バンドと楽器への執着半世紀 5.DTM機材編
この50年の間に、複数の楽器を実際に演奏・録音しトラックダウンしてオリジナル曲を製作する方法から、PC上で楽譜スコアに似たタイムシーケンス上で音源を並べていくソフトウェア手法に変化してしまいました。楽器が演奏できなくても頭の中にあるメロディやアレンジを機械の力で正確・精密に実現できるため、作曲・編曲をするクリエイターにとっては便利な世の中になったと思います。夢のようです。
音楽って何?
昔大学の講演会で糸川英夫先生が、「映画は何度も見ると飽きるが、音楽は何回聞いてもあまり飽きない。音楽には想像の余地が残されているからだろう。」というようなことをおっしゃっていました。両者とも時間経過を伴う芸術作品ですが、脳神経回路をシーケンシャルに刺激して何かしらの共感と感動を与える道具なのでしょう。もちろん人によって生まれ育った環境が異なるため、好みや共感や感動はまちまちだと思います。
バイノーラルビートの記事で、「ビートと和音」の関係を説明しました。人間の聴覚は対数的で、スペクトラム(位相情報のない実数スペクトラム)を学習し認知しています。
例えばウグイスの「ホーホケキョ」という鳴き声をサンプルしてスペクトラム変化パターンを示します。工学分野では時間周波数表現に短時間フーリエ変換(STFT)やウェーブレット分布などを使います。

参考URL https://benthamopen.com/contents/pdf/TOACOJ/TOACOJ-5-32.pdf
楽器の音色を、「スペクトラムの時間変化パターン」としてサンプルしておけば周波数軸上に平行移動することで楽譜演奏ができます。実際には逆フーリエ変換して時間軸波形に変換しますが。これが後ほど説明するデジタル音源の原理です。
PC9801音源と自作シンセ時代(50年前)
大学生時代に、Z80などのMPUチップやそれを搭載した8bitマイコンが登場しました。マイコンにはOSを兼ねたBasic言語やTRONが実装されていました。もちろん機械語での動作も可能でしたが。
最初にB2は電圧制御のアナログシンセサイザーをアナログ電圧とトリガで制御することを習得しましたが、しばらくしてNECマイコンPC9801や8801に音源(FM音源)が内蔵されるようになりました。Basicプログラムで音源の自動演奏が可能となり、MML(Music Macro Language)というアセンブラチックな音楽記述言語で音色,音程,長さなどをスクリプト記述しなくてはなりませんでした。すごく面倒くさくて完成した演奏データを5インチ磁気ディスクにBasicプログラムとして保存しておきました。このマイコン自動演奏のギターやベースに合わせて、B1のドラムスとB2のEPを重ねて録音していました。
余談ですが、山下達郎さんのレコード「POCKET MUSIC」を聴いてベースラインが尋常ではないので不思議に思っていました。何十年もたってサンデーソングブックで知ったことですが、達郎さんもPC8801のMML打込みで作っていたそうです。ご苦労様でした。

MacとDynaware Ballade時代(90年代)
90年代はWindows3.1からWindows98などのOSが登場しインターネットの普及とともにPCブームが起こりました。B1もB2もAT,ATXマザーボード,ケース,プロセッサ,メモリや画像ボード,CDR,FD,音声ボードなど組合わせて10年間で100台程度Windowsマシンを自作しました。出張の帰りに10万円握りしめて秋葉原で部品を買って帰る習慣が10年続きました。組み上がったPCは親戚・友人・知人に安く売りさばいていました。
またこの時期にはApple社のMachintoshも流行っていました。B1もB2もMacを40台(ノートブックも含めて)程度購入し改造していました。大学生時代(70年代)にApple IIというApple社最初のPCが誕生し、大型計算機やBasicマイコン以外に大学生の間でブームになりました。実際のApple IIは入手困難なので香港製コピーボードキットCapple IIを大阪日本橋で入手しました。言語はBasicでモトローラのCPUを使っており、カラーVBS出力があるためRGBモニタでなく普通のテレビにビデオ入力接続できるためゲームを作ったりして遊んでいました。Macはエンジニアや芸術家好みのマイコンでした。

B2は、90年代はMacでDTM環境を整えました。当時Roland社「ミュージ郎」シリーズでMIDI経由の音源制御ソフトが主流でした。MacはApple Talkというシリアル通信プロトコルがあり、マウスもキーボードもMIDIインターフェイス変換ボックス(もともと通信速度が遅い)も簡単に取り付けることができ外部MIDI音源をほとんどそのままドライブできました。
当時「Mac Fan」や「Macがいちばん」などの雑誌が流行っていて、Macで自動演奏や楽譜作成ができることを知りました。YAMAHAの音源を使いDynaware社「Ballade」というソフトを使ってDTMを始めました。
B2は仕事の忙しさもあり、このDTM環境が音楽活動に貢献したわけではないのですが、耳コピー曲の確認と楽譜の作成に役立ちました。また当時はMIDI演奏データをフロッピーディスクで販売していて、Jazz演奏データを購入して聞いていました。MIDI音源は正確できれいな音質で演奏するので生演奏を録音したCDよりもはるかに素晴らしいと感じました。
2020年に新居引っ越した際に、クアドラをはじめとする大きくて重たいMacやリチウムイオン電池の膨張でケースが歪んだノートブックはほとんど処分しました。しかしどうしても思い入れのあるClassicとClassic IIは捨てることができず遺品になりそうです。

