『絵本・白峰アカネの冒険』36. 心の闇
リンから聞かされた魔祓い巫女の同族間の争い。アカネは、自分の先祖たちの心の闇に想いを馳せるのだった。
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「反論しないのか? 自分の先祖がそんなヒドイことをしたはずがない。そうは思わないのか?」
リンが厳しい声でアカネを問い詰めた。
アカネは、無言で眼を伏せた。
「そういうヒドイことが、いかにもありそうだ」と思い、反論する気にはなれなかった。

アカネ自身、リンに痛めつけられ「巫女の環」を奪われていた。たったいまも、リンの凄まじい呪力を目の当たりにした。
なぜかわからないが、アカネはリンを以前のようには、恐れていない。それでも危険な相手として警戒しているし、やはり恐い。
ということは、アカネの先祖の「獲得せし者」(後天的な魔祓い巫女)たちも、「与えられし者」(生れながらの魔祓い巫女)たちを恐れただろう。「獲得せし者」たちの中に、戦争終結後に「与えられし者」たちを排除しようと画策するグループが現われても不思議はない。


現実に終戦を迎えたとき、魔祓い巫女たちは「東野の国」に裏切られた。「北の山国」の国民の命と引き換えに白峰山に幽閉される事態に追い込まれ、全員の心に恐怖と不安が、重く、暗く、のしかかったはずだ。
そんな極限状況で、「与えられし者」排除を企むグループが、周囲の「獲得せし者」たちを扇動して、「与えられし者」たちを一斉攻撃させた。
個々の呪力に差はあっても、人数比では「獲得せし者」たちが「与えられし者」たちの3倍いたのだ。「与えられし者」たちに勝ち目はなかった。
アカネにとって、この展開は、非常に現実味のあるものだった。

「獲得せし者」たち
「お前も、私が恐いか? 私を殺したいか?」
リンがアカネに迫ってきた。
「『与えられし者』たちは殺されたのではなく、封印されたのでしょう?」
アカネは言い返した。
「同じことだ。二度と封印を解くつもりはなかったのだから」
リンは、続く言葉をいったん飲み込んでから、吐き出すように言った。
「殺すより、もっと残酷だろう。狂気に追い込まれたまま、何十年と生き続けるのだ」
アカネがうつむくと、その頭の上から声を浴びせてきた。
「どうだ。お前も、私を封印したいか?」
「あなたが、先に私を封印しようとしました」
と言い返したかった。先祖の悪行は申し訳ないが、だからといって、自分が危害を加えられるのは、スジ違いだ。
しかし、アカネは自分を抑えた。反論しても、火に油を注ぐだけだ。
アカネは、自分のことを、リンが今すぐどうこうする気はないと見ている。
――ここは冷静に時間を稼ぎ、態勢を立て直すチャンスを待つのだ。
アカネは黙ってコートをまとった巫女に近づいた。さっさと背負って、移動しようと意思表示するつもりだった。
巫女は目を薄く開いて、口をモゴモゴさせている。アカネが巫女を抱え起こそうとすると、リンの声が飛んできた。
「そいつは、歩かせろ。縄で縛って、お前が支えて歩け」
リンが制服の内ポケットから細縄を取り出し、差し出してきた。
身体に貼りつくようなタイトな制服に細縄を収納していたことが不思議だと思ったが、それを受け取り、巫女の身体を引き起こし両手を縛った。
「行くぞ。お前が先に歩け。私が後ろから指示する」
日が落ち、あたりはすっかり暗くなってきた。やがて、三人は、フモトノ市の周縁部の住宅地に足を踏み入れるのだった。

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