後半9ホールで崩れるのは、根性が足りないからじゃない:脳のと自律神経の話
14番あたりで、いつも同じことが起きる。前半は調子が良くて、ボギーを打っても「次で取り返す」って粘れる。なのに後半、一つミスをすると、そこから戻ってこれない。
同じ一打のミスなのに、前半なら立て直せて、後半だと引きずる。これって集中力が足りないのかな、メンタルが弱いのかな、ってずっと思ってた。
でも調べてみたら、けっこう物理的な話だった。
「弱くなる」んじゃなくて「判断が鈍る」
2025年にPLOS ONEに出た、ゴルフとメンタル疲労だけを集めたレビューがある(Pan et al.)。世界10本の研究をまとめたもので、長い時間の集中・判断・感情の労力で脳が消耗した状態 = メンタル疲労が、ゴルフの成績を直接落とす。特にパットに出る、と書いてある。
しかも、ホールが進むほどメンタル疲労も身体の疲労もじわじわ積み上がっていく。36ホールの大会を調べた
研究だと、終盤になるほど疲労がはっきり上がって、スコアが落ちていった。
ここで面白いのは、落ち方だ。メンタル疲労の研究をまとめた別のレビュー(Van Cutsem et al.)が一貫して言うのは、疲れても最大の力そのものは落ちない、ということ。ドライバーを振る力は、後半でも出る。
落ちるのは、力じゃない。判断と、細かいコントロールと、注意のほうだ。
つまり後半は、「自分で意図して集中を向ける力」が削れていく。前半はまだ自分でリセットできるから、ボギーの後に「切り替えよう」が効く。後半はその切り替えに使う脳の資源が残ってない。
立て直せないのは、弱いからじゃない。リセットに回す燃料が、もう残ってないだけだ。

脳はガソリンで動いている
もう一つ、もっと身も蓋もない理由がある。燃料だ。
ゴルフは18ホールで4〜5時間、10km以上歩く運動(Nagashima et al.)。ジョギングほど激しくはないけど、半日ずっと動き続ける。その間、血の中のブドウ糖、つまり脳のガソリンが、じわじわ減っていく。
ここで珍しく、日本人のデータがある。日本の競技ゴルファーを対象にしたランダム化比較試験で、ラウンド中に糖質を取り続けたグループは、血糖の下がり方が抑えられた。体感の疲れも、6ホール目あたりから明らかに軽くなって、集中している感覚も最後まで保たれた。
正直に書くと、この研究では、実際のスコアやパットの成功率までは変わらなかった。人数も少ない研究だ。だから「食べればスコアが伸びる」とは言えない。
でも、血糖が保たれて、疲労の感覚と集中の感覚が後半まで残った、というのは出ている。脳はブドウ糖で動く臓器だから、ガソリンが切れれば、さっきの「判断する力」も「気持ちを立て直す力」も、もっとしんどくなる。それは理屈に合う。

アクセルは踏めても、戻すのが難しい
燃料の次は、体の戻りの話だ。後半の崩れには、自律神経もからんでくる。
プレー中は交感神経が優位になっている。集中して、緊張して、いわば「戦闘モード」。回復って、体の仕組みとしては、ここから副交感神経が戻ってくることそのものだ(Laborde et al.)。アクセルを踏みっぱなしの体が、ブレーキ側に戻る。普通ならショットとショットの合間に、この戻りが少しずつ入る。
でも、暑い日はこれが効きにくい。暑さは、運動後に副交感神経が戻ってくるのを遅らせる(Peçanha et al.)。軽い脱水も、ゴルフの判断や細かい動きを鈍らせる(Smith et al.)。
つまり猛暑のラウンドは、アクセルが踏みっぱなしで、ブレーキがなかなか戻らない。「戦闘モード」が後半に向けて抜けなくなる。
ここで使えるのが、地味だけど一番証拠の強い道具 ―― ゆっくりした呼吸だ。1分間に5〜7回くらい(目安は6回、吐く息を長めに)のペースで呼吸すると、心臓まわりの副交感神経の働きが上がる(You & Laborde et al.)。たった5分でも効くし、競技中の短い休憩でも使える。
ショットの合間の数十秒、長く息を吐くだけでいい。気合いを入れ直すんじゃなくて、いったんアクセルから足を離す感じ。暑い日ほど、これを意識的にやらないと戻らない。

IMGでは「整えるもの」として扱われてる
IMGにいて思うのは、ここでは「食べる」も「集中する」も「回復する」も、根性の話じゃなくて、管理する対象として扱われてることだ。専属の栄養スタッフがいて、メンタルの部門があって、リカバリーもトレーニングの一部になっている。
「お腹がすいたら食べる」「気合いで最後まで持たせる」じゃない。いつ何を補給するか、集中と自律神経をどこで戻すかが、最初から設計に組み込まれている。
これはIMGが偉い、って話じゃない。後半の失速を「精神」じゃなく「設計」で扱っている、というだけの違いだ。
日本のジュニアだと
日本だと、後半に崩れると「集中力が足りない」「メンタルが弱い」で片付けられがちだと思う。補給は「喉が渇いたら水」くらいで、集中は最後まで全力で保つもの、が前提になっている。
でも研究を読むかぎり、それは精神論で解ける問題じゃない。脳の燃料と、注意の配り方と、自律神経の戻りの問題だ。後半に崩れるのは、性格でも根性でもなくて、放っておけば誰の体でも起きる消耗。
だとしたら、自分を責めるより先に、設計でなんとかできる余地がある。
正直な話
正直、僕も昔は後半の失速を「自分の弱さ」だと思ってた。
でも、ターンで何か食べておく、合間に長く息を吐いて一回アクセルを抜く。それを決めてからのほうが、後半が残るようになった気がする。これは僕の体感であって、研究がそこまで言っているわけじゃない。
ただ、「弱さ」だと思っていたものに別の説明があると知れたのは、けっこう楽だった。
参考リンク
Pan X, et al. (2025) Mental fatigue in golf: A systematic review. PLOS ONE 20(2):e0310403. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0310403
Van Cutsem J, et al. (2017) The effects of mental fatigue on physical performance: a systematic review. Sports Medicine 47:1569–88. https://doi.org/10.1007/s40279-016-0672-0
Nagashima Y, et al. (2023) Effects of continuous carbohydrate intake with gummies during the golf round… Nutrients 15(14):3245. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10384188/
Laborde S, et al. (2024) Influence of physical post-exercise recovery techniques on vagally-mediated heart rate variability. Clin Physiol Funct Imaging 44(1):14–35. https://doi.org/10.1111/cpf.12855
Peçanha T, et al. (2017) Passive heating attenuates post-exercise cardiac autonomic recovery in healthy young males. Front Neurosci 11:727. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5742592/
You M, Laborde S, et al. (2024) Influence of respiratory frequency of slow-paced breathing on vagally-mediated HRV. Appl Psychophysiol Biofeedback 49(1):133–143. https://doi.org/10.1007/s10484-023-09605-2
Zhang X, et al. (2024) The effect of slow-paced breathing on cardiovascular and emotion functions. Mindfulness. https://doi.org/10.1007/s12671-023-02294-2
Smith MF, Newell AJ, Baker MR (2012) Effect of acute mild dehydration on cognitive-motor performance in golf. J Strength Cond Res 26(11):3075–80. https://doi.org/10.1519/JSC.0b013e318245bea7
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