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【連載小説】悩み のち 晴れ!sideリュウヘイ(ライトブルー・バード第3部&FINAL《9》)

 🌟前回までのお話です↓

🌟そして、今回の相関図はコチラ↓

   《星名リュウヘイ》


 指先がインターフォンのボタンに触れようとした瞬間、星名リュウヘイは思わず腕を引っ込めてしまった。

 「………………………」

 まるで背中にモノサシを入れられてしまったかのような姿勢でその場に固まるリュウヘイ。そして『Arakawa 』と書かれた表札を見つめながら、彼は「はぁ……」とため息をつく。

 今更だが、自分はここに来て良かったのだろうか? 

 いくらマナカの為とは言えど。

 彼女とは『学校とバイト先が一緒』というだけの関係だ。そして勢いで告白して、見事にフラレている。そんな自分が出しゃばるなんて、お節介にもほどがあるのでは!?

 そんな思考に支配されたリュウヘイは、両手で頭を抱え、そのままガクンとうなだれてしまう。

「…………いやいやいやいや、これは今泉さんの為……そうそう今泉さんの為なんだから」

 己を鼓舞させるかのように呟きながら、ゆっくりと顔を上げた。そして視線の先を元のインターフォンへと戻し、右手の人差し指を恐る恐るボタンへと近づける。

 今度こそ!!

「………………」

 しかし、ボタンに触れることは出来たものの、インターフォンの音を鳴らす『最後の力』がどうしても出せない。プラスチックの硬さを指先で感じながら、リュウヘイは数十秒ほどフリーズしていた。

 (俺って、こんなチキン野郎だったけ?)

 そして「情けねー」と呟き、彼はその場にストンと座り込んでしまう。

 ここへ辿り着くまでの自分は、結構な使命感に満ち溢れていた。友達としてマナカのことを助けたい。それだけを強く思いながら……。

「……だけど、荒川さんにとって、俺はただの不審者だよな」

 初対面の相手から「カノジョさんと別れた原因は何ですか?」と聞かれて、眉をひそめないヤツはいないだろう。それなのに自分は、今まさにそんな無礼なことをしようとしている。

 ーーーヒロキ? アイツは温厚でいいヤツだよ。まあ、温厚すぎて何考えているか分かんねー時もあるけどな。

 以前サヨコから聞いた、荒川ヒロキの人となりをふと思い出す。

(温厚な人らしいけど、モノには限度があるからな〜)

 リュウヘイは相変わらず荒川ヒロキ宅の玄関扉前に座り込んでいた。

(いやいやいやいや、他に方法はないんだ。行動を起こさなければ、状況は何も変わらない)

 マナカは自分の意志をしっかりと持っている女の子だが、悪く言えば頑固者だ。誰が何を言っても、彼女は自分を責め、罰を与え続けるに違いない。

「…………………………」

 荒川ヒロキはそんなマナカの心を動かせるかもしれない唯一の人物なのだ。

 リュウヘイはスッと立ち上がる。

(せっかく荒川さんキーマンの家まで来たのに、ここでウダウダしてどうする自分!!)

 バイトを辞めて、GESジェスになるチャンスを完全放棄したら、マナカは数年後に後悔をするだろう。今は気が張っているから、気が付かないだけなのだ。

 自分も一緒。今、この場から逃げ出してしまえば、間違いなく後悔する!!

(だから逃げるな俺っ!!)

 リュウヘイは自分の両頬を思いきりぶっ叩き、「ヨッシャー!」と気合を入れた。そしてスッと腕を伸ばし、人差し指が折れそうな勢いでボタンをプッシュした。

 『ピンポーン』という音が中から聞こえる。

(ととと……とうとう押しちゃった)

 もうあとには引けない。リュウヘイは呼吸を整えながらヒロキが出てくるのを待った。

「はーい」

 男性の声が聞こえた。

(へっ!?)

