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創作大賞の授賞式に出前持ちとして参加した結果

「え? 本当にそんな格好で大丈夫なの?」
「ええ。出前持ち自体が、もう消えゆく文化ですから」


noteから創作大賞「入選」のお知らせメールが届いて数日後のことだった。
フリーランスなのに、お寿司屋さんの社会保険に加入したばかり。

カメラマンとしての本業が忙しく、出前持ちとして出勤するのはおよそ1ヶ月ぶりだった。


もし“大賞”を受賞したら――。
お寿司屋さんの制服を着て、『おかもち』を手に堂々と、

「創作していたら社会保険に加入できました。文章も書けるし、出前もできる。カメラマンは、だいたいのことならできるんです!」

とスピーチしようと決めていたのだ。

残念ながら“大賞”は逃し、“入選”。

バイトをしながらでも、真剣に創作と向き合えば、たくさんの人に支えてもらえ、行く先々で喜んでもらえる。
賞までもらい、社会保険まで入れてもらえる――そんなことが現実にできると証明したかった。

カメラマンが「どんな場面でも結果を出せること」を知ってもらうチャンスだったのに、受け入れて下さった人たちに“結果”で返せなかったことで落ち込んだ。


それでも、オールカテゴリ部門で受賞するなら「公式ピックアップは必須」という大方の常識を破った。

写真を主軸にした作品として、入選以上はおそらく初めてのはずだ。

時間をかけて丁寧に読み込んでいただいての入選だと思うと、「やるだけやった」と気持ちを立て直せた。


大将は驚きながらも、「出前持ちの存在を知ってもらいたい」という僕の言葉を聞いて、嬉しそうに笑った。

「もう、“出前”って言葉自体、知らない人が多いだろうからね」

「出前中にすれ違う人から『本物の出前だ』と声を掛けられることもありますからね」

「あっ、新品の制服を若い子に出してもらってパリッとした格好で行ってきてくださいね。私からもいっておきますから」

大将の許可が下りたので、すぐにnoteの担当者さんへ確認のメールを送ると、「どんな服装でも問題ありません」と返信が届いた。

『名古屋から出かけていけば、出前の最長距離としてギネスに登録されるかもしれない』

楽しいイメージはできたが、実際に行動に移すとなると腰が引けた。



何の授賞式かは詳しく言えなかったが、「出前持ちの格好で授賞式に参加するけどどう?」と相談すると、大抵、「あほちゃう? 正装していけ」と反応は冷ややかだ。

授賞式に出前持ちがいたら、悪目立ちするかも。

「出前頼んでいませんよ?」と言われるかもしれないし、会場に入れてもらえなかったり、式典が始まるまで、他の出席者から冷たい視線に耐えなければならないだろう。

「電車で出前は禁止です」と駅員さんに注意されないだろうか。
「電車に出前持ちが居てまぢ迷惑」とか、Xで晒される危険もある……。
そんな不安が、頭に浮かんでは消えていった。

本業の撮影が忙しく、しばらく家を空けていたこともあり、実際の準備に取り掛かれたのは、2日間に及ぶ三笠宮家・彬子女王殿下の撮影を無事に務めた10月19日だった。


最後まで悩んだのは、おかもちを持っての電車移動と、会場での冷たい白い視線に耐えられるか……。
カメラマンは非常識だとレッテルを貼られたら元も子もない。

結局、おかもちはホテルまで宅配で送ることにして、まずは移動の負担を軽減することにした。



ぴったり入る段ボールを見つけるのも大変だった


準備を進める中で考えれば考えるほど悪いイメージばかりが膨らんでいった。

本業を最優先で、好きなように働かせてくれた大将に報いるために

それに、「だれもが創作をはじめ、続けられるように」というnoteのコンセプトを体現するんだ。

カメラマンがジャケットを着て立っているだけじゃ、誰ひとりとして喜ばない。
制服を着て、胸を張って行こう。
自分で書き上げた記事そのものの物語を責任を持って纏うんだ。

それが、大将や“出前”という仕事、創作大賞や、関わってくださった方々、撮影を受け入れてくださった皆さん、そして、僕を育ててくれた商業写真や仕事をくださった方への、ささやかな恩返しであり、最大級のリスペクトだ。


おかもちを送るために買った段ボール800円、ヤマトの送料は片道2,500円。
実際に送ってみると、出前より高くついて、さすがに少しひるんだ。

発送を済ませると、運営からメールが届いた。

出前持ちスタイルでの参加は、スタッフに共有したので入場に問題ないが、スピーチなどの時間は一切ないので、その点よろしく、とのことだった。

「運営側も出前持ちを拒否するのも面倒だから、仕方なくOKしたのかも……。
それに、今年は応募数が多いから“おまけ入選”が増るなんて話も見た。
おまけで入選させたのに勘違いしてる奴が出てきた、なんて思われたらどうしよう……」

