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小説『Snowdrop Surfer』第二部・一話:【凍える現実と、捨て駒の方程式】

(簡単なあらすじ)
理不尽な左遷により、北海道の赤字企業で四刀流の過酷な新社長業に奮闘する元芸人、トップセールス・佐々木真二郎。

前回、本社から突きつけられた「ホクセイ解体と自身のクビ」という非情な最後通告に、真二郎は品川駅のホームで極限の絶望に囚われる。だがその瞬間、右肩を叩く温もりと「道が険しいのは本物の山を登っている証拠」という言葉に魂を救われる。大切な家族、そして北海道で待つ西田顧問や松原、杉山ら現場の仲間たちと「真実の山」を登りきる覚悟を決め、真二郎は再び凍てつく北の大地へと這い上がる。(第十七話・第一部完結)

【前回】


【第二部:静かなる逆襲の序曲】


第一話【凍える現実と、捨て駒の方程式】

新千歳空港の到着ロビーを出た瞬間、
東京の軽やかな春風とは対照的な、刺すような冷気が俺を包み込んだ。

時折強く吹き抜ける風は、まだ身震いするほどの鋭さを保っている。
薄手のコートの襟を立て、俺は再び「北海道の現実」へと引き戻された。

品川駅のホームで感じたあの温かな手のひらの感触は、今も右肩に残っている。
だが、目の前に広がる景色は、相変わらずの鈍色にびいろの空と、泥を孕んだ重い雪の残骸だった。

帰りの機内、閉じた瞼の裏で、
太田会長の冷徹な言葉が何度も甦る。

『ガラクタ』
『ホクセイの解体』
『特許権の剥奪、移管』

そして、それらをつなぎ合わせるミッシングリンク ───
雪明ゆきあけグループとの復縁』

俺は思考を研ぎ澄ませた。

来輝ライキ
雪明
そして、ホクセイ。

三者の思惑が、複雑に絡み合った盤面として脳裏に浮かび上がる。

雪明グループが狙っているのは、
ホクセイ産業が持つ『海洋生分解性プラスチック』の特許権の独占使用だ。
だが、そこには来輝との忌まわしい過去の確執が横たわっている。

もし、このまま雪明グループと来輝の関係が修復不能となれば、
ホクセイ産業は売上の半分、約七億円を失う。

それは、即座にこの小さな会社の死を意味する。
そして、雪明側は すでに水面下で動いているはずだ。

特許の抜け道を調査するか、あるいは西田顧問に圧力をかけて株を買い戻させ、来輝を追い出した上で特許権を自社へ譲渡させる……。

「いずれにしても、雪明グループにとって来輝は邪魔だ。だが……」

俺は、もう一つの残酷な可能性に気づき、思わず足を止めた。

「うち(来輝)にとっても、ホクセイ産業の存続は絶対条件ではないのか?」

仮に雪明グループとの交渉が決裂し、
ホクセイ産業を解体して特許権を来輝本社へ移管したとする。

その場合、来輝は雪明グループのライバルである「森谷ホールディングス」や「高山食品グループ」といった競合各社へ、大手を振ってこの技術を売りに行くことができる。

食品メーカー、化学メーカー、他業種。
売り先ならいくらでもある。

来輝という組織は、最初から「二段構えの罠」を張っていたのだ。

雪明グループと復縁できれば、それはそれで巨大な利を得る。
決裂すれば、ホクセイ産業をスクラップにして特許だけを吸い上げ、
技術を自社の管理下に置き、それを武器に別の巨大資本(ライバル企業など)へ独占販売を仕掛ける。

どちらに転んでも、三千億企業の来輝は傷つかない。
唯一の「損失」として切り捨てられるのは、
工場で油にまみれる杉山たち社員と、その背後にいる家族。

そして ───
責任をすべて押し付けられて排除される俺だけだ。

胃の奥が、きしりと音を立てた気がした。
(……ふざけるな)

来輝の、あまりに冷徹で、人間を軽視した、それでいて洗練された戦略。
その完璧すぎる「悪意のないシステム」に、
俺は体の奥底から這い上がってくるような恐れを感じていた。

だが、泣いたって誰も助けてはくれない。

品川駅のホームで一瞬現れた、松下幸之助さんのあの穏やかな笑顔。
そして今、雪の少なくなった北海道を訪れ、春を待ちわびる家族連れや観光客たちの期待に満ちた笑顔。

それらの眩しい景色とは対照的に、駐車場へ向かう俺の身体は、北の大地の凍てつく冷気と、
自分の置かれた立場への凍り付くような恐怖とが入り混じり、震えるほど冷え切っていた。





お待たせしました!
第二部スタートいたします。

当面は土曜日18:30頃更新を行う予定です。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。



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▼著者、本気で競技サーフィンをしています!

▼まだお読みでない方は、ぜひご一読くださいませ


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