記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

[映画]『ブゴニア (ヨルゴス・ランティモス監督/2025)』


ユナイテッドシネマ浦和

データ

 原題: Bugonia
 監督: Yorgos Lanthimos
 製作年度: 2025
 製作国: アイルランド=イギリス=カナダ=韓国=アメリカ
 アスペクト比: 1:1.50f
 時間: 1h58
 公開日: 2026年2月13日
 鑑賞日: 2026年2月14日
 配給: ギャガ=ユニバーサル映画

注意!

 結末まで全部書いています。

はじめに

 この映画は『1987、ある闘いの真実 (1987/2017)』のチャン・ジュナン監督の『地球を守れ!(2003/지구를 지켜라!)』をベースにしている。もともとはチャン自身が監督する予定だったが、健康上の理由で降板し、ランティモスが監督に起用された。

  『地球~』を観ていないのでどこまで忠実なのかは不明だが、この監督なので換骨奪胎したオリジナルとして観るべきかもしれない。

概略

 大手製薬会社のAuxolithのCEOであるミシェル・フラー(エマ・ストーン)はテディ・ガッツ(ジェシー・プレモンス)と従弟のドン(この作品で俳優デビューのエイダン・デルビス)の二人に誘拐され、テディの自宅の地下室に監禁される。

 ミシェルが誘拐された理由はテディ曰く、ミシェルは"地球人を奴隷にするためにアンドロメダ星から派遣された宇宙人"であり、ミシェルを使って"4日後の月食にやってくる宇宙船の母船に乗ってアンドロメダ星に行き、アンドロメダ星人の皇帝を説得する"ことだった。

 ミシェルはアンドロメダ星との通信手段であることを理由に髪の毛をすべて切られ、抗ヒスタミンクリームを全身に塗りつけられる。

 ミシェルは狂信的な陰謀論者のテディ相手に様々なコミュニケーションをとるがまったく会話がかみ合わない。ミシェルに理路整然と持論を論破されたテディはキレて、電気を使って拷問する。

 しかし強力な電気に耐えたミシェルを見たテディは、ミシェルがアンドロメダからの使者ではなく、皇帝そのものであることに気づき、恐れおののく。

 テディはミシェルを地下室から解放し、晩餐に招く。ミシェルは皇帝として振舞うが、テディとの会話でエキサイトしていき殴り合いの喧嘩となる。そこへ幼馴染の警官ケイシー・ボイド(スタブロス・ハルキアス)がやって来る。ドンはミシェルを殴って気絶させ地下室に運び込む。

 テディは家に入ってきたケイシーと昔話をし、さらに家業である養蜂場を見せに行く。気がついたミシェルは"比較的まともな方の"ドンを持ち前のプレゼンで説得する。納得したように見えたドンはショットガンで頭を撃ち抜く。

 銃声に気づいたケイシーをテディはシャベルで撲殺し、地下室に戻り、ドンの悲惨な姿を目にする。ミシェルは誘拐された時に着せられたテディの母親の洋服の縫込みからテディの母親を知っていることに気がついていた。

 テディの母親サンディ(演じるのはアリシア・シルバーストーン!)はAuxolithの試薬の薬の臨床試験に参加して昏睡状態となっていた。かつて社を代表して謝罪した親族の中にテディが居たのだった。

 ミシェルは昏睡状態の母親を救うには自分の車のトランクに入っているアンドロメダ人の解毒剤を使うしかない、とテディを説得する。そしてその解毒剤はただの不凍液だった。が、信用したテディは病院へ行きその解毒剤を点滴に注入し、母親は急死する。

 一方、テディが病院へ向かった隙に鎖を解いたミシェルは隠し部屋を見つける。そこでテディが何人もの人間を誘拐し、宇宙人と疑って拷問死させたり、解体にして研究を行っていた部屋だった。

 戻ってきたテディにミシェルは人類の歴史を語って聞かせる。

 アンドロメダ星人は地球で自分たちの姿を似せた人類を創造したが、進化した人類は核戦争を起こして滅亡した。方舟で生き延びた人類は暴力性の残った半端もので以降も地球を破壊し続けている。ミシェルの企業Auxolithはそんな人類を正しい方向に導くための活動をしていた。

 そしてアンドロメダ星人の母船でのミーティングにテディを参加させると約束する。

 ミシェルはテディを伴って自分のオフィスへ向かう。テディはミシェルを完全には信用しておらず、体に爆薬を仕掛けていた。ミシェルはデスクから電卓を取り出し、ここに暗証番号をセットすると母船に転送されると告げ、クローゼットに入るように伝える。

 ミシェルは3つ数えたら転送させると言ったが、2つめのカウントでクローゼット内で爆発が起きる。

 救急車で運ばれる途中で意識を取り戻したミシェルは看護師にテディが死んだこと、素人仕事で誤爆したのだろう、という話をする。ミシェルは救急車を降り、自分のオフィスに戻る。

