【歴史小説】信長を救った男 第二章2
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第二章 池田城攻防2
「猿めが鉄砲で追い払われたぞ、赤い尻を隠しもせずに逃げ帰ったわ」
織田勢の第二陣を率いる柴田左京大進勝家は、笑いながら周囲に大声で呼ばわった。勝家はあごひげを右手でしごきながら、この機会を生かさねばと腹の内で思った。織田家中での、己の立場はいまだ盤石ではない。織田上総介信長が家督を相続した当初、勝家は信長の弟、武蔵守信勝について織田家の家督を争った。その後、信長に許され、信勝も信長に謀殺されたが、現在も完全に織田家内で地歩築いたとは言い難い。猿のおかげで、池田城の戦力のほどは知れた。それを生かして池田城を攻めつぶさねばならない。決意を込めて、先陣に対して攻撃を命じた。
「権六の猪武者め、池田の鉄砲で撃たれて猪鍋にでもされればいいわ」
木下藤吉郎は、勝家を権六と呼び捨て、大声でそう呼ばわった気分になるために、腹の中でそう喚き散らした。織田家中で立場が上の勝家に対し、今は残念だがそのようなことを言うわけにはいかない。己の兵を下げ、少ない供回りを連れて、織田勢第二陣の城攻めを遠望していた。そして第二陣の前方に現れたものを見て舌打ちを禁じえない。
権六め、ただの猪武者ではない
村重は城南側の物見櫓から、迫りつつある織田勢の第二陣を見て、侮りがたい相手であることを再度確認する思いだった。その先頭に背の高い竹束が林立し、壁のようになっている。竹束の壁が城に近づいてくるようであった。

竹束とは、青竹を数十束ねて、縄で結んだものである。鉄砲でも竹を束ねられると貫通することはできない。織田勢は、その竹束を数名の兵で持ち、前面に押し立てて、壁のように並べ、城に迫ろうとしていた。
「村重殿!」
物見櫓の下から、中川瀬兵衛が大声で村重を呼んだ。村重はそれにこたえるかのように大声を張り上げて指示した。
「先刻と同様に、引き付けて撃つぞ!」
そう言った後に、櫓の下の瀬兵衛を見て一つ頷いた。それを見た瀬兵衛も頷き返す。その間にも、竹束の壁は城に迫ってくる。
「構え!」
村重はその掛け声から、一拍おいた。少しでも竹束の壁を引き付けるつもりだった。
「撃てぇ!」
村重の号令と共に、夥しい数の鉄砲が火を噴き、轟音が戦場に響き渡る。しかし、先刻の第一陣の時のように一時、その轟音と威力に押されたように前進が止まった。竹束をも討ち抜いたか。村重は一瞬そう思ったが、しかしすぐに、また竹束の壁の前進が始まる。
「次ぃ!」
第一射で前進を止めない、織田勢に対して、再度第二射を浴びせるよう、村重は号令する。
「撃てぇ!」
第二射が轟音を立てて織田勢の竹束へ襲い掛かる。再度の一斉射撃を受けた、竹束の壁は、再度その前進を止めた。どうだ、村重は前進を止めた竹束の列を凝視する。しかし、また前進を開始した。いや、前進しない竹束もある。第一射より第二射は、多少といえども距離が詰まったので、討ち抜いた竹束もあったか。村重は腹の内で、そう考えたが、その後すぐの動きで考えを改めた。竹束が進み続けるもの、留まるもの、交互に一定の間隔をおいている。壁であったものが、前後に距離が開くことによって、壁の間に前後の隙間が生まれた。
「豊後守殿、瀬兵衛、来るぞ!」
土塁の上で直接指揮をとる、豊後守正泰と中川瀬兵衛に村重は大声で伝える。それが、言い終わるかの刹那、織田勢の前後に開いた竹束の隙間から、多くの織田兵が躍り出て、城の土塁に向ってくる。城側も弓や鉄砲で応戦するが、竹束の隙間から湧き出て、池田城の土塁に取り付こうとする織田勢の兵の勢いに押された。すぐに土塁に梯子を立てかけ、そこを登ろうとする。槍や、弓、鉄砲でも散発的に応戦するが、徐々に織田勢に押され土塁の上でも双方入り乱れての白兵戦になりつつある。この勢いをしのがねば、土塁を突破されるのも時間の問題と思われた。それを確認した村重は、迎撃を指揮するために櫓を飛び降りる勢いで降りた。
その間にも、織田勢は犠牲を厭わぬ勢いで、土塁上に迫り、何人かは土塁の上まで至り城方と槍を合わせつつある。このままでは、城側は一段目の土塁を放棄し、二段目の土塁に後退せねばならない状況になりつつあった。
「城門を開けるぞ!城門を開けるぞ!」
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