【連載小説】悩み のち 晴れ!sideカエデ(ライトブルー・バード第3部&FINAL《8》)
🌟前回までのお話です↓
そして登場人物の相関図はコチラ↓

《山田カエデ》
《隣の家に住んでいる男の子なんか好きになるもんじゃない! 失恋してもずっと顔を合わせなければいけないし、彼が別の女の子と付き合ったり結婚したりするのを間近で見ていなければならないなんて、悲劇以外の何物でもない!!》
そんな風に嘆いていた時期があったことを、山田カエデはふと思い出す。
しかし今は隣人という立場を活かし、リュウヘイが帰ってくるのを、部屋の中から確認中だ。ベッドの上に膝で立ち、出窓のスペースで頬杖をつきながら、春になりかけの景色をじっと眺めるカエデ。その側には、サトシから貰ったチロルチョコクッションが、ちょこんと置かれていた。
クッションに送った視線を再び外に戻す。そして窓枠に手を掛け、カエデは静かに窓を開けた。
部屋の中に入ってきた新しい空気が、頬に優しく触れる。まだ冷たさは残るけれど、顔が赤くなっている自分には丁度いい体感温度かもしれない。
(……サトシはまだ部活だよね? 土曜日なのに、大変だな)
彼のことを思い出すと、未だに心臓がドキドキしてしまう。
「…………………………」
昨日、自分とサトシはめでたく『本物の』恋人になることができた。
『リュウヘイの元へ行けよ』と自分の背中を押そうとしていたサトシにブチ切れて、スクバで彼の顔面を殴打。更に思い切り悪態をついてしまった……という、バイオレンスを経たハッピーエンドではあったが。
(あ、あれは流石に悪いコトしたよね)
ちょっとだけバツの悪い表情になる。
自分にあんな一面があったなんて……。サトシ以上に驚いていたのは、他でもないカエデ自身だった。
でも、あの時にブチ切れたからこそ、自分の気持ちがハッキリとしたのだ。
今、自分が想っている男子はリュウヘイではなく、サトシだということを。
「…………………………」
幼稚園時代から好きだったリュウヘイ。
優しくて
真っ直ぐで
『自分』をしっかり持っている男の子。
(ちょっとバカだけどね……)
思わず吹き出してしまったカエデだが、よくよく考えてみれば、リュウヘイはバカでよかったのかもしれない……という答えに辿り着くことができた。
だって……
「あっ!」
建物の角から姿を現し、こちらに向かってくる少年が視界に入る。カエデは考え事を中断し、窓の外に向かって、大きな声を上げた。
「おーーーーいっ! リュウヘーーイ!!」
「……………あっ!? カエデ!!」
顔を上げたリュウヘイが驚いた表情を見せたのは、ほんの一瞬だった。すぐに声の主に気がつくと、八重歯を見せながら彼はブンブンと右手を振る。
「リュウヘーーイ! ちょっと、そのまま外で待っててくれない!?」
カエデも手を振りながら、同じように満面の笑みを浮かべた。
雲1つない夕方の空に、1機の飛行機が轟音をたてながら横切ってゆく。2人は外壁にもたれ掛かりながら、その様子を何となく眺めていた。
「バイトは4時までだったの?」
「うん、今日もマネージャーからしごかれたぁ〜」
「お疲れ様」
飛行機が西の空に吸い込まれたように見える。カエデは空に視線を固定させたままで言葉を続けた。
「………あのね、リュウヘイ」
「ん?」
「私、サトシと正式に付き合うことになったんだ」
「うん、サトシから昨日聞いた。おめでとう」
「びっくりした?」
「うん、ちょっと。でもお似合いだと思う」
「違う。そこじゃなくて……」
「へっ?」
「サトシから聞いたんでしょ? 私が誰を好きだったのか……ってこと」
「…………………な、ナンノコトカナ?」
リュウヘイの話し方が一瞬カタコトになる。本当に彼は嘘が下手だ。カエデは思い切り首をナナメに捻り、彼の方へと顔を向けた。
「今朝、サトシから懺悔のLINEが届いた」
「えー!? やっぱりアイツ、黙っていられなかっんだ。……カエデ、許してやってよ。俺に情報を流したのは、確かにサトシの大暴走だったけど、それはオマエの為を思ってのコト……」
「嘘だよーん」
「は?」
「サトシから懺悔のLINEなんて来ていない」
「えっ? もしかして俺、カマかけられたの!?」
「そういうこと。ゴメン」
「ひどいな〜」
口を尖らせたリュウヘイだったが、自分を見つめる彼の瞳には、複雑な気持ちが混じっているようにカエデには見えた。
それは『ずっとカエデの想いに気がつかなかったこと』、更に『その恋心には応えることができない』という謝罪の気持ちなのだろう。
「リュウヘイ、私ね……」
「うん」
「幼稚園の頃から、リュウヘイのことがずっとずっと好きだった」
「…………カエデ」
「お兄ちゃんに遊んでもらえない時に『一緒に遊ぼ』って言ってくれたり、周りから『男のクセに』って笑われても、妹たちの為にままごとを止めない、強くて優しいトコロが大好きだった」
「…………………………」
「だからリュウヘイが鈍感で良かった……って思ってる」
「へっ? バカ? ナニソレ急に!?」
不意打ちを受けたような表情のリュウヘイを見て、カエデはいたずらっぽく笑う。
「だって、リュウヘイが私の気持ちを知っちゃったら、無理して付き合っていたかもしれないでしょ?」
