【S-books 10】『テクニックはあるが、「サッカー」が下手な日本人――日本はどうして世界で勝てないのか?』村松尚登著(河出書房新社)
2025シーズン、リカルドロドリゲス監督が就任して生まれ変わった柏レイソル。そのリカルド監督の隣に通訳としていつもいるのが村松尚登さんだ。公式VLOGなどで監督の言葉を選手たちへアツく伝える姿を思い浮かべる人も多いのでは。
今回は村松さんがかつて執筆した『テクニックはあるが、「サッカー」は下手な日本人』の見どころを紹介しよう。
筑波大学を卒業後、単身スペインへ渡って指導を学び、バルセロナのスクールで指導
とにかくアツく語る姿が印象的な村松尚登さん。2025シーズン最終節FC町田ゼルビア戦の公式VLOGでもその姿は確認できる。思いが募りすぎて言葉詰まらせる姿に、熱量を伝えるだけでなくともに戦っていたんだなと。
『テクニックはあるが、「サッカー」は下手な日本人』の前半は村松さんの人生を自ら振り返る形で進む。このパートが兎にも角にもおもしろい。6歳でサッカーを始め、筑波大学に進学して蹴球部に入部。自らを選手としては“中の上”と表現し、プロサッカー選手になれずとも日本サッカーが強くなるヒントを見つけたいと、大学卒業後、サッカー指導者になるために単身スペインへ渡った。
その行動力に驚く。しかも、スペイン語をまったく学んでいない状態で渡ったというからなおさら。
計算高いのか無鉄砲なのか。日本からバルセロナの語学学校への入学手続きをして学生ビザをとり、バルセロナに居を構えた。近くの公園で子どもたちのストリートサッカーに混ざってひとしきりプレーした後、カタコトのスペイン語で「サッカーをプレーしたい。チームはどこにある?」と聞く日本人はきっと異質な存在だっただろう。
そうやって子どもたちに教えてもらった近所の町クラブに飛び込んで、チーム練習に参加しつつ、U-14の監督にも就任することになるのだから人生はおもしろい。渡西2カ月でジュニアユース年代を指導することになったのである。
対戦相手を惑わす“戦術的ピリオダイゼーション理論”
スペインへ渡った頃の村松さんはサッカーの戦術は詳しくても、スペイン語をうまく扱えない状態。しかもバルセロナではスペイン語とともにカタルーニャ語も公用語として使われている。そのためさまざまな失敗や困難を経験する。
村松さん自身、「しゃべってなんぼの世界」である監督の仕事で言葉をうまく使えないことが外国コンプレックスになって、自信を失い萎縮してしまう。そのコンプレックスを克服するのに3年を要したそう。
小説さながらの壁にぶつかりながら育成年代を指導し続け、見つけた日本とスペインの違いなどを織り交ぜつつ話が進むので、とても読みやすい。何せ追い求めるのは「日本サッカーが強くなるヒント」だ。育成年代のリーグ戦の様子や利点から、選手や保護者のスポーツ科学の知識や戦術知識、選手の移籍や育成への考え方まで、多岐にわたる。
10年かけて経験を重ね、FCバルセロナのスクールコーチをするほどになっていく。そしてバルセロナでの生活が11年目を迎えた2007年の秋、スポーツ関係の出版社に勤めるコーチ仲間から紹介されて「戦術的ピリオダイゼーション理論」と出会う。
この理論には非線形や複雑系、フラクタルやカオス、パラダイムといったやたら難しい単語が出てきてギョッとするのだけど、本書の解説を丁寧に読み進めていくと、その中身は2025シーズンのリカルドサッカーと重なる部分がたくさんあって腑に落ちる。村松さんはこの理論との出会いを「“探し物”をとうとう見つけた!」と語る。
かなり端折ってしまうが、戦術的ピリオダイゼーション理論とは「サッカーはカオスであり、フラクタル」。そして「サッカーはサッカーをすることによって上手くなる」ことである。ええ、こんな説明じゃあ全然わからないですよね。
本書によると、戦術的ピリオダイゼーション理論ではまずサッカーの本質を定義して、それに則った生命論パラダイムの戦術をチームに落とし込むのだけど、まずサッカーの本質って何よということになる。そこで村松さんが考える“サッカーの特徴”を引用すると、
「楽しい」「すべては勝利のために」「すべてはゴールのために」「駆け引き」「激しいボディコンタクト(=サッカーは痛い)」「コミュニケーション(指示の声)」「攻守の切り替えの連続」「攻守は表裏一体」「適材適所」「ミスキックでもゴールはゴール」「答えはひとつじゃない」「速く走ればいいってものではない」「強く蹴ればいいってものでもない」「重要なのはタイミング」「急がば回れ」「スペースと時間が命」「想定外なことばかり」「適応の連続」「相手も適応してくる」「テクニックはチームの目標を達成するための手段であって各選手の目的ではない」「適切な状況判断を伴わないテクニックは意味のないテクニック」「チームの成長と個の成長はフラクタルな関係」など
少し見えてきた感じがする。というかこれ、リカルドサッカーそのものじゃないか。サッカーの本質をチーム内で共有しているから、フラクタルに攻撃を展開できるのだ。
原田 亘が高い位置へ上がって、小泉佳穂や久保藤次郎とトライアングルを組んで右サイドを切り込んでいくシーンをイメージしてみるとよい。小さなパスやドリブルが、大きなカオスにつながっていく。相手選手は混乱し、一瞬の判断の遅れが生まれ、ゴールへ結びつく。幾度となく再現されたシーンから見えてくるものがある。
戦術的ピリオダイゼーション理論をさらに理解を深めたいなら、本書には育成年代向けの練習メニューも載っているのでぴったりだ。あえて不均衡な状況をつくって、サッカーらしいゲーム性を残しながらトレーニングするから「サッカーがうまくなる」わけだ。そしてこれらの実践的なアイデアを読んでいると、村松さんがリカルド監督の通訳を務める必然性がよくわかる。
残念なことに古本で手に入れるしかない
村松さんがかつてスペインに渡り、そこでの経験や失敗、発見を包みかくさず記した『テクニックはあるが、「サッカー」は下手な日本人』だが、現在、出版社に在庫はなく、増刷もされていない模様。手に入れるには、残念ながら古本で探すしかない。
本書が最初に出版されたのが2009年5月で、今回私が手にしたのは2013年に加筆修正して河出書房新社から発行されたもの。少し古い本に感じるかもしれないが、サッカーの本質を捉え直すという方法論は廃れないし、読みながら自分のサッカー論を振り返る機会になれば安いもの。そして村松さんのライフヒストリーそのものがおもしろい。
もし手にする機会があれば、ぜひ読んでみてください。
『スペイン代表「美しく勝つ」サッカーのすべて』や『スペイン人はなぜ小さいのにサッカーが強いのか (SB新書)』、『サッカー上達の科学 (ブルーバックス)』など、著書が多数ある。村松さんの考えに触れるきっかけにどうぞ。
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