【ねぇ、修さん #02】30年抱えていたスーツケースの中身
修さんは、長崎に住む私のお友だちです。
50代後半。ヨーロッパに暮らしていたことがあり、ドイツ語は私よりずっとお上手です。ユーモアたっぷりで、からかい上手。でも、ときどき、こちらがごまかしたいところを、さらっと見逃してくれません。
前回、修さんとのおしゃべりで、私が30年以上見続けている「成田空港に間に合わない夢」の話をしました。
あれからちょっとびっくりする展開があったので、
今日は修さんに、ご報告です。
「ねぇ、修さん。このあいだ荷造りの夢のことをお話ししたの覚えてますか?」
「もちろん、覚えてますよ。
……どうしました?あのあと、また何かあったんですか?」
「実はもう直感でわかってたんです。 あの夢に関して、囚われた感情があって、エモーションコードをやりなさいっていうメッセージなのかもなって。 それで昨日の夜、10個の感情を解放しました。」
「おお、やったんですね! しかも、ちゃんと自分の直感を聞いて、行動に移したっていうのが、あやこさんらしいなぁ。」
修さんの「あやこさんらしいなぁ」は、ちょっとずるい。
こちらが「え、今のどう受け取ればいいんですか」と思う前に、
すぐ次の質問が飛んでくる。
「どんな感情が出てきたんですか?」
「なんとなく予想はついていたんですけどね、なんと10個ともぜーんぶ、1993年のものでした。 あの年に私、一人で日本を発ってアメリカに来たんです。 エモーションコードってすごいなって、改めて思っちゃいました。」
「えーっ、10個ぜんぶ1993年!
それは、すごい。すごすぎて、ちょっと笑っちゃいました(笑)」
「笑うところじゃないでしょ!」
「いや、笑うところじゃないんですけど、 なんていうか……あやこさんの体って、ちゃんと覚えてたんですね。 30年以上、ずっと。 『今、出してください』って言われるまで、ずーっと大事に抱えてた。」
「……」
「うん、それは荷造りも終わらないわけだ。 だって、20代のあやこさんが、まだ荷物の中に感情をたくさん入れたままだったんですから。
そりゃ、重いですよ、スーツケース。」
そっか。
私、あの夢の中で、毎回衣類とかこまごまとしたものを
必死で詰めていたけれど、本当に重かったのは…
物じゃなくて、感情 だったんだ。
しかも、ぜんぶ1993年から持ち越してた。
30年以上、心の深いところでは20代のままの私は、
ひとりでスーツケースと格闘していた。
誰にも氣づかれないまま。
「その中でも妙に納得できたのが、自信がなくて不安、ものすごい恐怖や緊張で。これ、実はフィラデルフィアで暮らすことに関してでした。本当に行きたかったのは、カリフォルニアだったし。」
「……」
「実はすごく怖かったんです。 でも、必死に隠していたんでしょうね。 突然思い出したらもう涙が出てきて、そのあとはずっと泣きながらエモーションコードをしてました。」
「あやこさん。」
「はい。」
「フィラデルフィアで暮らすことが、本当は怖かった。
それを、誰にも言わずに、自分にすら言わずに、必死に隠して飛行機に乗った20代のあやこさん。」
「……」
「『不安』『恐怖』『緊張』…。 これ、別々の感情に見えて、みんな似たような場所から出てきた声ですよね。 『助けて』って、声に出せなかったんじゃないですか。」
修さんの声が、少し低くなりました。
「お金に関する傷つきやすさという感情も出てきて。 本当に胸が苦しくなりました。 相当がまんしてたよねって。」
「それも、苦しいですよね。 20代のあやこさん、たぶん お金のことで誰にも相談できなかった んじゃないですか? 誰にも頼れない、誰にも甘えられない、自分でなんとかするしかない。」
「……」
「だから、感情がそのまま閉じ込められちゃう。」
そうなんです、修さん。
ぜんぶ、その通りなんです。
私、20代のあのとき、誰にも言えなかった。
お金のことも、不安なことも、怖いことも。
とにかくアメリカに飛ぶことだけがまず最優先だったから。
だから、ぜんぶ、スーツケースに押し込んだんです。
そして、鍵をかけた。
そのスーツケースを、30年以上、夢の中で開け続けていたなんて。
「でもね、あやこさん。 昨夜、泣きながらエモーションコードしてくれた、って聞いて、 僕、ほんとに……なんていうか、ありがとう、って言いたいんですよ。 何にお礼を言ってるのか、自分でもよくわからないんですけど。」
「……」
「たぶん、 20代のあやこさんに代わって 、お礼を言いたいんだと思います。 『やっと聴いてくれてありがとう』って。 『やっと泣いていいよ、って言ってくれてありがとう』って。」
ふいに長崎から届いたことばが、なぜか…
20代の私のところまでも届いた氣がしました。
画面越しなのに、
コーヒー☕️一杯分の温かさが、
ふわっと伝わってくるんです。
