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エルブリッジ・コルビーは「変節」したのか


――台湾有事から西半球覇権へ、アメリカ戦略の静かな転換

トランプ政権の安全保障戦略を事実上設計している中心人物は、国防次官の エルブリッジ・コルビー (Elbridge Colby) である。

就任前のコルビーは、アメリカの安全保障戦略の最優先事項は台湾有事だと繰り返し明言してきた、いわゆる対中強硬派の論客だった。

NATO加盟国の国防費を底上げし、ロシアはNATOに任せる。その上で、アメリカは限られたその軍事資源をアジア太平洋に集中させる。これは一貫した、極めてリアリスト的な戦略構想だった。

彼はまた、アメリカの兵器製造能力や弾薬備蓄の限界を強く意識していた人物でもある。
本来は台湾有事に備えるべき限りある攻撃能力を、フーシ派掃討のような優先度の低い軍事行動で消耗することに、明確に否定的だった。

ところが、就任後のコルビーの姿勢は、明らかに変わったように見える。

彼の下でアメリカは、空母機動部隊を派遣し、一国(ベネズエラ)の首都を急襲し、その大統領(マドゥロ)を拘束するという、極めてエスカレーティブな軍事行動を容認した。

これは、従来の「兵器消耗を極端に嫌うコルビー像」とは、正面から矛盾しているように映る。

だが、この変化は「変節」なのだろうか。私はそうは思わない。

むしろこの1年で、台湾有事におけるアメリカの勝算評価そのものが、大きく下方修正されたと考える方が自然だ。

台湾有事は、もはや短期決戦にならない可能性が高い。中国のA2/AD能力は進化し、アメリカの前方基地や空母は初動で大きな損害を受けうる。しかも、精密誘導兵器や弾薬の補充速度では、アメリカは中国に劣る。

加えて、日本、韓国、欧州諸国などの同盟国の国内政治は不安定化し、「決定的瞬間にどこまで協力するか」は以前より不透明になっている。

こうした条件下で、台湾有事は勝てる戦争ではなく、負ける可能性のある戦争へと変質しつつある。

コルビーがもし、「勝てない可能性が高い主戦線」に国家の全リソースを張る人物だとしたら、それこそ彼はこれまで主張してきたリアリズムを裏切ることになる。

だからこそ、戦略軸は動いた。

就任後のコルビーが最優先に据え始めたのは、
モンロー主義を彷彿とさせる「西半球におけるアメリカの覇権確立」だった。この動きを、アメリカのメディアは、「Donroe Doctrine」や「Trump corollary」と呼んでいる。

西半球は、アメリカから見ると、補給線が短く、
同盟国ではなく勢力圏として支配でき、中国やロシアといった他地域のプレイヤーが本格介入しにくい。

つまりそこは、「勝てる」どころか「絶対に負けない覇権」を構築できる唯一の空間である。

台湾で不確実な勝利を追うよりも、西半球で確実な覇権を固める。

これは後退ではない。戦略的再配置である。

一見すると、ベネズエラの首都急襲は、コルビーの思想と矛盾するように見える。

だが実際には、「どこで消耗するか」を選別した結果にすぎない。

台湾という高リスク・高コストの戦域から距離を取り、西半球という低リスク・高確実性の空間で、アメリカの力を可視化する。

そのための示威行動だと考えれば、この一連の動きは、むしろ極めてコルビー的だ。

キューバも次の標的だろう。グリーンランドもデンマークから奪い去るかもしれない。そこには国際法も糞も無い。あるのは、アメリカの軍事力を最大限に用いた「力の行使」だけ。アメリカに従わない国は叩きのめす。モンロー主義 2.0だ。

コルビーは変節したのではない。彼は、台湾有事での敗北確率を正面から織り込んだのだ。

そしてそれは、アメリカがすでに「世界覇権」から「勝てる覇権の再定義」へと移行しつつあることを示しているのかもしれない。

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