『絵本・白峰アカネの冒険』33. 黒歴史への扉
謎の洞窟でリンと対峙するアカネ。魔祓い巫女と巫女の郷が秘めた黒歴史への扉が、今、開かれる。
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フードをかぶった3人の魔祓い巫女はリンが起こした突風に飛ばされ、2人が洞窟の入口側、もう1人がアカネの向かい側の岩壁にもたれて倒れ、ぐったりしていた。
「ふん、手ごたえのない連中だ」
リンはひとことあざけると、右手を高くかざし、左手を身体の横で一閃させた。
ヒューという音を立てて、「巫女の環」が3つ飛来し、次々とリンの右手に収まった。3人の魔祓い巫女が身に着けていたものだ。玉を結ぶ飾り紐が切れているのに、玉がばらけずに原形をとどめているのが不思議だった。

リンがアカネを振り返った。
「また、コレクションが増えた」
リンの勝ち誇ったような笑顔に反応する気にはならなかった。もともと他人の自慢に調子を合わせるのは嫌いだし、相手がリンとあっては、なおさらだ。

もっとも、リンは気を悪くした風でもなく
「それより、お前は、ここで何をしていたのだ?」
と訊いてきた。
「見慣れない洞窟があったので、のぞきにきたんです」
リンが形の良い眉を少し持ち上げる。
「そもそも、なぜ、魔獣ゾーンにいるのだと訊いている」
「ご想像におまかせまします」

アカネは、自分がリンを前に少しもおじけづいていないことに自分で驚いた。
以前、リンに手もなく叩きのめされ「巫女の環」を奪われた。その後も、リンは、度々夢に現れてアカネを脅かした。
そのリンが目の前にいて、今度こそ自分を完全に封印しようとしているのに、不思議と恐くないのだ。
どうも、封印が解けてこの世界に戻って来てから、自分が以前の自分とは違うような気がする。

リンが唇の端に冷たい笑いを浮かべた。
「まぁいい。強気にしていられるのも、今のうちだ。お前を封印する前に、面白い話を聞かせてやる。この魔祓い巫女どもが、ここで何をしていたと思う?」
「さぁ? さっぱり見当がつきません」
と答えたが、実のところは、
*3人がふだんの巫女服とは異なる衣装を
着ていたこと
*魔獣を引き連れていたこと
*この洞窟に「巫女秘薬」がストック
されていたこと
から、頭のなかにひとつのイメージが像を結び始めていた。
「そこの魔獣だが、呪力で半抑制状態にされている」
リンが、酩酊した人間のようにフラフラしている魔獣を指さして言った。
「巫女どもは、ここにストックしてある『巫女秘薬』を持ち出し、それをもって魔獣を洞窟の反対側の出口まで引きずっていく」
「出口に何があるのですか?」
と聞きながらも、およその見当はついている。
「フモトノ市の郊外で、今は使われていない農業用水路につながっている。出口は内側に結界が張られ、外側は巧みにカムフラージュされていて、フモトノ市側から見つけることはほとんど不可能だ」
「しかし、あなたは、ここにいる。その出口を見つけたのですね」
「魔獣を捕らえずに泳がせ、あとをつけた。ラッキーだった。錯乱状態の魔獣が、自分が来た道を覚えているなど、めったにないことだからな」
「錯乱状態?」
「そうだ。半抑制状態の魔獣に大量の『巫女秘薬』を飲ませたら、どうなる?」
「一気に抑制が解け、極度に興奮して錯乱状態になります」
巫女養成課程で、その実験をやったことがある。
結界の破れ目からさまよい出て、おびえきっている魔獣を捕らえ「巫女秘薬」で錯乱させ、最後は封印した。
封印したのは「危険だから」という理由だが、「危険にしたのは誰だ?」という話だ。悪趣味な実験だと思ったのを覚えている。
「この巫女たちは、用水路をつたって魔獣をフモトノ市の市街地近くまで連れていく。そこで魔獣に大量の『巫女秘薬』を飲ませ錯乱状態にしてから、放す。錯乱状態の魔獣は市街地の騒音に引き付けられて街中に出て、騒ぎを起こす。そこに私たち『魔獣退治屋』が駆けつけて捕える……というわけだ」


なるほど、と思った。アカネが遭遇した魔獣の中に、わざわざ白峰山を下りてフモトノ市まで行って悪さをしそうなのはいなかった。
自分の知らないところで狂暴な魔獣もいて、それがフモトノ市に侵入するのだろうと自分を納得させて「魔獣退治屋」になることにしたのだが、落ち着いて振り返ると、巫女の郷を出たい一心から「本当に魔獣がフモトノ市まで進出するのか?」という自分の中の疑問に蓋をしただけだった気がする。

フモトノ市に来てから『禁書・魔祓い巫女の歴史』に出会い、魔獣が白峰山の特殊な鉱石が発するエネルギーで命をつないでいる可能性があると知った。それが事実なら、魔獣にとって、フモトノ市に進出する動機など.全くないことになる。

魔獣と魔祓い巫女の過去
「驚いていないようだな」
リンが探るような目をアカネに向けてきた。アカネは、その目を見つめ返した。今も、自分で驚くほど落ち着いていられた。
「もしかして、お前は、このカラクリを知っていて『魔獣退治屋』になろうとしたのか?」
リンの声に、わずかだが動揺が現われたと思った。
次の瞬間、頭の中を閃光が走った。
*自らの白峰山での経験
*フモトノ市で降ってかかった災難
*『禁書・魔祓い巫女の歴史』を読んでから
ずっと抱えていた疑問
*いまのこの状況
それらが、全て1本のストーリーにつながった。そして、そのストーリーをここでリンにぶつければ、封印されずにすむかもしれない。アカネは、その可能性に賭けることにした。

「私は、魔祓い巫女が魔獣をフモトノ市に送り込んでいることを、知っていました」
落ちつきはらって答えた。
「魔獣をフモトノ市に送り込むことには、『魔獣退治屋』の仕事を成り立たせるためだけではなく、もっと大きな目的があることも」
「どんな目的だ?」
リンが小さく息を飲んだ。
「その目的とは、巫女の郷を存続させるため。いえ、魔祓い巫女が人間に滅ぼされるのを防ぐため」
リンが大きく目を見開き、今度は小さく声を洩らした。
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