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『絵本・白峰アカネの冒険/34. 黒歴史へようこそ

アカネは、リンの問いかけに答えて、魔獣を悪者にして人間と危うい共存を保ってきた魔祓い巫女の黒歴史を語り始める。

前回はこちら:

リンはコートを着た3人の巫女のうち2人を洞窟の岩壁に封印した。アカネは封印される巫女たちの精神状態を案じたが、止めに入ることができる状況ではない。二人が封じ込まれた場所を忘れないよう目に焼き付けておくしかなかった。

リンは、アカネに残った一人の巫女を背負うよう命じた。

「こいつは、街に連れて行って色々話してもらわなきゃいけないからな」

リンは冷たい目でアカネとアカネが背負った巫女を見て言った。

リンの先導で、二人と背中の一人は、フモトノ市を目指して歩き始めた。

力仕事には慣れているアカネだが、巫女ひとりを背負って1時間歩くと、背中の重さがこたえてきた。

「ここらで一休みするか」

雑木林の中でリンが言った時は、正直、ほっとした。

背負っていた巫女を草の上に寝かせ、巫女服の裾で汗をぬぐっていると、リンが尋ねてきた。

「お前は、どこまで知っているのだ?」

「『どこまで』とは?」

「お前は、魔祓い巫女が、人間から身を守るために魔獣を人間界を送りこんでいると言った。そのとおりだ。では、その背景にある秘められた歴史をどこまで知っているのかと訊いている」

アカネを問いただすリン

アカネは考えた。

まず、自分は何も知っては、いない。①『禁書・魔祓い巫女の歴史』から得た知識 ②自分の巫女の郷での経験、③最近の出来事 の3つを結び付けて推理しているだけだ。

その推理については、3つの可能性がある。

《ケース1》リンが事実を知っていて、
      それがアカネの推理と
      違っている。

《ケース2》リンが事実を知っていて、
      それがアカネの推理と
      一致している。

《ケース3》リンが事実を知らず、
      アカネの推理が正しいか
      間違っているか
      判断できない。

巫女養成課程で確率を習った。こういうときは、それぞれのケースが事実である「場合の数」を求める必要があったような気がするが、やり方を思い出せない。基本、数字は苦手だ。

――私に有利な展開になりそうな《ケース2》と⦅ケース3》を足して60パーセントだから、考えていることを言ってみよう

そう、決心した。

リンに魔祓い巫女の黒歴史を語るアカネ

「今のヤシマ国は、昔は『北の山国』、『東野の国』、『西の山国』に分かれていました。魔獣と魔祓い巫女は、『北の山国』にだけ住んでいました。『東野の国』と『西の山国が争っていて、『北の山国』は魔祓い巫女を傭兵として『東野の国』に送って報酬を得ていました。その頃の魔祓い巫女は、まだ魔獣とは闘っていなかったので、『風の巫女』と呼ばれていました」

ヤシマの三国時代

「それで?」

リンが尋ねる。

「『北の山国』は、傭兵として送り出す『風の巫女』を増やすため『巫女の環』を増産することにしました。『巫女の環』は白峰山だけで採れる鉱石が材料です。白峰山でこの鉱石の採掘を拡大したところ、魔獣が人間を襲うようになりました」

元々は「巫女の環」なしで風を起こせる「風の巫女」がいたことは伏せた。なぜか、そこには触れない方が良いような気がした。 

「巫女の環」をつけた「風の巫女」と採掘現場

「なりました......ということは、それまでは、魔獣と人間は争っていなかったと言いたいのか?」

「はい。平和共存していました。『巫女の環』の材料になる鉱石は魔獣にとって大切なものだったらしく、その鉱石を人間が大量に採掘するのを止めようとしたと考えられています」

鉱石が魔獣のエネルギー源かもしれないことには、触れなかった。『禁書・魔祓い巫女の歴史』も、この点については仮説に留めていたからだ。

「つまり、魔獣と人間の争いは、人間の行為が引き起こしたものだということか?」

「そうです。『風の巫女』は魔獣とも闘うことになり、その呼び名も魔祓い巫女に変わりました。こうして、『東野の国』の軍隊に傭兵として参加する魔祓い巫女と白峰山で魔獣と闘う魔祓い巫女とで、二手に分かれたのです」

「東野の国」軍に傭兵として参加する魔祓い巫女たち
白峰山で魔獣と闘う魔祓い巫女

「それから、どうなった?」

「ついに『東野の国』が『西の山国』を倒しました。『東野の国』の軍に参加していた魔祓い巫女は、故郷の町や村に帰れるはずでした。ところが、『東野の国』が『北の山国』に攻め込んで大勢の人質を取ったのです。そして、人質の命と引き換えに魔祓い巫女が全員白峰山に集まるよう、要求しました」

