ミサイル防衛はどこまで持つのか?
――中東で起きている「迎撃ミサイルの消耗戦」
最近のイランでの戦争で、ある問題が改めて浮き彫りになっている。
「迎撃ミサイルは、想像以上のスピードで消耗する」
これは以前から私がXで議論してきたテーマでもあり、エルブリッジ コルビー (Elbridge Colby)などのワシントンDCの専門家が真剣に警告してきた問題でもある。そして、今回の戦争はそれをかなり露骨な形で示している。しかも、これまで懸念を示してきたコルビー自身が国防次官として、この戦争の先頭に立っているのが最大の皮肉だ。
■湾岸戦争との比較
1991年の湾岸戦争では、イラクのサダム・フセイン大統領 がイスラエルへ 42発、サウジアラビアへ 46発のミサイルを発射した。当時はこれでも大事件だった。しかし現在の基準から見ると、これは「軽い攻撃」に見える。今回の戦争では、イランは最初の3日だけで300発以上の弾道ミサイルをイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)に向けて発射した。更に他のアラブ諸国にも数百発が撃ち込まれている。

■ミサイル防衛は「2発撃つ」
迎撃の問題はここからだ。防空部隊側は通常、
迫ってくる1発のミサイルに対して2発以上の迎撃ミサイルを撃つ。
確実に撃墜するためだ。つまり、例えば300発の攻撃に対して、600発以上の迎撃という消耗が必ず起きる。イラン既に400発以上のミサイルを発射したことを考慮すると、推計では、アラブ諸国は数日で約800発の迎撃ミサイルを既に消費した可能性がある。
■湾岸諸国の防空システム
因みに、湾岸協力会議(GCC)の国々はかなり近代的な防空システムを持っている。主力は、パトリオットミサイルやPAC‑3 MSE、そしてTHAADといったアメリカ製システムだ。だが、問題は弾薬の消費速度である。
■生産能力が追いつかない
現在のこれらのミサイル防空システムの生産能力はこうだ。PAC-3迎撃ミサイルは年間で約600発、THAADは年間で約96発。しかし今回の戦争では、数日で数百発が消えている。つまり、数日分の戦闘で年間生産量が消えるという計算になる。
■これは中東だけの問題ではない
ここで重要なのは、この問題が中東だけの話ではないことだ。アメリカは、中東、ヨーロッパ、インド太平洋の各重要地域の全てでミサイル防衛を必要としている。そして既に、ヨーロッパのNATO加盟国はウクライナ支援のためにアメリカから迎撃ミサイルを購入している。アメリカ自身も備蓄が圧迫していて、日本がアメリカの備蓄を補うためパトリオットをアメリカに逆輸出しているという状況に陥っている。

■つまり何が起きているのか?
これは、かなり単純な話だ。攻撃兵器の方が安く、大量生産できる。迎撃兵器は高価でしかも生産が遅い。つまり防御側が消耗する非対称な戦争になり易いのだ。
■コルビーが言っていたこと
ここで思い出すのが、コルビーの議論だ。彼はずっとこう言っていた。「アメリカの軍事資源は有限。ヨーロッパや中東に使えば、台湾防衛が弱くなる」と。ウクライナやガザでの戦争が激化する度に、コルビーは本来は台湾有事で使用するべきミサイルの在庫数を強く懸念していた。この議論は、今回の戦争でかなり現実味を帯びている。
■最後に
この戦争は、ミサイル vs 迎撃ミサイル という消耗戦の典型例になっている。そしてそれは同時に、新たな21世紀の戦争の構造を示している。「攻撃は安く、防御は高い」戦争の構造だ。この非対称性がある限り、迎撃ミサイルはどこかで必ず不足する。そしてそれは、中東でも、ヨーロッパでも、そして恐らく台湾でも同じ問題になるだろう。
この話は動画で観ると分かり易い。The Economistが上手く動画にしているので、参考までにご覧ください。
参考ソース:
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