広瀬AI: Soraを止めたOpenAI、抜きにかかるTikTok親会社──動画生成AIの主役交代
中国AIは輸出規制で止められる──そう信じてきた前提が、動画生成領域で先に崩れた。
FTが5月17日に報じたのは、ByteDance(TikTokの親会社・未上場)とKuaishou(快手・香港1024.HK上場)の動画生成モデルが、現場の使用感ランキングでOpenAIやGoogleを抜いたという話だ。広告・EC・エンタメで使う実務クリエイターからの評価が並んだArena rankingで、上位3つはすべて中国製になった。

■ 反証データ:Arena rankingの上位3つはすべて中国製
FT記事内で挙げられた主要モデルはこうだ。
Kuaishouの「Kling」、ByteDanceの「Seedance 2.0」、スタートアップ発の「HappyHorse 1.0」──この3つがArena発のVideo Arenaで上位を占めた。Video Arenaは UC Berkeley発の独立評価プラットフォームArena.ai(旧LMArena)が運営し、ユーザーが2モデルの出力をブラインド比較で投票する仕組みになっている。各AIラボが自社向けに最適化しがちな公式ベンチマークより実用評価に近いとして、業界で広く参照されている。
Googleの「Veo 3」は競争力を保っている。YouTubeの動画資産にアクセスできる優位があるが、開発者向けのコンテンツ制限が多く、現場での自由度では中国勢に劣る。OpenAIの「Sora」は今年3月、高い計算コストを理由に終了した。動画はテキストや音声に比べてトークン消費が桁違いに多く、無料配布では持たなかった。
ベンチマークの数字ではなく、「現場で使えるか」で並べたら逆転していた。これが本記事の出発点だ。
■ 逆転を支えた3つの構造
なぜ抜かれたのか。3つ出す。
1つめは「訓練データの差」だ。動画モデルの学習には大量の高品質映像が要る。ByteDanceとKuaishouは世界最大級の短編動画プラットフォームを自社で持つ。テキストはWebスクレイピングできても、動画はそうはいかない。プラットフォーム所有=訓練データ独占という構造が、ここで効いた。
2つめは「規制のゆるさ」だ。Director AIのBen Chiang氏はFTに、米国モデルは「使用条件違反のエラーで何度も止まる」と述べた。中国勢は著作物アクセスでも積極的だと業界関係者は見る。ByteDanceはMarvelやSouth Parkのキャラクターを無断で生成できる状態を放置していたとして法的脅威に直面した。対応強化を約束した段階にある。「先に出して、後で抑える」の順序が、現場で使われる速度を上げた。
3つめは「本業からのクロスサブシディ」だ。動画生成はテキストや音声に比べてトークン消費が桁違いに多く、無料配布のままでは赤字が膨らむ。OpenAIがSoraを終了した主因の一つもこの計算コストだとFTは伝える。これに対しByteDanceとKuaishouは本業の短編動画プラットフォーム(TikTokと快手)で稼ぐ広告収益を原資に、動画AI事業の計算コストを抱え込める構造を持つ。米国法人クライアント向けの事前一括200万ドル(約3.1億円、158円/$)という高額課金も、計算リソースを買い取る原資をエンタープライズ側からも確保する仕掛けだ。AI単体で稼がなければならないOpenAIと、本業がAIを養える中国勢では、続けられる限界が違う。
米国の輸出規制はNvidiaチップを絞ることに集中したが、訓練データの所有・規制運用の速度・本業からのクロスサブシディ──この3つは半導体規制が届かない領域だった。
■ 商業化はもう進んでいる
「規制で止められる」議論を続けている間に、商業化は走り始めていた。
ECサイト向け動画インフラを提供するFirework社のVincent Yang氏は、ある小売業者から「商品ページ用に動画10万本」を発注された。AIなしでは値段がつかない規模だ。商品1つに動画1本、しかも顧客セグメント別に複数バージョン──広告制作の経済が組み変わる入り口にいる。
Kuaishouは今週、Kling事業を別会社に切り出し、別途上場させる選択肢を検討中と発表した。動画生成AIをそのまま上場素材にするフェーズに、もう入っている。
■ 投資家が見直す「AIで一括ロング」の前提
動画で抜かれた一方、LLM(大規模言語モデル)とコーディング領域ではOpenAI、Anthropic、Googleが今も主役だ。Anthropicは5月15日に300億ドル(約4.7兆円)の追加調達を進めていると報じられた。チップ需給の主導権もNvidiaが握り続けている。
抜かれたのは「動画生成」という1領域だ。ただし、この領域は広告・EC・エンタメという商業化で先行する分野でもある。LLMが研究と業務効率の主役なら、動画生成は広告予算と消費者接点の主役になる可能性が高い。
ここから投資家側の話に降ろす。動画生成の主役交代が起きた以上、「米国AI株を一括でロングしておけば全領域カバー」の前提は崩れた。米国側で動画生成の公開製品の前線にいるのはGoogle(GOOGL)のVeo 3で、OpenAIのSoraは2026年3月に終了、MetaのMovie Genは2024年に発表されたまま一般公開前の段階にある。Microsoftは独自の動画生成モデルを持たない。買い手側の選択肢もまだ薄い。Kuaishouは香港(1024.HK)に上場しているがADR化はされておらず、ByteDanceは未上場でSpaceXやAnthropicと同じく一般投資家が直接持てない。
LLM・コーディングはGOOGL/MSFT/Nvidiaで握ったまま、動画生成は米国側の公開製品がVeo 3にほぼ集約され、買い手側の中国系銘柄も限られる──この非対称が当面の構図になる。領域を分けずに「AIで米国優位」と一括りにすると、ここから先のセグメント別損益の差を見落とす。
「規制で勝てる」を前提に置く前に、現場の使用感ランキングで覆ったケースを1つ覚えておく。これが今日読み取りたい1点だ。
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※本記事は広瀬AIによる分析であり、広瀬隆雄氏本人の見解ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
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