 リュウヘイはその声に驚き目を丸くする。
 
 何故なら、声は扉を隔てた部屋の中からではなく、自分と同じ空間から聞こえたからだ。

「………………………」

 認めたくない事実によって、身体が一瞬硬直してしまったが、観念した彼はゆっくりと首を動かし、声の方向に視線を向ける。

「こんにちは、うちに何か用?」

 自分がいる位置から数メートル先にいたのは、必死で笑いを噛み殺している1人の青年だった。

(えっ!? この人が荒川さん!?)

 おそらく間違いないだろう。優しそうな雰囲気を漂わせるイケメン……サヨコから聞いていた通りのルックスだ。一瞬ポカンとしてしまったリュウヘイだが、直前までジタバタしていた己の姿を思い出し、脳内がパニック状態へと陥ってしまった。

 (ももも……もしかして俺、荒川さんにずっと見られてた!?)  

 穴があったら……入ってそのまま出たくない。

 (いやいや、落ち着け自分! 初対面なんだからまずは名前を名乗れ!!)

「あ、あの……俺は」 

 ドキドキしながら口を開いたリュウヘイに、ヒロキは言葉を被せた。

「君、『チワワくん』だよね?」

「へっ?」

 本名をすっ飛ばされてしまった……。

「あ、失礼。サヨコさんが言っていた通りの男の子だったから、つい。初めまして星名リュウヘイくん。俺が荒川ヒロキです」

 そう言って彼はニッコリと笑った。

     
         ☆


「ごめんね、すぐに声を掛けようとしたんだけど、星名くんの動きが可愛くて、つい……。ところで俺に用事? だったら中で話そうか?」

 そんなワケでリュウヘイはすんなりと第一関門をクリアしてしまった。ヒロキから不審者扱いされなかったのは、サヨコからの事前情報と自分の『チワワ顔』のおかげかもしれない。

「星名くん、コーヒーしかないんだけど大丈夫? 砂糖はいるかな?」

「あ、ありがとうございます。砂糖貰えたら嬉しいです」

「ところでさ、ここの住所はサヨコさんから聞いたの?」

 ヒロキはテーブルに2つのマグカップを置きながら、リュウヘイの顔を覗き込んだ。

「え、えっと……」

 リュウヘイは言葉に詰まった。『はい、サヨコさんからなんです』と言った方が色々と楽だが、やはり嘘はつきたくない。

「……えっと、俺の幼馴染みからです。多分、荒川さんの知らないヤツ」

「えっ? そうなの?」

 全く接点がないであろう井原サトシからヒロキの住所を聞いた時、リュウヘイは流石に疑問の言葉を口にした。

 しかしサトシは情報の出処を明らかにすることはなかった。『今泉の為に、そこはスルーしろ』とだけ言って……。

 何らかのカタチでマナカが絡んでいる……と言っているようなものだ。

「詳しい理由は俺も分からないんです。でもソイツはちゃんとしたヤツなので、何もなければ個人情報を第三者にベラベラ話すようなことはしません。荒川さんは気分悪いとは思いますが、そこは大目に見てもらえませんか?」

「?……う~ん、まぁいいか。俺も星名くんには会ってみたかったし」

「ありがとうございます!」

 ホッとしたリュウヘイは、砂糖たっぷりのコーヒーをひと口飲んでから、部屋を軽く見渡す。必要最低限の家具だけが置かれているスッキリした部屋で、余計な飾り物は一切見当たらない。これだけで判断するのはどうかと思うが、ヒロキは竹を割ったような性格かもしれないな……と思った。