 そしてクローゼットに入るとアンドロメダ星に転送される。

 アンドロメダ星で仲間たちと協議をするミシェル(皇帝)。これ以上、人類は変わらない、計画は失敗に終わった、という結論に達し、計画を終了させることが決まる。

 人類は瞬時に息絶える。

感想

 この前upした『2001年宇宙の旅 (2001: A Space Odyssey/1968)』でも書いたが、人類創生に係るSF話は枚挙にいとまがない。

 社会的な成功者vs世間から忘れられた陰謀論者という対立軸により、観ている側はそっち側に意識が行ったところで突然、話をひっくり返す、このデウス・エクス・マキナなやり方は上手くいくこともあればいかないこともある。

 今回はこの展開はうまくいったと思う。『地球を救え!』もこんな終わり方なのかも知れないが、未見だったことで、このエンディングを満喫できたと言えるかもしれない。

 前半のミシェルとテディの会話の流れで、次第にテディの妄想話がミシェルの企業(とミシェル個人)の悪辣さを炙り出していく展開となり、これはこれで面白かった。ただそれではただの社会派ドラマで終わってしまう。

 ランティモス監督にそのような展開は想像できないし、観たくもない。

エンディング

 "人類は瞬時に息絶える。"と軽く書いたが、様々な日常をモンタージュしながら人類だけが息絶えているという映像は強烈なインパクトを受けた。物流倉庫のようなところでベルトコンベアの上で荷物が引っかかているシーンが特に印象的だった。

 そしてその3分ちょっとの映像集で丸々流れるのが「花はどこへ行った (Where have all the flowers gone ?/1955)」。『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN (A Complete Unknown/2024)』でエドワード・ノートンが演じたピート・シーガーの名曲で、反戦歌の代表的な曲だ。

 Where have all the flowers gone,
 Long time passing ?
 Where have all the flowers gone, 
 Long time ago ?             
 Where have all the flowers gone ?
 Young girls have picked them, ev'ryone.
 When will they ever learn ?
 When will they ever learn ?

 花はみんなどこへ行ってしまったの
 長い時間が過ぎ去った
 花はみんなどこへ行ってしまったの
 ずっと昔に
 花はみんなどこへ行ってしまったの
 若い娘たちが全部摘んでいってしまった
 いつになったら学ぶの ?
 いつになったら学ぶの ?

 この曲は問いかけを繰り返し、最後は、"夫たちはどこへ行ったの?"、"みんな兵隊にとられてしまった"、"兵隊たちはどこへ行ったの?"、"みんな墓に入ってしまった"、"墓はどこへ行ったの?"、"全部花になってしまったよ"…という終わり方をする。

 私はこの映像を観ながら、この曲を聴きながら、谷山浩子の「テングサの歌 (1979)」を思い出した笑

主役たち

 監督のお気に入りでランティモス監督作品はこれで4作目のエマ・ストーンはプロデューサーにも名を連ねている。製薬会社のCEOという役柄で自信に満ちた表情で登場するが、嫌味なキャラクターを上手く表現している。

 会社のイメージアップなのか、"働き方改革"を推進すると社内で公言している。そして、17時半になると"上がっていいわよ"と言いながら、"でも仕事が残っているひとは自分で判断してね"と付け足すことを忘れない。"会社全体の生産性を考えて"とも言い、自分はさっさと陽の高いうちに帰宅する(そして誘拐される)。

 最近は『エディントンへようこそ (Eddington/2025)』で陰謀論をばらまくカルト教団に傾倒する人妻役を演じていたが、その監督アリ・アスターは当作品のプロデューサーでもある。

 役者の他にも出演作や『リアル・ペイン~心の旅~ (A Real Pain/2024)』などでプロデューサーとして活躍しながら、役者としてはエキセントリックなキャラクターが多く、今後のキャリアで悩んでいるように感じられる。

 ジェシー・プレモンスは稚拙な陰謀論で、論破されるとキレるという、ありがちなキャラクターながら、ナイーブな一面も見せキャラクターに厚みを感じさせた。ミシェルがテディの"仕事部屋"を見つけるシーンがさほどショッキングに感じられなかったのは、それまでのテディのキャラクターの描き方に一貫性が感じられなかったためか? 

 クレジットでびっくりしたのがアリシア・シルバーストーン。最初、何処に出てたっけ? と思ったら、テディの母親役だった。ジェシー・プレモンスの12歳年上なだけだが…。

まとめ

 タイトルは牛の死骸から蜂が生まれるというギリシャの古い信仰のことらしいが、ラストで蜜蜂のアップのカットがあり、人類が滅びたことで蜂が復活する、つまり地球が再生する、ということらしい。それならばもう少し、冒頭で"蜂が少ない"とか台詞で状況を説明してもらいたかった。

 ミシェルがテディを罠にかけて母親を殺されたあたりの展開がいまいちわかりづらかったが、全体的にはランティモスならではホラ話として楽しめた。次作が楽しみな監督だ。

関連投稿


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集