マルチトラック録音機材
1980年代にCD(コンパクトディスク)が登場する以前は、レコード,FMチューナー,テープデッキが主なオーディオメディアでした。現在でも「マスターテープからリメイクした楽曲が…」という説明を耳にすることがあると思いますが、当時一番音質が良かったのはテープ速度38cm/sで2トラック(サンパチツートラ)の磁気テープデッキでした。ダイナミックレンジを最適化するとおそらくS/N80dB程度ではないでしょうか?プロはさらにテープ幅の広い16トラックを使っていました。(プロ用をステレオ合成すると単純計算でS/Nがさらに9dB上昇し、ほぼそのままCDに落せると思います。)
バンド活動で演奏した曲をできるだけ広帯域・高音質で残しておきたいので、テープ速度19cm/sで片面2トラック(両面で4トラック)のオープンリールテープデッキを2台使ってピンポン録音して4パート~7パートのスコアをこなしていました。バンドメンバーが3人しかいないためです。
この録音システムでは原理的には、38cmテープデッキよりダイナミックレンジが12dB低下しS/Nが6dB低下する計算になります。(帯域制限+チャンネル数より)S/Nはうまくいけば70dB以上なので高級オーディオシステムで聞くレコードの音質よりも良い計算になります。
こうした苦労話はB1,B2が大学院生時代,K1留年時代(オリジナル曲最終20曲完成時期)まででした。オリジナル曲は10年後にCDRにwaveファイルとしてダビングしました。1980年代当時もっと良い録音システムがあれば…残念です。
その後バンド活動をやめてから、いろいろなマルチトラック録音機材が登場しました。TASCAM製4トラックカセットレコーダを手に入れ、ストリングスキーボードで弦楽4重奏(ビゼーのアリア)やコーラス(大瀧詠一やザタイムスなど)を重ねたり、ベースとドラムスの音源自動演奏トラックを再生しながらキーボードとボーカルをサイマル録音して使っていました。4トラックカセットレコーダは、通常のカセットレコーダのテープ速度4.8cm/sの2倍9.5cm/sで動作し、片面のみ4トラックでメタルカセットテープ専用なので、ステレオミックスダウンするとおそらく普通の高級オーディオ用カセットテープデッキよりも計算上S/Nが6dB以上高く、高周波帯域も拡がりDolbyやdbXなど非線形処理(位相変化や対数歪が発生する補正)が不要でした。
90年代後半からインターネットやPCを中心にデジタル化が進み、磁気テープを使わず直接メモリに記録するマルチトラックレコーダが登場しました。
Boss(Roland)製8トラックデジタルレコーダを手に入れました。8トラックをデジタル変換(waveファイル)しミックスダウンせずにそのままコンパクトCFフラッシュメモリ1GBに記録できます。こうした機械が20年前にあれば、学生バンド時代の重たいオープンリールテープデッキ2台でのピンポン録音なんかせずに済んだと思うと残念でした。バンド活動も終わっているし、音楽とは関係ない息子の夏休みの宿題「フェーズドアレイマイク」の実験に使っただけで終わりました。

楽譜ソフトと音楽ソフト(2000年以降)
Macは2000年頃を期に、Motorolaプロセッサから撤退(Intel系ハーバードアーキテクチャに乗換)しOSもUNIX系に乗換え独自路線を変更しました。
その後iMac,iPad,iPhoneなどブランド戦略をとるようになり、興味がなくなりました。B1もB2も2000年頃を境にPCをWindows+Intel(WinTelと呼ばれていました。)に移行しました。Windows上で動作するソフトウェアと、USB経由(MIDIは通信速度が遅いしMIDI音源そのものが消滅)で音源アクセスできる(あるいはソフトウェア音源)を利用してDTM環境を整えました。
現在は、楽譜ソフトにFinaleの「Print Music」,音楽ソフトに「Singer Song Writer」を使用しています。
現在は主に、耳コピーした曲の楽譜作成とM5とのカジュアル音楽活動用伴奏楽譜作成に利用しています。そして余裕があれば今後、45年前に作ったオリジナル曲20曲を音楽ソフトに打ち込みたいと思っています。ただし楽譜スコアが半分しか残っていないので、半分は耳コピーになり憂鬱です。あまりやる気が起こらないので将来AIが発達して、CDRに焼いたwaveファイルから自動採譜できるソフトに期待しています。
半世紀の総括
音楽を演奏・記録する環境について50年を振り返ってみて、飛躍的進化があったことと時代の流れになんとかついてこれたこと、ひとつの事例紹介ができたと思います。
B2のバンド活動・音楽活動から見ると、「ハードウェア面では、オープンリールデッキ2台のピンポン録音から、PCの音楽ソフトによる自動演奏・記録技術へ移行したこと。ソフトウェア面では、スタジオミュージシャンのような多種楽器の演奏を重ねる多重録音から、PCによる楽譜スコアのシーケンス入力による自動演奏と自動ミキシング技術に移行したこと。」です。
欧州で宗教と貴族が長い年月をかけて作り上げてきた音楽文化が、デジタル技術によって陳腐化されているようにも感じます。
PC上で楽譜を作るだけで機械が自動演奏する時代になったということですね。「よあそび」や「ゴールデンボンバー」など典型例だと思います。
全国に数万人の観客導引できる商業目的アリーナが増え、プロの演奏スキルや音質よりもライブで聴衆の一体感が人気ですね。「DJ」や「演劇」など典型例だと思います。
そうした時代の流れの中でも、B2とM5は未だに楽器を生で演奏することが大好きです。これも事実です。

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