「Go big and go fast」は戦略的一貫性か、それとも崩壊か?
── JDヴァンスとイラン攻撃が示す構造転換
2026年2月28日、トランプ政権がイスラエルと共にイランを攻撃。その過程で、イランの最高指導者のハメネイ師が殺害された。
私がXでフォローしてるいるアカウント、Republicans Against Trumpの以下の投稿でJD Vance副大統領が「限定攻撃に反対し、やるなら“go big and go fast”だ」と主張し、トランプ大統領をより強硬な方向へ動かした旨の報道を読んだ。

これは単なる政策選択ではない。これは、トランプ政権の安全保障OSが試される瞬間である。
① JD VanceはMAGA/孤立主義者だったはずだが?
JD Vanceは自分の従軍経験を踏まえて、これまで、「終わりなき戦争に反対」、「自身が現場で経験したイラク型 nation-building に反対」、そして、これらの経験から「中東への過剰関与に懐疑的」と語ってきた。
しかし彼は常にもう一つのことも言っている。「曖昧で長引く戦争こそ最悪だ」と。つまり彼のロジックはこうだ。「小規模な限定攻撃は事態の エスカレートに繋がり、結局は泥沼化する」と。それなら最初から「一気に決定的打撃を与えろ」ということだろう。これは孤立主義ではない。むしろ、曖昧さを嫌う強硬リアリズムなのかもしれない。一方アメリカの対外戦争関与を忌避し、孤立主義的な傾向を持つ人物だと推測していただけに、JD Vanceの変節に私はびっくりしている。
② しかし問題は「短期で終わるか?」だ
今回、既にホルムズ海峡が封鎖された。これはもう中東の局地戦ではないのだ。ホルムズ海峡は世界の原油輸送の要衝。エネルギー価格が急騰する可能性がある。世界的なインフレが再燃するかもしれない。ヨーロッパとアジアの経済に同時に打撃を与える可能性も十分にある。ここでアメリカ軍が湾岸に拘束されれば、トランプ政権の一部が考えている中国集中戦略は揺らぐ。
③ 『The Strategy of Denial』との緊張
中国集中戦略。ここで避けて通れないのが、現トランプ政権の国防次官のElbridge Colby氏の著書"The Strategy of Denial"である。私の愛読書の1つだ。

この本の核心は明確だ。
• アメリカの軍事資源は有限
• アメリカの主要な脅威は中国
• 中東やヨーロッパへの過剰関与は戦略的分散を招く
• アメリカ軍はインド太平洋に集中すべき
つまり、「他戦域で消耗すること自体が敗北条件になる」という思想である。彼はトランプ政権きっての対中強硬派。「アメリカの有限の戦力をアジア太平洋以外の地域で無駄にするべきではない」と長年主張してきた人間だ。ホルムズ封鎖、地上軍の可能性、アメリカ海軍拘束。これらは正にColbyが警戒してきた“戦略的分散”そのものだ。仮に今回の作戦が短期で終われば整合は保てる。だが長期化すれば、それは『The Strategy of Denial』の前提を揺るがす。
なぜなら、中国に集中するための戦略が中東で再び拘束されることになるからだ。海南島事件で見えた米中の覇権争いが、911により、アメリカの関心が中東に向かい、その結果、中国がほぼ20年間もフリーハンド状態になり、その軍事的台頭を実現した。今回のイランへの攻撃はその焼き直しになりかねない。また、アメリカは再び20年も無駄にするつもりなのだろうか? 中国の現在の国力を考慮すると、アメリカにはもうそんな余裕は無い。
④ 「大きくやる」は合理的か?
JD Vanceの主張はありふれた軍事戦略ではある。曖昧な戦争より、最初から圧倒的にやる。だが歴史は何度もその難しさを示してきた。ベトナム、レバノン、アフガニスタン、そしてイラク。アメリカの失敗例だけでも幾つもある。「短期決着」のつもりが、長期拘束に変わるのだ。中東は特にエスカレーションの構造を持つ地域だ。
イラク戦争開戦前、ブッシュJr大統領は数ヶ月で片付くと宣言した。アメリカ軍の大規模撤兵には10年も掛かった。泥沼化は避けられない。JD Vanceがその泥沼化で20代を無駄にしてしまい、人生が大きく変わったアメリカ人の最たる例だ。
⑤ 本当に問われていること
今問われているのは、トランプ政権が
① MAGA派(孤立主義)
② Republican Traditional:(保守本流)
③China Hawk(対中強硬派リアリスト)
④金融市場優先派
という4層構造を維持できるかどうかだ。ホルムズ封鎖はこの4層すべてを同時に揺らす。そしてそれは、「コルビー氏の中国集中戦略の理論的純度が、現実の地政学に耐えられるか?」というテストでもある。
結論
「Go big and go fast」は理論的には一貫性を保ち得る。だが前提は1つ。「本当に短期で終わること」だ。もし地上軍が入るなら、それは戦術の話ではなくなる。それは、『The Strategy of Denial』が想定した戦略的集中が、現実の中東で揺らぐ瞬間である。今回のイラン攻撃は、単なる中東の戦争ではない。これは中国集中戦略が最初に試される歴史的テストなのだ。
