数字と「ひとけ」で、事例はきわだつ——AIで始める事例制作・第3回
さて、導入事例記事を作る連載、前回は、6要素を埋めたシートをAIに渡して、事例記事の草稿を作りました。箇条書きさえあれば、ここまで書ける——それは実感いただけたと思います。
ただ、あの草稿には、まだ物足りないところがありました。成果の数字が文章に埋もれ、人の声が入っていない。 事実は並んでいるのに、読者の心を動かす“きわだち”が足りなかったのです。
今回は、そこに味付けをしていきます。ポイントは2つ。「数字」と「ひとけ」です。
数字は、探せば見つかる
「うちの事例には、誇れる数字なんてない」——そう思う方は多いです。でも、たいていの場合、数字は探せば見つかります。見つからないのではなく、探していないだけ、ということが少なくありません。
測れるものを、いくつか挙げてみます。
作業時間(ある作業が、何時間から何時間になったか)
期間(初稿までの日数、プロジェクト全体の期間)
コスト(外注費など)
人数や工数(何人でやっていた作業が、何人になったか)
制作数の推移(同じ期間で、何本作れるようになったか)
問い合わせ件数(施策前後の1ヶ月間などに発生した問い合わせの数など)
大事なのは、数字の大きさそのものより、「ビフォーとアフターの比」で見せることです。1時間かかっていた作業が30分になったなら「半分」。月に5本だったのが10本になったなら「2倍」。規模の大小は関係ありません。変化の幅を伝えるといいのです。
今回のアンジーの事例なら、いちばん分かりやすいのは「二稿にたどり着くまでの時間が半分になった」でした。表現を比較すると、つぎのようになりますね。
Before(数字が埋もれた文):「作業時間を短縮できました。」
After(比で立てた文):「二稿までの時間が、従来の半分になりました。」
でも、探してみると、もう一つ見つかりました。パイプラインを現場が使うようになってから、記事制作チームからエンジニアチームへの問い合わせが減ったのです。
これは、最初は狙っていなかった効果でした。制作側が速くなっただけでなく、質問対応に追われていたエンジニア側の手も空いた。効率化が、制作と開発の両方に効いていた——数値は計上していませんが、探しているうちに見つかった変化です。
こうして見つけた数字は、本文に溶かすだけでなく、「課題と成果」のハイライトとして記事の目立つ場所に箇条書きで置くと、流し読みでも価値が伝わります。こうしたアイテムについては、別の記事で紹介します。
「ひとけ」で、記事に体温を入れる
もう一つの味付けが、「人気(ひとけ)」です。事実だけの記事は、正確でも、どこか冷たい。そこに関わった人の声が入ると、記事に体温が生まれます。
ここでコツがあります。誰に、何を聞くか。立場によって、聞くべきことが違うのです。
ソリューションを提供した側(作った人)には、「何に配慮したのか」を聞きます。どんな狙いで、何を大事にして作ったのか。
利用した側(使う人)には、「どう仕事が変わったか」「ビジネスにどんな影響が出たか」を聞きます。
今回のセルフ事例で、パイプラインを作ったエンジニアに話を聞くと、こんな声が返ってきました。
「Bedrockを使った安全な環境だけでなく、さらなる制作の効率化を考えると、Claude Codeがいいと思ったんです。Webアプリ版だった自社製の文字起こしツールも、その振る舞いをClaude Codeに伝えて相談したら、ローカルで動くPythonコードができました。記事制作の担当者でも対話しながら作れますし、社内で新たに開発する手間もない。だから、このやり方を推奨しました」
事実の箇条書きだった「Claude Codeを選んだ理由」が、担当者の言葉になると、ぐっと生きた話になります。なぜその判断をしたのか、そのときの手応えまで伝わって読者が共感できる。これが「ひとけ」の力です。
なお、当たり前のことですが、大事な一線を。担当者の声は、必ず本人にヒアリングして作ります。 社内だからと、本人が言っていないことを“それっぽいコメント”としてでっち上げるのは、絶対にいけません。事実を確認し、公開前に本人の了承を得る。ここは前回の「推測で数字を足さない」と同じ、事例記事の生命線です。
声を集める方法は、直接話す以外に、メールやチャットでのQ&Aの結果でもかまいません。できるだけ共感できる本音を引き出しましょう。
もう一つの声は、次回へ
本来なら、ここに「使う側」の声も入ると、事例はさらに立体的になります。今回のセルフ事例では、使うのも社内の編集者なので、その声も用意できました。
ただ——多くの事例記事では、使う側は「顧客」です。そして顧客の声をもらうのは、社内へのヒアリングのように簡単ではありません。取材の段取りがあり、確認のやり取りがあり、掲載の許諾が要る。ここには、越えるべきハードルがあります。
なので今回は、あえて「使う側の声」は省きました。最も重要ですので、存在だけ、お伝えしておきます。
数字と、作った人の声。この2つで、前回の素っ気なかった草稿が、ぐっと読ませる事例に変わりました。これで、いちばん軽いグレード——提供側の視点で作る事例——は、ほぼ完成です。
そして次回は、いよいよそのハードルに向き合います。事例の説得力を決定づける、顧客の声。取材の段取りをどう組み、顧客の負担をどう減らすか。作りやすさを保ったまま、事例を一段引き上げる方法を、一緒に見ていきましょう。
この記事を書いているのは……
いいなと思ったら応援しよう!
面白い、役にたったと思ったら、応援をおねがいします。手首もげ、老眼、浅い睡眠……ジジイに愛の手を〜