見出し画像

メルカリは、なぜ「利用者4%増」で取引を16%も伸ばせたのか

前回の総論では、現在のメルカリを国内のフリマアプリだけで捉えず、Marketplace、Fintech、USという三つの事業から観察しました。

そこで見えてきたのは、メルカリがフリマと無関係な事業へ広がっているのではなく、フリマで築いた顧客、取引データ、本人確認、信用を、別の価値交換へ広げようとしている姿です。

▼シリーズ第1回・総論
【メルカリは、フリマの外でも稼げる会社になったのか】

では、その出発点である国内Marketplaceでは、今何が起きているのでしょうか。

2026年6月期の第3四半期、国内メルカリのGMV(流通取引総額)は3,399億円。前年同期比16%増でした。

それに対して、MAU、つまり月に一度以上メルカリを利用した人の数は4%増です。

利用者が4%増えたのに対して、取引金額は16%増えた。

この差に、現在の国内メルカリで起きている変化が表れています。

会社の説明によると、GMVの成長には、MAUの増加、取引頻度の上昇、平均取引単価の上昇が、それぞれおおむね3分の1ずつ寄与しました。

新しい利用者を集めるだけではなく、既存の利用者が以前より頻繁に、以前より高い金額の商品を売買するようになった。メルカリは、利用者数を追いかける成長から、一人ひとりの取引を深くする成長へ移り始めています。

すでに2,000万人を超えている会社の難しさ

メルカリは、個人同士がモノを売買するCtoCマーケットプレイスです。

出品者が商品を登録し、購入者が代金を支払い、取引が完了するとメルカリが手数料を受け取ります。配送、決済、本人確認、補償なども組み合わせ、知らない個人同士でも取引できる環境を整えています。

この事業では、売り手と買い手の両方が必要です。

出品者が増えれば商品の種類が増え、買い手が集まりやすくなる。買い手が増えれば商品が売れやすくなり、さらに出品者が集まります。

この循環によってメルカリは、月間2,000万人を超える利用者基盤を築きました。

ただし、利用者がすでに多いことは、成長の難しさにもなります。

サービスを知らない人を新しく獲得する余地は小さくなり、広告費を投じても利用者数が大幅には増えにくい。国内フリマ市場で大きな地位を築いたメルカリは、「次の1,000万人」を探すより、現在の利用者にもう一度使ってもらう必要がある段階へ入っていました。

GMV成長率9%は、成功でもあり未達でもあった

2024年6月期、国内MarketplaceのGMVは前期比9%増でした。

成熟したサービスとして決して低い成長ではありません。しかし、会社は期初に10%以上の成長を目指しており、結果は目標未達でした。

同じ年度には、越境取引のGMVが前期比3.5倍、BtoCのGMVが2.7倍まで伸びています。それでも、巨大になった国内メルカリ全体を二桁成長させるには届きませんでした。