「なぜ、『東野の国』は、そのような要求をしたのだ?」

「理由はふたつあります。ひとつには、魔祓い巫女を恐れたからです。傭兵として使っていて、常人離れした能力をよく知っていましたから。もうひとつは、魔獣が人間界に進出するのを防ぐ防壁にするためです。魔祓い巫女を白峰山に隔離して魔獣との闘いに専念させておけば、『東野の国』は魔祓い巫女からも魔獣からも守られて、一石二鳥です」

「東野の国」の兵士に護送される魔祓いの巫女たち

「そのとき、本当に、ひとり残らず白峰山にこもったのか?」

リンが鋭い視線を投げてきた。

おかしなことを聞いてくると思った。当時は大変な混乱状態だっただろうから、どさくさまぎれに少数の魔祓い巫女が「東野の国」に取り残されたり自ら残ったりした可能性はある。

だが、『禁書・魔祓い巫女の歴史』にそんなことは書いてなかったし、今さら確かめようもないことだ。だったら、「少しは残ったかもしれない」などと言って話をややこしくする必要はない。

「ひとり残らず山にこもったと聞きました」

「白峰山に行かなかった魔祓い巫女がいるかもしれないとは、考えないのか?」

「可能性としてゼロだとは言い切れないでしょうが……それが、なにか?」

アカネがリンと目を合わせようとすると、相手が目をそらした。

「いや、いい。ともかく、お前たちは、『東野の国』に取り残された魔祓い巫女はいかかったと認識しているのだな」

アカネは黙ってうなずいてみせた。

「で、どうなった?」

「魔祓い巫女の傭兵を増やす必要がなくなり、『巫女の環』を新たに作る必要もなくなりました。亡くなっていく巫女の『巫女の環』を若い巫女に回せば数が足りるようになったのです」

アカネが身に着けていた「巫女の環」も、三十年前に世を去った魔祓い巫女が使っていたものだった。その巫女が亡くなったときに巫女育成所が回収して保管していた。

その「巫女の環」は、リンから取り返すことができればアカネの物だが、いつかはまた巫女養成所の手に返り、後々の世代に使ってもらうものなのだ。

「巫女の環」をつけたアカネと、その後輩

「新しい『巫女の環』を作らないので、材料になる鉱石の採掘場は閉鎖されました」

「すると、魔獣は大人しくなった。そうではないか?」

「巫女の郷を脅かすことがなくなりました。まして、ふもとの人間界にとっては、全く無害な存在になったのです」

「しかし、それでは困る者がいた」

「はい。私たち魔祓い巫女です。魔祓い巫女に魔獣から守ってもらう必要がないと人間が知ったら、人間は魔祓い巫女を排除しようとするでしょう」

「それで、魔獣をフモトノ市に送り込んで、今でも魔獣は危険だと人々に思いこませようとした

「そうです。魔獣にとっては、まったくの災難です」

「災難?」
リンがいぶかし気な表情をみせる。

「はい。大切な鉱石を人間に奪われ、それが収まったら、今度は魔祓い巫女の手で人間界に送り込まれて悪者扱いされ、あげくに封印される。毎年、100頭以上の魔獣がフモトノ市で封印されると聞いています」

「お前は魔獣に同情しているのか? おかしな奴だ」

「同情というか……私たちは、魔獣たちにずいぶん理不尽なことをしてきたし、今もしていると思っているのです」

リンの表情が突然険しくなった。

「ところで、お前は、中級巫女の分際で、なぜ、そんな重大な秘密を知っているのだ?

――リンが「重大な秘密」と言ったということは、私の推理は事実だったのだ。

と喜んだものの、別の不安が兆してきた。アカネは、魔祓い巫女の隠された歴史を知った経緯についてリンに語るシナリオを考えていなかった。

アカネは、「秘められた歴史を知っているからには巫女の郷の重要人物だろう」とリンに思わせて封印を免れることを思いついた

本当は推理しただけの歴史を語ってみたところ、幸運にもアカネの推理は歴史の事実と合致していた。

ここまでは、良かった。

ところが、「では、どこでその事実を知ったのか?」という質問への答えを用意していなかった。この質問に答えられないと、巫女の郷の重要人物と思いこませることができなくなる

どういう話にしようかと頭を高速回転させていると、リンが厳しい目でアカネを見つめながら

「お前は、本当は何者なのだ? 私に近づいてきたのは偶然ではないだろう? 誰に命じられて、何のためにやってきた?」

と訊いてきた。緊張と警戒、そして不安がないまぜになった口調だとアカネは感じた。

アカネに対して疑心暗鬼になるリン

――ええぇ!そういう風に話を持ってくるか! 私は脚本家じゃないんだから、そんな込み入った展開のシナリオは作れない。困った!

顔から血の気が引き始めるのがわかる。

答が用意できていないため焦るアカネ

ところが、リンが、ふと表情を緩めた。

「まぁいい。込み入った事情は、あとでゆっくり聞かせてもらうことにする。その前に、お前が知っている歴史には登場しない、もう一つの黒歴史を教えてやろう

リンはそう言って、薄い唇の端に冷たい笑みを浮かべた。

次回はこちら:




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