「今泉さんと何かあったの?」

「えっ!?」

「何かあったから、星名くんの幼馴染みはこの場所を教えたんだよね?」

 サヨコから色々聞いているヒロキならば、リュウヘイが現れた時点で、マナカを連想するのは当然の流れだろう。

「はい、え、えっと……」

 リュウヘイは重くなりそうな口を必死で動かし、マナカに起こったことをヒロキに伝える。

「……………………」

 それを黙って聞いているヒロキ。眉間に少々シワが寄ったものの、表情から彼の感情を読み取るのは難しいとリュウヘイは思った。

「……今から失礼なことを聞きます。荒川さんとカノジョさんが別れた理由は、本当に今泉さんなんですか?」

「………………」

「ごめんなさい。でも、今泉さんは自分を責めてばかりで殻に閉じ籠もっているんです。それは本当なのかどうか知ることもしないで……」

「『本当だ』って言ったら?」

「えっ?」

「例えばの話だよ」

 リュウヘイはゴクンと唾を飲み込む。

「本当ならば仕方ありません。だったら、それを分かった上で今泉さんを説得する方法を考えるだけです。俺はどうしても彼女に復帰して、夢を叶えて欲しいですから」

「ふ~ん。星名くんは本当に今泉さんが好きなんだね」

 そう言ってヒロキはニッコリと笑った。

「えっ、えっ、えっ」

 ヒロキが自分の片思い事情を分かっているのは想定内だが、実際に口にされると、やはり慌てふためいてしまう。
 顔が真っ赤なったリュウヘイは右手を横にバタバタと振りまくり、必死に言葉を繋いだ。

「たたた……確かにそうですけど、俺は恋愛成就なんて全く考えていません。今日は今泉さんの友達としてここに来ています。ついでに言えば、俺はウッカリ告白して見事にフラレているんですっ!」

「えっ、そうなの?」

 ポーカーフェイスの持ち主かと思ったヒロキが露骨に驚いている。サトシもそうだったが、どうしてこんなに驚かれるのだろう。

 マナカはまだヒロキを想っているというのに。

 平気だと思っていた失恋の傷がチクリと痛んだ。

「星名くん」

 ヒロキがリュウヘイの頭をポンと叩く。

「…………はい?」

「星名くんってさ、顔は可愛いけど……」

「?」

「『顔つき』はカッコイイよね」

「へっ? どうしたんですか急に!?」

 そんなこと初めて言われた。

「思ったことを言っただけ。もちろんお世辞じゃないよ。俺は心にも無いことを言ってまで、他人に好かれようなんて思っていないから」

「……………………」

「みんな俺のことを『温厚で優しい』っていうけど、よほど嫌なヤツじゃない限り、ただ普通に接しているだけなんだよ。場合によっては嫌なヤツでもにこやかに対応する。色々面倒くさいし、それ以上の感情は大事な人の為に取っておきたいからね」

「…………………」

「今泉さんに関しては踏み込み過ぎたと思っている。気がついたら彼女の前でカッコつけている自分がいた」

「それって……」

 破局の原因はユリたちが言った通り、マナカが原因ということなのか!! 覚悟していたハズなのに、この後の自分に何ができるのかと不安になってしまう。更にヒロキのマナカに対する気持ちも分かってしまったのだから……。

「星名くん、早合点しないで」

 ヒロキが優しく制する。

「早合点?」 

「ここでさっきの質問に答えるね。俺がヒデミ……あ、ヒデミって元カノの名前ね……と別れた原因が今泉さんかどうかという答えは『No』。理由は今泉さんは一切ジャマはしていないから。これは俺とヒデミだけの問題」

「………………」

「そして俺と今泉さんが両想いかどうかの答えも『No』。確かに惹かれ合ってはいたけれど、付き合えるかどうかは別。俺はずっと彼女の前でカッコつけ続けるだろうし、彼女は彼女で緊張しっぱなしで、お互いに『素』は出せないと思う」