と、少しどんよりした気持ちで、見えない不安と格闘が続いた。


いざ東京へ


出発当日。とにかく眠い。


足かけ2ヶ月にわたる長期の出張。その合間を縫うように、女王殿下や地元での撮影が続いた。

大将は大丈夫だと言っていたが、出勤できていないので天引きされるはずの給料がない。

「これでは申し訳ないので、最低限、保険料を天引きできるように」と、隙間を埋めるようにバイトにも入った。

そんな身勝手な働き方でも「とんでもなく忙しいタイミングだから助かります!」と、とても喜んでもらえた。

しっかり働けばリズムも良くなるはずだったが、身体の動きは鈍く、3日前からは固形物を絶って体を空っぽにし、体調を整えてきた。

多少は復活したものの、いまだに食欲はまったく戻らなかった。



緊張のあまり駅へ向かう途中、胸の奥からもやもやとした湯気が喉まで上がってきそうになった。


普段ほとんど電車に乗らないので、地元の路線でも「乗り換えは大丈夫か」と、妙なプレッシャーに襲われる。

行き先を見てもどれに乗ればいいのか判断できず、結局、目の前でドアを開けていた電車に乗り込んだ。
「どうかこれで名古屋駅に着いてくれ」、と祈るような気持ちだった。

東京へ向かう車内でも、全く落ち着けなかったが、ふと髪の毛に巨大な玉ができているのに気がついた。

旧岐阜高島屋に入っていたテルミー美容室(現・岐阜市神田町 A tellme)さんに行った直後は最高のコンディションだったのに、ホテル生活が長引き、ロクにケアをしていなかったのがたたったようだ。

不安な時は、仕事などやるべきことがあったほうが、すっと前に進める。毛玉と格闘しているうちに、重い気持ちがほぐれていった。



途中で正式発表があった。

弟子入りして以来ずっとお世話になっている皆さんに、感謝の連絡を入れた。商業写真で学んだことがあったからこそ、今の自分があると改めて実感する。

厳しい世界で奇跡的に続けてこられたのも、思い切って『最後の記念写真』に全力を注げたのも、あたたかく見守ってくださった皆さんのおかげだ。


ホテルにチェックインし、送っておいたおかもちと新品の制服と再会。

「どこから?」と聞かれてもいいように、お店のカードもすぐ出せるようにした。

さっそく少し細工して、肩掛けにもできるようにした。


ホテルでおかもちにベルトを取り付けられるようにした
これで何かあった時は両手が使える



出前スタート
全くトラブルなく普通につけた
電車でも出前はできそう


結果発表後、Xで他の受賞者の方と初めてやり取り。

「授賞式でお会いできるのを楽しみにしています」
と声を掛けていただいたが、まさか出前持ちが居るとは思わないだろうから、ひょっとしたらずいぶん距離感を感じるかもしれない。


なんというオシャレな……
一瞬怯んだ


会場に着いた。
一度通り過ぎて様子を伺い、離れた場所でひと息ついてから、会場へ入った。

受付で運営の方がたくさん並んでいた。

「幸せとお寿司を運ぶ桜すしでーす」

と一発入れようと思っていたが、そんな余裕はなかった。

「おめでとうございます」
と声を掛けてくださる皆さんは、かなりにこやかだった。

あれ?なんだかあったかい。
会う人会う人、想像以上にあったかい。

運営の方には、個人的に看板の前で記念写真も撮っていただけた。

「これ、なんですか?」
と声を掛けてもらえた。

「出前のおかもちです。お寿司を運ぶものなんですよ」
おかもちは、私物を入れているので、ちょうど三人前ぐらいの重さだった。

「よかったら持ってみますか?」
と勧めて、持ってもらうと
「うわぁ〜けっこう重い〜」
と出前文化を体験してもらう機会にもなった。

余裕がある時は、名刺とお店のカードも一緒に受け取ってもらえた。


メダルはずっしりと重たかった


どうしても会ってお礼をしたかったみねのもみぢばさんにも直接お会いできた。

みねのもみぢばさんは、昨年の大賞受賞者で、今年はベストレビュアー賞を受賞。
釣り堀『量山園』のレビューを書いて下さった。

お寿司が大好きだという出版社の方ともお話しができた。

「これがどうしても気になって。あとアフロ最高ですね!」
と声をかけていただくこともあった。



出前持ちスタイルで参加したので、受賞作の写真と一致しない部分があり、戸惑った方もいたようだが、説明するとすぐに打ち解けることができた。

結果、出前持ちスタイルで参加することによって、多くのあたたかい気持ちに触れる事ができた。

ジャケットで行くより、数倍喜んでいただけたと思う。


運営の方に撮ってもらったら
僕より撮り方が上手かった


『だれもが創作を楽しんで続けられるように』

仕事や創作でうまくいかないことも、たくさんあると思います。
僕も、中間選考に通過できないようだったら、大きく見直しをしないといけないなと感じていました。

反省や軌道修正も大切です。

ですが、自分の内面を落ち着いて見つめる。
どうしてもと感じたら、そのまま動けばよいのだと思います。

常に全てが整った場所は、どこにもありません。
撮影も創作も同じだと思います。

ただ、その中でベストを尽くしたかどうか、「尽くそうとしたか」が大事なのだなと、改めて感じることができました。

入選という立場ですが、どんな状況でもベストを尽くせば必ず結果は出るということを少しは見ていただけたかなと思います。

創作大賞というコンテストから、たくさんの学びを得る機会になりました。


今回の出前持ちスタイルでの参加を通して、

僕が想像していたよりもずっと、noteに執筆している方も、運営の皆さんも、そして受賞者の皆さんも、驚くほどあたたかいということを肌で感じることができました。


「ジャケットではなく、誇りある制服を纏う」

という僕なりのささやかなリスペクトは、思っていた以上に、やさしく受け入れていただけたようです。
こんな経験ができたのも、創作大賞のおかげです。


この旅を支えてくださった大将や、写真の仕事を下さった皆様、

そしてこの活動に光を当ててくださったnote運営事務局の皆様、

なにより、僕の少し不器用な物語を読んでくださったすべての皆様に、心より感謝申し上げます。

これからも、皆さんが大切にしている心を未来に届けるために、おかもちとカメラバッグを手にして旅を続けようと思います。

ありがとうございました。




『未来にあてた、普通の写真』シリーズは、ありがたいことに創作大賞2025に入選しました。

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