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フィラデルフィアでデートしていた彼女の夫が軍人になっていた

──私が知らなかった“もう1つのアメリカ”

■ Facebookで見た「別の現実」

数日前、Facebookを何気なく開いた。見覚えのある名前がタイムラインに流れてきた。フィラデルフィアに住んでいた頃、何度かデートしたことのある女性だった。投稿にはこう書かれていた。

“Seeing John graduate”

写真を開くと、そこには軍服を着た男性が立っていた。

彼女の夫だ。

小さな娘が、その男に抱きついている。彼は笑っている。彼女も笑っている。

私は一瞬、こう思った。

West Pointか?

だが、違った。

それは士官学校ではなく、もっと“普通のアメリカ”だった。

■私が知っていたアメリカ

私はフィラデルフィアで、Temple Universityに通っていた。この学校は典型的な東海岸の大都会の大学だ。多種多様なバックグラウンドの学生が在籍することで生まれるリベラルな空気。特に時の大統領はBarack Obama。オバマ民主党のリベラルな価値観が深くコミュニティに刻まれていた。

私はその中で、こういうリベラルなアメリカを見ていた。都市部・知識層・リベラル・寛大な言葉による世界。そして、無意識にこれらを「アメリカそのもの」だと思っていた

■Levittownというもう1つの入口

彼女はペンシルベニア州はLevittownの出身だった。Levittownは、アメリカ郊外の象徴のような場所だ。第2次世界大戦後に大量に作られた住宅地。均一な家。車社会。中間層の生活。当時の私は、それを「ただのアメリカの郊外」として見ていた。

だが今思えば、そこは「もう1つのアメリカの中心」だったのだ。

■FBの写真が示していたもの

彼女の夫は軍人になっていた。ただしそれは、私がイメージしていたような"軍人”ではない。恐らく、州兵 (National Guard)だ。つまり、普段は民間人だが、有事の時は軍人になる人たちだ。分かり易く言うと、市民兵  (citizen-soldier) とも言えるかもしれない。

■軍が社会に埋め込まれている国

ここで初めて理解する。アメリカでは軍は特別な存在ではない。教師が軍人、店員が軍人、父親が軍人。そして、週末に訓練し、必要があれば戦場にも行く。日本人の感覚だと、「軍人=完全に別世界」となりがちだ。

だがアメリカでは違う。軍は社会の内部にある

■2つのアメリカ

ここで構造が見える。

① 都市部のアメリカ(私のいた世界

  • 大学

  • リベラル

  • 言論

  • 政治思想

② 郊外のアメリカ(彼女の世界)

  • 家族

  • 中間層

  • 実務

この2つは、同じ国に存在しているが、普段は殆ど交わらない。

■一瞬の交差

しかし、私の人生の中で1度だけ、この2つは交差している。フィラデルフィアで彼女と会っていたあの時間だ。もし、ほんの少し違っていればどうなっていたか? 私はそのままアメリカに残り、彼女と結婚し、この写真の中にいたかもしれない。

だが現実は違う。私は日本に戻り、地方の家業を継ぎ、全く別の人生を歩いている。同じ都市、同じ時代、同じ接点から全く異なる人生が分岐した

人生とは奇妙で本当に面白い。

■軍という「上昇装置」

もう1つ重要なのは軍の役割だ。アメリカにおいて軍は、単なる安全保障装置ではない。社会的上昇 (mobility) の装置でもある。学費支援、医療支援、安定した収入、コミュニティ。特に郊外や地方では、アメリカ軍への入隊は“現実的な選択肢”だ。Templeのクラスメイトにもアフガニスタン帰りやイラク帰りの学生が複数いた。

アメリカ軍 = 上昇装置」の最も分かり易い例が、JD Vance副大統領だろう。彼は貧困家庭の出身。高校卒業後に、海兵隊に入隊し、戦争を肌で経験した。除隊後、オハイオ州立大学で政治学を専攻。その後、Yale Law Schoolを卒業し、サンフランシスコのVCで働いていた。自分の半生を語った本が大ヒットし、その後、連邦上院議員になった。まだ1期目ではあったが、トランプ大統領の2024年の大統領選のランニングメイトとなり、現在は史上最年少のアメリカ副大統領となっている。彼の人生を振り返ると、海兵隊入隊がターニングポイントなのは間違い無いだろう。

■私が見ていなかったもの

私はフィラデルフィアで、オバマ大統領、民主党、リベラルな政治哲学を見ていた。だが、アメリカの大部分はそこにはないのだ。アメリカの大部分は、Levittownのような郊外にあり、家族との生活の中にあり、時として軍とも結びついている。私が住んでいた「都市のリベラルなアメリカ」だけでは、この大国は説明できないのだ。

■結論

最近見たFacebookの写真は、単なる州兵の卒業式ではない。改めて、アメリカという国の構造そのものを映し出していたのだ。

  • suburb(郊外)

  • family(家族)

  • military(軍)

  • mobility(上昇)

そして私は今、かつて見ていたアメリカと知らなかったアメリカを同時に見ている

フィラデルフィアでデートしていた彼女の夫が軍人になっていた。それはただの近況ではない。私が見ていなかったアメリカの現実だった。



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