3,281億円まで膨らんだ「信用」――メルカードは第二の利益源になったのか
前回の国内Marketplace編では、メルカリが利用者数を増やすだけでなく、取引頻度と平均取引単価を高めることで、GMVを前年同期比16%伸ばした姿を見ました。
その国内フリマで蓄積されたのは、取引金額だけではありません。
誰が本人確認を済ませ、どれくらい売買し、どのように支払ってきたのか。メルカリは、2,000万人を超える顧客との間に、膨大な取引履歴と信用を築いてきました。
シリーズ第3回では、その信用を金融事業へ広げるFintechを観察します。
▼シリーズ第1回・総論
【メルカリは、フリマの外でも稼げる会社になったのか】
▼シリーズ第2回・国内Marketplace編
【メルカリは、なぜ「利用者4%増」で取引を16%も伸ばせたのか】
2026年6月期第3四半期末、メルカリのFintech事業が抱える与信債権残高は3,281億円に達しました。
前年同期比45%増です。
同じ四半期のFintechのコア営業利益は27億円。2025年6月期には、通期で45億円のコア営業利益を計上しています。
少し前まで、メルペイは将来へ投資する赤字事業でした。現在は、会社が「継続的な増益フェーズ」と説明する事業へ変わっています。
決済サービスは数多くあります。そのなかで、なぜメルカリの金融事業が利益を出せるようになったのでしょうか。
答えは、支払いの回数を増やしたことだけではありません。
メルカリがフリマで築いた本人確認、売買履歴、売上金、利用実績を、「信用」へ変え始めたことにあります。

メルペイは、決済だけでは第二の柱になれなかった
メルペイは2019年に始まったスマートフォン決済サービスです。
メルカリで商品を売った代金を、メルカリ内の買い物や街の店舗で使える。銀行口座へ出金する手間を省き、「売る」と「買う」をつなぐサービスとして始まりました。
この仕組みは、メルカリとの相性がよく見えます。
しかし、決済サービスには大きな難しさがあります。
利用者を増やすには、使える店舗を広げ、ポイントを還元し、広告も出さなければなりません。それに対して、決済から得られる手数料は薄い。利用金額が伸びても、還元や顧客獲得へ費用を使えば、利益は残りにくくなります。
決済には、フリマの売上金を外でも使えるようにし、利用者をメルカリの経済圏へ引き留める役割があります。
ただ、それだけで国内Marketplaceに並ぶ利益の柱を作るのは簡単ではありません。
Fintechの収益構造を変えたのは、決済の先にあるCreditサービスでした。
500万枚を超えたメルカード
メルカリは2022年11月、クレジットカード「メルカード」を始めました。
2025年6月末までに、発行枚数は500万枚を突破しています。
メルカードは一般的なクレジットカードと同じように、JCB加盟店で利用できます。その一方で、メルカリ内の利用実績に応じて還元率が変わるなど、フリマとの接続を前面に出しています。
メルカリで商品を売る。売上金を使って別の商品を買う。足りなければ、あと払いを使う。メルカードをメルカリの外でも利用し、再びメルカリで売買する。
モノを一度売買して終わるのではなく、その後の支払いまで含めて顧客との関係を続けるのが、メルカードの役割です。
2025年3月には「メルカード ゴールド」も開始しました。
会社は2026年6月期第3四半期の質疑応答で、メルカリ外のカード利用が伸びている背景として、ゴールドカードによるポイント還元と利便性の改善を挙げています。ETCカードも始め、利用場面を広げました。
ここでメルカリは、フリマを使うときだけ接点がある会社から、日常の支払いでも接点を持つ会社へ変わろうとしています。
利益を生んでいるのは「支払う機能」だけではない
Fintech事業は、大きくPaymentとCreditで構成されています。
Paymentは、メルペイなどの決済です。
Creditには、メルペイのあと払い、定額払い、分割払い、メルペイスマートマネーなどが含まれます。
利用者が決済代金を後から支払ったり、お金を借りたりすると、メルカリには手数料や金利収入が入ります。
2025年1月からは、新規の定額払い債権に適用する実質年率を18%へ改定しました。債権残高の増加と金利条件の変更が、Fintechの収益拡大につながっています。
2025年6月期のFintechは、売上収益が前期比25%増となり、コア営業利益は45億円。会社が期初に目標としていた30億円を上回りました。
これは、メルペイが単なる「利用者を増やすための先行投資」から、保有する信用債権が継続的に利益を生む事業へ変わったことを示しています。

