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『絵本・白峰アカネの冒険』35. もうひとつの黒歴史

リンが語り始めたもうひとつの黒歴史。それは、アカネたち魔祓い巫女の祖先が同族を暴力的に排除した衝撃の歴史だった。

前回はこちら:

「これを持っているがいい」
そリンが首から「巫女の環」を外し、アカネに差し出した。

――まさか!

アカネは驚き、手を出すどころか、身体の横にぐっと引き寄せた。

10歳で「巫女の環」を与えられてからというもの、リンに奪われるまで、アカネは一度たりと「巫女の環」を外したことがなかった。日中はもちろん、寝るときも入浴時も、身に着ける。巫女の郷の魔祓い巫女たちは、全員がそうだ。

「巫女の環」は魔祓い巫女の身体の一部なのだ。

アカネの心の中を読んでいるかのように、リンがいたずらっぽい目で冷ややかに笑ってみせた。

「いいから受け取れ、こんなものは、ただの飾りだ」

「巫女の環」を外し、アカネに差し出すリン

アカネがおそるおそる「巫女の環」を受け取ると、リンが

「三歩、下がるのだ」

と言った。静かだが、有無を言わせぬ強さがこもった声だ。

リンが退くのを見届けたリンは、右手をあげ宙を一閃させた。

アカネの足元から竜巻が吹き上がり、彼女の身体を激しく揺らした。

リンが右手をひらひらと動かすと、竜巻が、蛇が身をくねらすように空間を動き回り、周囲の木々の葉を吹き飛ばした。

リンが右手を高く上げ拳を握ると、暴れまわっていた竜巻が一瞬にして消滅した。

「巫女の環」なしで呪力をふるうリン

「どうだ、わかったか。私に『巫女の環』は必要ない」

リンがアカネが握りしめている「巫女の環」をあごで指して言った。

「太古から存在した真正の『風の巫女』は、そんな子供だましの道具を使わずとも、自在に空気を操ることができた」

リンがアカネに近づき、手を差し出した。アカネは、預かっていたリンの「巫女の環」をリンの手に載せた。

「こいつは」
と言って、リンが「巫女の環」を振ってみせた。

「人間の女で呪力のかけらを持つ連中に持たせて、その呪力を強化するために作られた。『東野の国』に送る傭兵を増やすためだ。強化されるといっても、その力は真正の『風の巫女』の力には遠く及ばない。お前たち『巫女の郷』の連中は、そんな出来損ないどもの子孫だ

「では、あなたは?」

「私は、真正の『風の巫女』の血を引く存在だ」

リンが誇らしげに胸を張った。しかし、その目には寂しさの影がただよっているように、アカネには見えた。

出自を明かすリン

リンの話は『禁書・魔祓い巫女の歴史』の記述と一致していた。今、目の前でリンが見せた力と併せて考えると、真実と結論してよいだろう。

あの本を読んだときに抱いた疑問がよみがえった。

なぜ、現在の巫女の郷には「巫女の環」なしで呪力を発揮できる巫女がいないのか? 

自分がリンに魔祓い巫女の歴史を話す中で「巫女の輪」なしで風を操っていた巫女の存在に触れなかったのは、この疑問が引っかかっていたからだと気づいた。

今、リンが口にした「出来損ないどもの子孫」という言葉の中に、アカネが抱いている疑問への答えが隠れていそうな気がする。

アカネはリンに問いかけた。

巫女の呪力は、代々、母親から娘へと伝えられてきました。過去に真正の『風の巫女』が存在したなら、その力を受け継ぐ巫女が現代にいてもおかしくないと思います。けれども、」

そこでアカネの言葉をさえぎって、リンが強い口調で返してきた。

「けれども、真正の「風の巫女」の力を受け継ぐ巫女は存在しない。なぜなら、お前たちの先祖の出来損ない巫女どもが真正の『風の巫女』を全員、封印してしまったからだ」

いつもは滑らかな白い陶器のようなリンの頬が朱を帯び、目に怒りの火が灯った。

「全員を、封印した……ですって」

「そうだ」

リンが怒りに燃えた目を、どこか遠くの一点に向けた。

「『東野の国』に派遣された魔祓い巫女たちの間で、真正の「風の巫女」の血を引く巫女たちは『与えられし者』と呼ばれていた。『大いなる力』から呪力を与えられて生まれた者という意味だ。

これに対して、「巫女の環」の助けで呪力を発揮する巫女たちは『獲得せし者』と呼ばれた。生まれた後に人為的な手段で呪力を獲得した者という意味だ」

「大いなる力」とは、ヤシマに生きる人々が――人間であるか魔祓い巫女であるかを問わず――畏敬する「森羅万象を産出する無限の力」のことだ。

『禁書・魔祓い巫女の歴史』によれば、「風の巫女」とは、本来は「大いなる力」から空気を操る力を授けられ、その力をふるうことによって「大いなる力」と人間を仲介する存在のことだった。だから、「巫女」なのだ。そして、森羅万象には魔獣も含まれていた。

しかし、魔獣と人間の対立が始まり「風の巫女」が「魔祓い巫女」に変質していく過程で、「巫女」の意味も魔獣の「魔=悪意」から人間を守る守護者へと変わって、今日に至っている。

リンがつづける。

『獲得せし者』どもは、『与えられし者』を恐れた。『東野の国』と『西の山国』の戦争に傭兵として参加している間は戦友同士かもしれない。

しかし、戦いが終わって『北の山国』に帰ったら、圧倒的な力をもつ『与えられし者』たちに支配されるのではないか? そう考え、疑心暗鬼に陥った」

「疑心暗鬼に陥って、どうしたのですか?」

アカネは唾を飲んだ。

「実際に戦が終わり、魔祓い巫女は全員が白峰山に移動することになった。

その移動のどさくさに紛れて、『獲得せし者』どもは、『与えられし者』たちを封印してしまったのだ。

ひとりひとりの呪力では『与えられし者たち」に適わない。しかし、頭数は、『与えられし者』の3倍いたから、数にまかせて『与えられし者』を圧倒してしまった」

3人がかりで「与えられし者」を倒す
「獲得せし者」たち

「ひどい......」

アカネの口から、思わず言葉がもれた。

「ひどい? そうだ、ひどい。人でなしの所業だ。しかし、お前たちの現在は、その人でなしの所業の上に成り立っているのだ」

罪の意識に打ちのめされて白峰山に帰ってくる『獲得せし者」たち
リンが語った黒歴史に愕然とするアカネ

「私は、お前たちを、絶対に許さない」

リンが厳しい口調で言い放った。

挿絵の制作過程を記事にしました。

次回はこちら:


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