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天才は、飼いならせない。

KADOKAWAが面白いことをやろうとしています。若いアニメーターを社員として採用して、自前で育てる。バラバラだったグループのアニメ制作会社5社を、この秋、一つのオフィスに集める。およそ400人を、一拠点に。外注に頼らず、創る力を会社の中に抱え込もうという構想です。

一方で、筆頭株主になった香港系のアクティビストファンド、Oasis Management、いわゆる物言う株主は別のことを迫っています。フロム・ソフトウェアという世界最強のゲームスタジオを抱えているなら、その作品を自分で世界に売って、利益を取り込め、と。※前記事で話してます。

攻める株主と、守るCEO。立場は正反対です。でも、二人が信じている前提は、じつは同じなんですよね。それは「会社のものにできる」。と。

わたしは、ここに引っ掛かりを感じているんです。本当にそうなのか。すごい作品やゲームを生み出す才能あるクリエイターたちや、天才たちは、ずっと会社のものにできるのか。

結論から言うと、わたしは「できないことのほうが多いな」と思っています。この記事は、なぜできないのか。そして、それでもエンタメの巨人たちが、この「できないこと」に何度も挑んでしまうのはなぜか。かつてエンタメ現場にいた視点で、解いていきます。

このnoteでは「エンタメビジネスの実学」と題して、エンタメ企業の決算やIPの構造を、現場にいたプロデューサーの視点で解剖しています。先に、KADOKAWAの決算とフロムの取り分の話を書きました。今日は、その"原理"のほうを掘ります。

そもそも、IPは「作れない」

前に「IPをつくる方法は、世界に三つしかない」という記事を書きました。わたしはIPを「長い時間に耐えられる、人を熱狂させるもの」と定義しています。その生まれ方は、①個人の狂気から生まれる、②新しいメディアの波でトップを取る、③武器を持つ企業が、すでに強いIPを獲得して増幅する——この三つしかない。Fateもちいかわも、たった一人で作られたStardew Valleyも、たどればこのどれかです。

その記事で、わたしが一番言いたかったのは、これでした。

IPは、設計できない。

個人の熱狂から、ぽろっと生まれてしまう。会社にできるのは、生まれたあとに「育てて、増幅する仕組み」を用意することだけ。種そのものは、計算からは出てこないんです。

これは、創る力という"資源"の、かなり厄介な性質を言い当てています。創る力は、お金を積んでも、組織を大きくしても、まっすぐには増えない。むしろ、抱え込もうとすると逃げていく。なぜか。

会社の論理と、創る論理は、真逆

別の記事で「大企業がIPを作れない本当の理由」も書きました。乱暴にまとめると、こうです。

会社という仕組みは、安定した成長と、短期の利益と、再現性をコントロールするためにできています。一方で、IPの卵は、ことごとくその逆。再現性はないし、最初は赤字だし、いつ当たるかも読めない。10年、20年という時間軸で、やっと一つ育つかどうか、の世界です。

わたしの肌感覚だと、100本やって30本が及第点、10本がヒット、1本がIPの卵として10年続く可能性がある、くらい。この「100本の束」と「10年の時間」を、決裁権のない担当者が役員会に通し続けるのは、まず無理なんですよね。

すると、何が起きるか。「失敗しないように」「基準を超えたら続行、超えなきゃ撤退」という管理が始まる。創り手を守るはずだった温室が、いつのまにか戦場に変わる。そして戦場では、外さないための"それっぽい何か"しか生まれません。

創る力は、管理した瞬間に痩せる。これは精神論ではなく、会社とIPの設計思想が、そもそも逆を向いている、という構造の話なんです。

そして、才能は「統合」できない

ここまでは、わたしが現場で見てきた、創られるもの側の話です。今回、それを"創る人"の側から裏打ちする声に出会いました。ずんだもんの発案者としても知られる柳さんが、Xでこう指摘していました。

あくまで一人の見解ですが、芯を食っていると思うんです。社員化して囲い込むほど、腕のいい作り手はプロデューサーごと連れ立って外に出ていく。待遇を上げて抱えた大手は、固定費の軽い小さなスタジオに価格で負ける。——つまり、創る才能というのは、もともと一つの会社の壁の中に閉じ込めておけるようには、できていないんですよね。腕の立つ人ほど、一社に縛られるより、複数の現場を渡り歩いたほうが食えるし、伸びるからです。

さっきの「IPは設計できない」と、きれいに表裏なんですよね。創られるもの(IP)も、創る人(才能)も、どちらも組織に所有されることを拒む。中身の話と、人の話。両側から、同じ結論が出てくる。