メルカリが持っているのは、カード会社とは違う入口
メルカリの強みは、金融サービスへ申し込む前から利用者との関係があることです。
一般的な金融サービスでは、新しい顧客を広告で集め、本人確認を行い、信用を審査してから関係が始まります。
メルカリには、すでにフリマを使っている顧客がいます。
本人確認や銀行口座登録を済ませた利用者も多く、過去の売買履歴や支払い実績も蓄積されています。そのため、まったく関係のない顧客へカードを勧める場合より、申し込みまでの負担を軽くできます。
さらにメルカリは、独自のAI与信モデルを使い、利用状況に応じて与信枠を段階的に広げています。
利用実績が十分にない人へ、最初から一律に大きな枠を与えるのではない。実際の利用と返済を確認しながら、使える金額を調整する考え方です。
もちろん、メルカリの取引履歴だけで返済能力のすべてが分かるわけではありません。
それでも、本人確認、売買履歴、決済、売上金という複数の接点を持っていることは、顧客獲得と与信判断の両方で有利に働く可能性があります。
フリマの取引データが、金融事業の入口になる。
ここに、一般的な決済アプリとは違う、メルカリがFintechを持つ意味があります。
1年間で1,000億円以上増えた債権
2025年6月期第3四半期末、Fintechの与信債権残高は2,263億円でした。
1年後の2026年6月期第3四半期末には3,281億円。前年同期比45%増となり、1年間で1,018億円増加しています。
会社は、新しいテレビCMや春の入会キャンペーンによってメルカード会員を増やしました。
メルカリ内外でのカード決済拡大に加え、AI与信モデルによる与信枠の段階的な拡張も、債権残高の増加に寄与したと説明しています。
Fintechの同四半期の売上収益は前年同期比30%増、コア営業利益は前年同期から9億円増加して27億円となりました。
債権を積み上げるだけでなく、利益も増えている。この点では、Creditサービスの拡大が事業成長へつながっていると判断できます。
一方、債権残高はGMVや利用者数と同じ感覚で、「増えるほどよい」とは言えません。
メルカリが持つ3,281億円は、将来の手数料や金利収入を生む資産です。同時に、利用者から回収できなくなる可能性を抱えた資産でもあります。

債権を増やすと、なぜリスクも増えるのか
利用者があと払いや分割払いを使えば、メルカリの債権残高は増えます。
約束どおり返済されれば、手数料や金利が利益になります。返済が遅れたり、回収できなくなったりすれば、延滞対応の費用や貸倒損失が発生します。
Fintechの利益を持続させるには、少なくとも三つの条件が必要です。
一つ目は、与信精度です。
利用者が無理なく返せる範囲を見極めなければなりません。利用限度額を広げれば債権は増えますが、返済能力を超えて広げれば、その成長は後から損失に変わります。
二つ目は、回収管理です。
支払いを忘れた利用者への案内、延滞債権への対応、不正利用の防止などを通じて、貸倒れを抑える必要があります。
会社は、請求から11カ月以内の回収状況を「11か月回収率」として開示しています。ただし、最新資料ではグラフ表示が中心となっており、今回の記事で長期比較に使える正確な数値までは確認できませんでした。
三つ目は、資金調達です。
Creditサービスでは、利用者が商品やサービスを購入した時点と、メルカリが代金を回収する時点にずれがあります。債権が急速に増えるほど、その間を支える資金も必要です。
Fintechの競争力は、カード会員を増やす力だけでは測れません。
与信、回収、資金調達の三つを崩さずに運営できて、初めて債権残高が持続的な利益へ変わります。