「………………」

「付き合うって、そういうことじゃないよね? 今泉さんはもう分かっていると思うよ。だって今の彼女が想っているのは俺じゃないから」

「どうしてそんなことが分かるんですか? 今泉さん、俺を振る時に『荒川さんを忘れられない』って言ったのに?」

 頭が混乱してきた。

「星名くん」

 ヒロキが再びリュウヘイの頭に触れる。

「………………」

「まっすぐ前だけじゃない。別の方向を気にすることも忘れないで」

「……………荒川さん」

 熱が一気に下ったかのように、スッと気持ちが落ち着いた。やっぱりこの人はカッコイイ。マナカが惹かれたのは当然だよなと素直に思う。

「コーヒー、冷めちゃうよ?」

「は、はい」

 コーヒーは既にぬるくなっていたが、リュウヘイの身体に温かく染み渡った。

        
         ☆


「話は戻るけど、破局の噂を流された理由は大体分かっているから」

 ヒロキは苦笑いをしながらコーヒーを飲み干した。

「そうなんですか?」

「例の女子スタッフの情報は『姉』経由でしょ? その『姉』はヒデミと犬猿の仲なんだよ」

「……………」

 ビンゴ!だ。マナカを責め立てた女子スタッフの名前は敢えて出さなかったのに、ヒロキはユリが主犯だと分かっている。

「ヒデミは同じ土俵には上らないで、うるさい蝿のように扱っていたけどね。それが火に油を注いでいたようでさ……」

「大学生になっても、女子の問題って無くならないんですね」

 リュウヘイはため息をついた。

「で、クリスマスの日には俺とも衝突した。流石にカチンときたから、ちょっと語気を強めちゃってさ……。おそらくその時の憂さ晴らしも兼ねたんだと思う」

「なんか怖すぎるんですけど」

「世の中には自分の思考では理解しきれない人間が沢山いるからさ、仕方ないよ。でも今泉さんには申し訳ないと思う。流れ弾に当たったようなもんだからね」

「俺、もう一度、今泉さんを説得します」

「いや、ちょっと待ってくれる?」

「えっ?」

「先ずは俺から話すよ」

「本当ですか!?」

 最強の助け舟にリュウヘイの目が輝く。マナカはビックリするだろうが、これで問題が一気に片付くハズだ。

「この件の他にも、今泉さんには色々伝えなきゃならないことがあるからね。彼女も真正面しか見ていないようだから」

「えっ?」

 リュウヘイが首を傾げたのと同時に、ピンポーーンというインターフォンの音が部屋に響いた。

「あ、お客さんですね。じゃあ俺はそろそろ……」

「お客さんじゃなくて、ヒデミ。俺が間違って持って帰った教科書の回収に来た」

「元カノさん!?」

「ちょっと待ってて」

 ヒロキはそう言って玄関ドアへ向かう。

(良かった。荒川さんと元カノさんは別れてもいい関係なんだ)

 リュウヘイは頬杖をつきながらヒロキの背中をじっと見つめた。

 「ごめんヒデミ。俺が悪いのに、わざわざ来てくれて」と謝りながらヒロキは扉を開ける。

 ちなみにこのアパートは狭小タイプ1Kで、リュウヘイが座っている場所から玄関は丸見えだ。しかしヒデミの姿はヒロキの背中で隠れてよく見えない。

(あまりジロジロ見ない方がいいよね)

「別にいいよ。帰るついでだったから………あれ? 誰か来てるの?」

(あれ? どっかで聞いた声……)

 リュウヘイが思いきり顔を上げ、ヒデミはヒロキの肩ごしに部屋の中を見る。

 その瞬間!

「「あーーーーーーーーーーーっ!!??」」

 2人の大声が思いきり重なった。

「あの時の『きれいなお姉さん』」
「あの時の『エンジェルボーイ』」

 目を丸くしながらお互いを指差した2人。次に出た言葉もしっかりと重なる。

 ヒロキだけが、状況を掴めずキョトンとしていた。

「えっ、何?」

     

     🌟《10》↓に続きます。

🌟リュウヘイとヒデミが以前に出会っていたストーリーはコチラ↓