唯一うまくいくのは、「所有」ではなく「目利きと増幅」

じゃあ、会社は創る力に、手も足も出ないのか。そうではありません。

100年かけて、これを解いた存在がいます。日本の大手出版社です。

集英社も講談社も、漫画家を社員にしてONE PIECEを「製造」したわけじゃない。彼らがやったのは、持ち込みやオーディションで個人の狂気を"見つける"こと。連載というメディアの波に"乗せる"こと。そしてアニメ化やグッズで"増幅する"こと。所有ではなく、目利きと増幅の仕組みを設計したんです。

作家は、社員じゃない。でも、デビューすれば原稿料が出て、当たれば本が売れて、外れても次の連載を目指したり、その間はアシスタントに入ることもできる。アシスタントは連載作家の近くで学べもする。つまり居場所がある。

書くと改めてすごくすごく良い環境ですよね。この「入りやすくて、居続けられる温室」があるから、日本から作家が生まれ続ける。

ポイントは、会社が握っていたのが「才能そのもの」ではなく、「才能が育つ温室と、育ったあとの増幅装置」だった、ということです。掘る人を所有するのではなく、掘った鉱脈を増幅する武器を持つ。強い会社は、いつもこっち側にいます。

いちばん難しい側

ここで、冒頭に戻ります。

KADOKAWAがいまやろうとしているアニメーターの社員化と5社統合は、構造の上では、最も難しい側に踏み込む動きです。所有できないはずの才能を、固定費で抱え込む。痩せやすいものを、まとめて一拠点に集める。

もちろん、人手不足のアニメ業界で、若い才能に安定した居場所をつくること自体は、立派な志だと思います。そこは否定しません。ただ、それが「創る力を会社の資産として囲い込む」方向に振れた瞬間、温室は戦場に変わりやすい。出版で、KADOKAWA自身が一度通った道です。

物言う株主の「自分で売って取り分を取り込め」は、増幅装置の話だから、原理的には正しい。でもCEOの「自分で創って人材を抱え込め」は、所有できないものを所有しようとする話。同じ"内製化"でも、勝ち筋と、いばらの道がまざっているんですよね。

天才たちはどこにいるのか

ここまでで、究極に言うと、会社は才能をずっと所有できない、という話をしてきました。では、その所有できない才能は、いったいどこで暴れているのか。

おもしろいことに、いつも"半分だけ外"にいるんですよね。

フロム・ソフトは、KADOKAWAの傘下でありながら、開発の中身には強い独立性を保っています。ジブリの全盛期は、宮崎駿という一人の作家性が、そのまま会社の形をしていました。ONE PIECEも鬼滅の刃も、出発点は編集部に持ち込まれた一人の原稿です。最強のIPは、巨大資本のど真ん中ではなく、資本とゆるくつながった"自治区"のような場所から生まれている。

つまり、強いプロデュースとは、才能を組織の中心にがっちり組み込むことではないんです。むしろ、才能が暴れられる余白を残したまま、その周りに増幅装置だけを用意すること。所有しようとすると逃げる。手放しすぎると拾えない。この絶妙な"半分外"の距離感をデザインできる会社だけが、最強のクリエイティブと、長く付き合えるんだと思います。

※実はここを上手くやってる会社があるんですが、長くなのでそれは次の機会に。

所有ではなく、付き合い方の問題

まとめていきましょう。

IPは設計できないし、才能は統合できない。創られるものも、創る人も、組織に所有されることを構造的に拒むからです。会社にできるのは、所有することではなく、才能が暴れられる温室と、暴れた成果を世界に届ける増幅装置を、どれだけうまく用意できるか。突き詰めると、それだけなんですよね。

KADOKAWAは、出版で一度、それを誰よりもうまくやった会社です。作家を社員にせず、温室と流通だけを握って、100年分のIPを世に送り出してきた。だからこそ、いまアニメーターの社員化と5社統合に賭けているのは、自分の最強の歴史に、自分で逆らっているようにも見えるんです。

握るべきは、才能そのものではなく、才能が次の『とんでもない作品』を掘り当てるまでの温室のほうだと思います。

「KADOKAWAとフロムの持ち方の話」も、土台にした「IPをつくる方法は、世界に三つしかない」「大企業がIPを作れない本当の理由」も、あわせて読むと、この構造はもっと立体的に見えてきますので、あわせてどうぞ。

このnoteではエンタメ・ポップカルチャー・テクノロジーについてプロデューサー視点で発信しております。すこしでもこういった話題に興味があれば、ぜひスキ・フォローをよろしくお願いします。

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