「…………………」
「リュウヘイ、優しいから」
「…………いや、それはない」
リュウヘイは静かに答えた。
「え〜? それはそれで何か傷つくなぁ」
「い、いやっ! そういう意味じゃない。カエデが俺のことを好きだって言ってくれたのは本当に嬉しい。勿論、ビックリはしたけど」
「…………………………」
「……………俺はずっと『女の子は基本受け身だから、ちゃんと好きな男子と付き合った方がいい』、『男子は、その子のことが好きかどうか分からなくても、ある程度フィーリングが合えば、付き合ってみてもいいんじゃない?』なんて思っていた。ほら、俺って女子から告白なんてされたことがないから」
「………………………」
「だから今回、自分なりに色々考えてみたよ。少なくとも俺は、自分のことを好いてくれるだけの理由で付き合うことができないって判った。却ってその子に失礼なんじゃないか……って。特にカエデは俺にとって大切な幼馴染だから、簡単に答えなんか出せない」
「そっか……」
「面倒くさいでしょ?」
「ううん、リュウヘイらしくていいと思う。私って幸せだな。カレシが出来た上に、好きだった幼馴染からは『大切だ』と言われて……」
その時、カエデはふと思った。
自分のことを『全くモテない』と自虐するリュウヘイだが、実は彼を密かに想っている女子が、学校に何人かいるのではないか?……と。
彼の人となりを知れば、別に不思議なことではない。
(例えばマナカちゃん……とか? あ、これは私の願望か)
リュウヘイがマナカを好きだと判って、サトシの胸の中で泣いたのが、遠い昔のように感じる。
「リュウヘイ」
「何?」
「マナカちゃんのこと、頑張ってね。今の時点で『諦める』って答えを出すのは、まだ早いと思うよ」
「……………へっ?」
当然ながら驚くリュウヘイ。ポカンと開いてしまった口を金魚のようにパクパクとさせ、次に言おうとしている言葉を必死に探しているようだった。
「最近、マナカちゃんの様子がおかしいって、私も薄々感じてた。……で、サトシとのLINEで、その話になった時『詳しいことは言えねーけど、今泉が元気になるカギはリュウヘイが握っていると思う』って言ってたから、何か企んでいるんだよね?」
「いやぁ、『企む』ってほどじゃないけど、明日……」
リュウヘイは思わず頭を掻いた。
「明日?」
「うん、俺、ある人に会って来ようと思ってる。初対面のアポ無しだから不安だけど」
「リュウヘイのキャラなら大丈夫だよ。私が保証するから!!」
「カエデ……ありがとう。少し勇気が出た」
「うん、私の方こそありがとう」
恋が成就することはなかったけれど、自分を大切に思ってくれる彼の気持ちは心から嬉しい。
リュウヘイに今までの想いを告げ、彼の恋を応援できたことで、長年の恋心を完全に手放す準備は整った。
(…………さようなら、私の片想い)
バスは予定時刻よりも5分遅れて到着した。
「カエデ!? どうしたの?」
バスから降りて来たサトシは、カエデの姿を見て目を丸くする。
「待ってた。部活お疲れ様」
「いや、『待ってた』なんて簡単に言うなよ。この時間はまだ薄暗いし、バス停の周りは何もないんだから」
「今日だけだよ。サトシに報告したいことがあって」
「報告?」
「うん、ほら歩こうよ」
「あ、あぁ」
お互いの手と手が自然に近づく。そのまま2人は指を絡め、恋人繋ぎで道を歩き始めた。
「リュウヘイに伝えてきた」
「何を?」
「今までの気持ち。誰かサンが勝手にバラしちゃったから、キチンと自分の口から伝えようって思って、私なりのケジメをつけてきた」
「あ、やっぱり気がついた?」
「気づくに決まってるでしょ?」
「ゴメン」
「どうしようかな? よく考えたらヒドイよね?」
「また一発殴ったら気が済む? 覚悟はしてるけど?」
「うーん、残念ながら、今はサトシを殴る為のスクバを持っていないんだ。…………じゃあさ、許してあげるから……」
「うん?」
「私に告白して」
「はっ!? 告白なら4ヶ月前にしたよね!? ってか、俺らもう付き合ってるんだろ?」
「苦々しい顔して何か言われたことなら覚えているけど? 普通、女の子にあんな告白する? それも舌打ちのオマケまでついて……」
「……………………」
反論することができないサトシを見て、カエデはクスクス笑った。
「冗談だよ、サトシ。ちょっと意地悪して困らせただけ。コレでおあいこだね。大体、サトシはそんなこと出来るキャラじゃ……」
「山田カエデさん!」
サトシが言葉を遮る。そして繋いだ手を離すと、カエデの正面に向き直り、しっかりと目を見つめた。
「…………えっ?」
「俺は小学生の頃から、カエデのことがずっと好きでした!! これからも大事にします。だから俺とずっと付き合って下さい!!」
「…………………サトシ」
薄暗いにも関わらず、彼の顔が赤くなっているのが分かる。
「合格……かな?」
「や、やれば出来るじゃない」
「で、返事は?」
涙が溢れてきた。昨日も彼の前で号泣したばかりなのに。
「私も…………私もサトシが大好き!」
「サンキュ」
2人はそのまま顔を近づけ、お互いの唇にそっと触れる。
それは、まるで小鳥がくちばしを重ね合わせたような可愛いファーストキスだった。
《9》↓に続きます

