ冷房のスイッチを入れるまでもなく、かと言ってそのままだと快適とは言えない。
そんな最中で折衷案として網戸にされていた家の窓の内側に、そのチワワはいた。
僕と目が合ったのを、チワワも気付いたと思う。10mは離れていたと思うけれど、チワワの瞳孔も開いたのが見えた気がした。ソワソワとして、目の前の網戸さえなければ道路に飛び出して僕の方にやってきそうな勢いだ。
その家には僕と同じ年くらいのご夫婦が暮らしている。子どもの年齢も同じくらいで、近所ということもあり、子ども同士は一緒に遊ぶことが多い。
メガネ屋で働いていると平日に休みのことがほとんどなので、まだ子どもが幼いうちは僕も外に出て一緒に遊びながら一応の見守りもすることが多かった。
子どもたちの遊びのアイデアというものは凄まじい。
「はないちもんめ」をするのに人数が足らないからと駆り出されていたのが、冒頭に書いたチワワだ。
チワワに「はないちもんめ」がわかるのだろうか。いや、わかるはずもない。何がなんやらわからないままに対岸側に渡されて、これまた近所に住んでいる別の子どもに抱っこされている。
駆り出しといて真っ先に相手に渡す対象にそのチワワが選ばれていることに、僕はどこか残酷さも感じた。
やがて遊びの内容が「はないちもんめ」から「バトミントン」に変わると、チワワはお役御免となり、見守りをしている僕の膝にやってきた。
それが僕とチワワの馴れ初めである。
それをきっかけに僕とチワワはとても仲良しになったけれど、毎日会うことはできない。
会える日は子ども同士が遊ぶとか、そういうイベントが開かれないと僕とチワワのデートのチャンスはないのである。
しかし子どもたちも成長や遊びの変化によって外で集まるということが減ってきて、そうなると僕とチワワのデートの機会もなくなってしまった。
そこからしばらくして久しぶりに再会したのが、今回の日に当たる。網戸越しに目が合う僕たち。チワワの目ってこんなにウルウルとしていただろうか。
ソワソワとして、声にもなっていない鳴き声で僕を呼ぶ。
「おおロミオ、なぜあなたはロミオなの」
「ああチワワ、なぜあなたはチワワなのだ」
それよりも何よりも、チワワがこんなにも僕に懐いてしまって、気になることがある。
例えば不倫がバレるきっかけとしてあるのが、飼い犬が妙に懐いていることらしい。
念のために言っておくと僕とその家の奥さんは気さくに話はするけれど、そんな危険な関係ではない。
僕がここで網戸に近づいても、「あらこんにちは」だろう。
けれどチワワのこの懐きようは、他のご近所にあらぬ誤解を与えてもおかしくはない。
そう思うと僕はチワワを振り切って、涙をこらえて車に乗り込むしかなかった。
遠くから、きゅぅんと鳴き声が聞こえた気がした。
これってなんの話ですか。
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路上にチップもらう用のシルクハットを置いてパントマイムするの、実はやってみたかったんです