この数字が示しているのは、新しい成長領域が伸びるだけでは、国内Marketplace全体を大きく動かせないという事実です。

続く2025年6月期には、気温が高く冬物商品の動き出しが遅れたことや、不正利用の影響も受けました。

利用者数を増やし、BtoCや越境取引を広げるだけでなく、フリマの基本的な利用体験そのものを立て直す必要が出てきます。

16%成長を支えた三つの変化

2026年6月期第3四半期のGMV成長について、会社は三つの要因を挙げています。

* MAUの増加
* 取引頻度の上昇
* 平均取引単価の上昇

質疑応答では、この三つがGMVの成長へおおむね3分の1ずつ寄与したと説明されています。

MAUが増えたということは、取引に参加する人が増えたということです。

取引頻度の上昇は、一度使って終わるのではなく、同じ利用者が繰り返し売買したことを示します。

平均取引単価の上昇は、一度の取引で動く金額が以前より大きくなったということです。

特定のキャンペーンによって利用者数だけが一時的に増えたのではありません。「使う人」「使う回数」「一度に動く金額」がそろって伸びました。

メルカリが巨大になった後も成長できるかを考えるうえで、この内訳はGMV16%増という結果そのものより重要です。

派手な新事業より、「また使う理由」を直した

メルカリが強化したのは、商品を探し、選び、取引を完了するまでの基本体験でした。

ホーム画面では、利用者ごとに表示する商品を調整するパーソナライズを強化。検索にもAIを活用し、膨大な出品物の中から欲しい商品へたどり着きやすくしています。

再ログインの成功率改善など、サービスを使おうとした人が途中で離脱する原因も取り除きました。

一つひとつは、まったく新しい事業を始める施策ではありません。

しかし、2,000万人を超える利用者がいるサービスでは、小さな使いにくさの改善が大きな取引金額につながります。

仮に、新しく獲得した利用者が一度だけサービスを開いて終われば、MAUは増えてもGMVは大きく伸びません。

反対に、すでに登録している人が欲しい商品を見つけやすくなり、購入まで進む回数が増えれば、MAUの伸びが小さくてもGMVは拡大します。

2026年6月期第3四半期の数字は、後者の変化が起きたことを示しています。

エンタメ・ホビーは、メルカリだから伸ばせる市場

第3四半期に特に伸びたのが、エンタメ・ホビーカテゴリーです。GMVは前年同期比32%増となりました。

トレーディングカード、フィギュア、ゲーム、コレクター商品などは、一般的な新品ECとは異なる特徴を持っています。

同じ種類の商品でも、保存状態や付属品の有無によって価格が変わります。すでに生産されていない商品や、店舗では見つからない過去の商品にも需要があります。

売り手にとって不要になった品が、別の人にとっては長く探していた一品になることも珍しくありません。

この市場では、在庫を一社が仕入れて販売するより、多数の個人や事業者が商品を持ち寄るMarketplaceの強みが生きます。

出品数が増えるほど、希少な商品を探す買い手が集まる。買い手が多いほど、売り手は商品を出品しやすくなる。

メルカリが長年築いたネットワーク効果が、カテゴリーの成長へ直接つながりやすい領域です。

平均取引単価の上昇にも、このカテゴリー構成の変化が影響した可能性があります。ただし、会社はカテゴリー別の単価寄与を開示していないため、そこまでは断定できません。

BtoCは、メルカリを別のECへ変えるものではない

メルカリは、個人間取引だけでなく、事業者が出店するBtoCも強化しています。

一見すると、一般的なECモールへ近づいているように見えます。しかし、BtoCの役割は、CtoCを置き換えることではありません。

個人だけでは安定して供給できない商品を事業者が補い、商品の選択肢を広げる。大手リユース事業者やコレクターズショップの在庫が加われば、利用者がメルカリを訪れて商品を探す理由も増えます。

事業者の在庫だけを別の場所へ隔離するのではなく、個人の商品と同じ検索・購入体験の中で見せられることにも意味があります。

ある商品を探した利用者に対し、個人が出品した中古品と、事業者が販売する商品を同時に提示できれば、商品が見つからず離脱する可能性を下げられます。

メルカリがBtoCで狙っているのは、楽天市場やAmazonのような総合ECをもう一つ作ることではありません。

既存のMarketplaceへ事業者の在庫を足し、売買が成立する可能性を高めることです。

越境取引は、日本の商品へ新しい買い手を連れてくる

もう一つの接続が、海外の購入者へ日本の商品を販売する越境取引です。

国内では利用者数の伸びに限界があっても、日本の商品を買いたい海外の利用者を取り込めれば、既存の出品物に新しい需要を加えられます。

特にエンタメ・ホビーやブランド品は、日本にある中古品そのものが海外の購入者にとって価値を持ちます。

この構造では、メルカリが新たに商品を仕入れる必要はありません。すでに国内に存在する商品と出品者を、海外需要へつなげられます。

BtoCが商品の供給を増やす役割だとすれば、越境取引は買い手を広げる役割です。

国内CtoCを中心に、左側から事業者の在庫を追加し、右側へ海外の需要を広げる。二つの成長領域は、主力事業から離れた新規事業ではなく、Marketplaceの両側を補強する施策と捉えられます。

ただし、BtoCと越境取引がMarketplace全体のGMVに占める割合は、十分に開示されていません。

成長率が高くても、国内Marketplace全体をどこまで押し上げているのかは、公開資料だけでは判断できません。

安心・安全は、成長と反対側にあるコストではない

マーケットプレイスでは、商品数や利用者数が増えるほど、不正出品や模倣品、取引トラブルも増えやすくなります。

2025年6月期には、不正利用がGMVへ影響しました。

メルカリはその後、「マーケットプレイスの基本原則」を更新し、鑑定センター、チャットサポート、AIによる違反検知などを強化しています。

2026年6月期第2四半期には、メルカリ鑑定センターの鑑定数が前年同期比225%増となりました。

安心・安全への投資は、短期的には費用です。

しかし、利用者が高額な商品を売買するには、商品が届くこと、偽造品ではないこと、問題があったときに対応してもらえることが前提になります。

取引の安全性に不安があれば、利用者は高額商品を出品せず、購入もしません。

平均取引単価を高めるうえでも、安心・安全は成長の外側にある守りではありません。取引金額を増やすための事業基盤です。

ただし、補償やサポートを手厚くするほど費用も増えます。すべてのトラブルを人手で解決すれば、取引が増えても利益率は下がります。

AIによる検知や鑑定、ルール整備によって、不正を減らしながら運営費用を制御できるかが重要になります。

16%成長は続くのか

第3四半期のGMV16%増は、会社が期初に掲げた5〜10%の成長目標を上回っています。

エンタメ・ホビーの好調に加え、AIを活用した開発スピードの向上、利用者の定着、アクティブ率の改善などが重なりました。

一方、この成長率をそのまま長期的な通常状態と見るのは早いでしょう。

エンタメ・ホビーの高成長が一時的な人気商品に左右される可能性もあります。マーケティングやキャンペーンを強化すれば、GMVが増えても費用が先に膨らむ場合があります。

会社は2026年6月期第4四半期に、翌年度以降の成長へ向けた投資を強化する方針です。コア営業利益は第3四半期から大幅に減少する見込みと説明しています。

したがって、現在の国内Marketplaceを「投資を抑えたまま自然に16%成長する事業」と見るべきではありません。

基本体験の改善とマーケティングを組み合わせ、その投資に見合う取引増加を作れるかが問われています。

利用者数の会社から、取引密度の会社へ

メルカリは、なぜMAU4%増でGMVを16%伸ばせたのか。

答えは、利用者数だけを増やそうとしなかったからです。

AIを使った検索やパーソナライズで商品との出会いを増やし、離脱原因を取り除き、エンタメ・ホビーなど相性のよいカテゴリーを強化する。

BtoCで商品の供給を補い、越境取引で新しい買い手を呼び込む。安心・安全を整え、高額な商品でも取引しやすい環境を作る。

その結果、使う人だけでなく、一人当たりの取引頻度と平均取引単価も上昇しました。

国内メルカリの再成長は、新しい巨大事業が突然生まれた結果ではありません。

すでに存在する2,000万人を超える利用者と、膨大な出品物の間で、これまで成立しなかった取引を成立させる力が高まった結果です。

メルカリは、利用者数を競うフリマアプリから、一人ひとりの取引密度を高めるMarketplaceへ変わり始めています。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー