振り返る【#シロクマ文芸部】
振り返ると先輩が立っていた。
「先輩、どうしてここにいるんですか?誰かと待ち合わせですか?」
「ああ。まあな。タクヤだったのか…」
「俺?どういうことですか?」
「いや。行けばわかるって。そういうことだったのか…」
「ちょっと何言ってんのかわからないんですけど」
「御茶ノ水橋口に来いって言われたんだろ?」
「どうして、それを知っているんですか?」
「どうしてって、俺も呼ばれたからさ」
「先輩も?呼ばれた?」
「ああ。百万。持ってきたんだろ」
先輩も同じだった。SNSの『お金配り』をフォローして連絡した銀行口座を振り込め詐欺に利用されていた。いまでは受け子もやっているようだ。同じだった?知ってて『お金配り』を勧めていたのか?
「先輩、これって振り込め詐欺じゃないですか?」
「まあ。そうかもな」
「ヤバいっすよ」
「まあ。バレなきゃ大丈夫だろ」
「自首しましょう」
「自首?本気で言ってるのか?」
「はい。いま決めました」
「家族にも言えるのか?」
「…はい。家族にも言います。いまなら罪が軽いはずです」
「そうか…それなら仕方ないな…」
わかってくれてよかった。いま自首すれば、きっと不起訴処分になるだろう。
「いいですね。先輩」
「俺さ、草津商会の集金も任されているんだわ」
「えっ?」
「タクヤもさ。集金。やってくれるよな」
「ちょっと何言ってんのかわからないんですけど」
「だからさ。借金してる奴から金を回収するんだよ」
先輩がいうには、自首をほのめかしたら草津商会の仕事を紹介することになっていたようだ。草津商会は表向きはいわゆる消費者金融だが、裏では大槻組とつながっていることは暗に知られていた。
「草津商会って、もっとヤバいじゃないですか」
「じゃあ。ハジメさんには俺から伝えておくから」
「ちょっと待ってください。集金なんてやりませんよ」
「まあまあ。集金先はここだから」
先輩に封筒を奪い取られると、一万円札5枚とショップカードを無理矢理手渡された。名刺くらいの大きさのショップカードには喫茶店『ロイヒテン』と書かれていた。
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