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恋人_01【シロクマ文芸部(月の花)】【lpz.89】

( 前 話 / 登場人物と目次 )


月の花はガーベラだった。

渡辺凌太は眠る前にスマホで婚約指輪について検索していた。圧倒的にダイヤが多いが、誕生石から選ぶこともあるようだ。横田希実の誕生月である4月を調べてみると、誕生石はダイヤだった。

「どっちもダイヤかいっ!」

一人でツッコミを入れたあと、4月にまつわるものを検索していたら、いつの間にか寝落ちしていた。

凌太が目を覚ました時、隣のベッドは冷たかった。

そこは、いつも先に起きて朝食を用意してくれる、同棲中の希実のベットだった。だが、今日はシーツが乱れているだけで、彼女の気配がなかった。テーブルの上には、書き置き一枚すらない。スマートフォンもバッグも消えていた。

「ノゾミ?」

虚ろな声が静かな部屋に響いた。凌太は動揺しつつも、希実の性格から、少し考え事をしたいのだろうと自分に言い聞かせ、とりあえずユウヒ社に出勤した。



ユウヒ社に入ると、オフィス全体が異様な熱気に包まれていた。誰もがパソコンの前で騒然とし、電話が鳴り響いていた。非常事態のようだ。

「渡辺!大変なことになったぞ!」

上司の佐藤が血相を変えて駆け寄ってきた。ユウヒ社は今、過去最大規模のサイバー攻撃の渦中にあった。システムが次々と停止し、顧客の機密情報が流出していた。

凌太はセキュリティ担当部署に飛び込んだ。そこで聞かされた事実は、凌太の思考を一瞬停止させた。

「原因は、どうやら外部委託先のセキュリティエンジニアが使っていた端末のようだ。横田さんが使っていたパソコンから『超高速暗号解凍ファイル』が起動された痕跡がある…」

セキュリティ部長は顔を真っ青にしてそう告げた。

「彼女がこのファイルを開けなければ、こんなことにはならなかったんだ」

凌太の指先が震えるのを感じた。希実が?なぜ? 凌太はトイレの個室に閉じこもり、スマートフォンでニュースサイトを開いた。トップニュースは全てサイバー攻撃関連。そして、SNSのトレンド欄には、希実の名前が溢れていた。

《無能エンジニア》《賠償しろ》《裏切り者》

不審なファイルを開いたという情報がどこからかリークされ、希実は瞬く間にスケープゴートにされていた。誹謗中傷は人権を無視した激しさで、スクリーンから悪意が噴き出しているようだった。

希実が姿を消したのは、この容赦ないネットの暴力から逃れるためだ。決して、彼女がサイバー攻撃の犯人であるはずがない。

凌太の胸には、会社への疑念と、愛する人を守れなかった無力感が渦巻いていた。 しかし、凌太の心に一つの決意が生まれた。希実の潔白を証明する。彼女はきっと、何か手がかりを残しているはずだ。

それだけが、今、自分に残された道だ。

(つづく)



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