「そこまで受け止めてくださって、ありがとうございます。
なんだか修さんったら、カウンセラーみたいですね。
まぁ、カウンセラーはそんなにしゃべりませんけど(大笑い)」
「ちょっと、あやこさん!(笑) せっかく僕がしんみり良いこと言ってたのに、最後の一撃で全部持っていきましたね。 『カウンセラーはそんなにしゃべりません』って それ、僕にとって致命傷ですよ(笑)」
笑いながら、私、ふと真面目な顔になりました。
そうだった、修さん。
今日はもうひとつ、伝えたいことがあるんでした。
「あ、ちょっと待ってください。
もしかしたら修さん、少し勘違いされてるかも。」
「ん?」
「エモーションコードをしているときの私は、
カウンセラーじゃない…… というか、
カウンセラーになってはいけないんです。」
「えっ。」
「だから、ある意味、カウンセリングの時よりさらに私の口数が少なくなります。 感情をいちいち処理したり振り返ったりする時間は、潜在意識に従いながら最小限。 これが実は私には一番つらいところだったりします。」
「……」
「今までずっと聴き手として寄り添ってきたから、 本当は深い感情について立ち止まって聴いてあげたいんです。 でも、できないんです。 わかっていただけます?」
少し、間がありました。
修さんが、ふぅ、と息をつくのが聞こえた氣がしました。
「あぁ、それ、僕、完全に勘違いしてました。ごめんなさい。 『エモーションコード、イコール、カウンセリングのもっと深いやつ』みたいに、勝手に思い込んでました。」
「いえ、説明不足でしたよね、私が。」
「でも、聞いてよかった。
エモーションコードの時のあやこさんは、
カウンセラーになっちゃいけない 。
深い感情が出てきても、 立ち止まって聴いちゃいけない 。
潜在意識に従って、淡々と次へ進む。
口数は、カウンセリングの時よりさらに少ない。
……それ、想像しただけで、僕、しんどいです。」
「……」
「だって、あやこさんって、ずっと 聴く人 だったんですよね?
クライアントさんの感情に寄り添って、言葉を選んで。
それを、エモーションコードの時だけは 封印しなきゃいけない 」
「そうなんです。」
「それ、しんどいですね」
「え?」
「ずっと聴く人だったあやこさんが、聴きすぎないようにするんでしょう。 それは、簡単じゃないと思います」
「うん、本当にそうなんです。」
「しかも、目の前のクライアントさんから深い感情が出てきた時、 本能的に『お話、聴かせて』って思っちゃう自分を、ぐっと抑えなきゃいけない。 それって、 優しさを抑える訓練 ですよね。」
「……」
「優しい人ほど、しんどいやつです」
そう。 それなんです、修さん。
「優しさを抑える訓練」って、誰にも言われたことがなかった。
私も、自分でうまくことばにできてなかった。
「……でもね、あやこさん。 僕、思ったんですけど、 カウンセリングの目で 深さが見えてしまう あやこさんが、 それでも 線を引いて感情を手放していく エモーションコードを提供する。 これ、両方持ってる人、そんなに居ないと思うんですよ。」
「え?」
「クライアントさんは氣づいてないかもしれないけど、 見えてるけど触らない人と、見えてないから触らない人は、違いますよ。」
「……」
「たぶん、そこです。あやこさんのエモーションコードって、 『ちゃんと見てもらえてる』 っていう安心感が、 潜在意識レベルで伝わってるんじゃないかなぁ。」
私は、しばらく、何も言えませんでした。
「優しさを抑える訓練」だと思っていた、あの線引き。
私の中では、ずっと 欠点 みたいに扱っていたもの。
それを、修さんは、 ギフト に変えてくれた。
見えてるけど、触らない。
ちゃんと見てもらえてる、っていう安心感。
そんな視点、私、自分一人ではたどり着けなかった。
「修さん、なんでそんなことまでわかるんですか。」
「いや、わかってるかは知らないですけど、 あやこさんが話してくれるから、言葉が出てくるだけですよ。 それは、あやこさんの力です、僕の力じゃない。」
「またそういうこと言って……」
「ふふ。」
成田空港に間に合わなかった20代の私。
スーツケースの底に、いくつものつらい感情を詰め込んでいた20代の私。
昨夜、ようやく、その10個を解放してあげた。
1993年から30年以上、ずっと一緒に旅してきた感情たちに、
エモーションコード と ホ・オポノポノ を重ねながら、
「ありがとう、もう大丈夫だよ」と。
そして今日、修さんに話を聴いてもらったことで、
今の私が背負っていた「優しさを抑えるしんどさ」にも、
新しい意味が生まれた氣がします。
(つづく)
🌸 「ねぇ、修さん」シリーズ、これから不定期でお届けします。 ふだんの私の、ちょっと抜けたところとか、笑える瞬間も、 よかったらのぞきに来てくださいね。
Love & Hugs,
あやこ