お金を貸すには、元手も必要になる
メルカリは、Credit事業の拡大を自社の資金だけで支えようとしているわけではありません。
あと払い、定額払い、分割払い、メルペイスマートマネーなどの債権を外部へ流動化し、資金調達方法を広げています。
債権流動化とは、将来回収する債権を使い、外部から先に資金を調達する仕組みです。
2025年12月には、主要Creditサービスすべてで、ノンリコース形式を中心とした流動化調達が可能になりました。
ノンリコース形式では、一定の条件下で債権のリスクを調達先へ移せます。Fintechの成長を、メルカリ自身の借入余力だけに依存させないための仕組みです。
利用者がカードやローンを使いたいと思っても、それだけでは事業を無制限に拡大できません。
債権を買い取る金融機関から見て、メルカリが作る債権に十分な質があるか。どの程度の調達コストで資金を確保できるか。ここにも、与信と回収の精度が影響します。
債権の質が悪化すれば、貸倒れが増えるだけでなく、資金調達の条件も悪化する可能性があります。
メルカリの外で使われて、初めて第二の柱になる
メルカードがメルカリ内だけで使われるなら、FintechはMarketplaceの購入を補助する機能にとどまります。
第二の利益源になるには、メルカリ外の日常的な買い物でも使われる必要があります。
メルカード ゴールドの導入後、ロイヤリティの高い顧客を中心に、メルカリ外での利用が増えています。
この動きは、メルカリと顧客の関係を変えます。
これまでは、不要なモノを売りたいときや、中古品を買いたいときにアプリを開く関係でした。
日常の買い物、公共料金、移動などでもメルカードが使われれば、フリマを利用しない日にも接点が生まれます。
利用機会が増えれば、決済手数料やCredit収入を得る機会も増えます。顧客が再びメルカリで売買する可能性も高まるかもしれません。
ただし、メルカリ外のカード利用額、利用者構成、Marketplaceとのクロスユース率は十分に開示されていません。
メルカリの顧客基盤が、外部決済における競争力へどこまで変わったのかは、公開資料だけではまだ判定できません。
第二の利益源にはなった。完成はしていない
メルカードは、メルカリの第二の利益源になったのでしょうか。
利益という意味では、すでになり始めています。
Fintechは2025年6月期に45億円の通期コア営業利益を計上し、2026年6月期第3四半期にも27億円を稼ぎました。
国内Marketplaceとは別に、継続的な利益を積み上げる事業へ変わっています。
この成長を可能にしたのは、カードを発行したことだけではありません。
メルカリが持つ利用者、本人確認、売買履歴、売上金を、決済と与信へつないだことです。フリマで生まれた信用を金融サービスへ翻訳したからこそ、後発でも500万枚を超えるカード基盤を築けました。
ただし、3,281億円という与信債権残高は、利益の源泉であると同時に、リスクの大きさでもあります。
Fintechの本当の競争力は、債権を速く増やせるかでは決まりません。
利用者の信用を正しく見極め、回収率を保ち、無理のない条件で資金を調達しながら、利益を残せるかで決まります。
メルカリは、モノを売買する会社から、そこで生まれた信用を扱う会社へ踏み出しました。
第二の利益源は、すでに生まれています。ただし、その強さを証明するのは、成長速度ではなく、増え続ける債権の質を保つ力です。

メルカリ観察シリーズ
この記事では、国内フリマで生まれた信用をFintechへ広げる構造を取り上げました。
会社全体の事業構造と、Marketplace・Fintech・USを通じてメルカリがどこへ向かっているのかは、総論記事で整理しています。
▼シリーズ第1回・総論
【メルカリは、フリマの外でも稼げる会社になったのか】
▼シリーズ第2回・国内Marketplace編
【メルカリは、なぜ「利用者4%増」で取引を16%も伸ばせたのか】
