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がん治療が一段落したあと。身体、気持ち、仕事は同じ速度では戻らない


予定していた治療が一段落した、と医師から告げられる日があります。
長く続いた通院や入院、検査、投薬の予定に、ひとつの区切りがつく日です。
家族も、友人も、少し息をつけるようになります。

「終わってよかったね」
「これで少し安心だね」

本人も、同じようにうなずくことがあります。
治療が一段落したことは、たしかに大きな節目です。
ただ、その日を境に、身体や気持ち、生活まで、以前の状態へ一斉に戻るわけではありません。

通院の予定が減り始める頃、家族の中では、誰が食事をつくるか、誰が子どもを送るか、いつから仕事を通常に戻すかという話が増えていきます。

治療中にあった手助けが減る一方で、家事や仕事などの役割は戻ってくる。その間にある本人の身体や気持ちは、外からは見えにくいままです。

治療が一段落したあとにも、生活には別の調整が続いていきます。

「終わってよかったね」と言われる日

治療が一区切りつくと、周囲の緊張もほどけていきます。

頻繁に届いていた連絡が減り、家族の予定も、病院だけを中心には回らなくなります。友人から食事や旅行へ誘われることもあるでしょう。

それは、忘れられたからとは限りません。

家族や友人も、長いあいだ心配し、先の見えない時間を過ごしてきたはずです。
治療の区切りを喜び、日常を取り戻そうとすることは、自然なことに見えます。
一方で、本人には、まだ言葉にしにくい感覚が残る場合があります。

外出はできるけれど、以前より疲れやすい。
短い会話なら平気でも、長く人と会うと消耗する。
翌日の予定まで考えると、誘いにすぐ返事ができない。
次の検査が近づくと、落ち着かなくなる。

見た目には元気になっていても、自分の中では、治療後の身体との付き合い方がまだ分からないことがあります。

「終わってよかったね」という言葉は、間違った言葉ではありません。

ただ、その言葉が示す区切りと、身体や生活の区切りは、同じ日にならないことがあります。

治療には区切りがあっても、回復には同じ日付がない

国立がん研究センターは、がん治療後にも、治療の影響、疲れやすさ、経済的な問題、再発への不安、価値観の変化などが続く場合があると説明しています。

治療後の生活は、再発の有無を確認するだけではありません。身体の状態、食事、運動、仕事、ほかの病気の管理などを含め、長く暮らしていく時間として捉えられています。

治療後の経過は、一人ひとり異なります。

比較的早く以前の生活へ戻る人もいれば、症状や体力の変化と長く付き合う人もいます。がんの種類、治療法、年齢、仕事内容、家庭の状況によっても違います。

がんや治療の影響による倦怠感では、身体のだるさだけでなく、意欲や集中力の低下が起こることがあります。

原因によっては数か月から数年続く場合があり、本人にはつらくても、周囲から理解されにくいこともあるとされています。

記憶や思考、集中力などへの影響も、すべての人に生じるわけではありませんが、治療終了後に現れたり、長く続いたりする場合があります。

一度できたことが、翌日にも同じようにできるとは限りません。

動きやすい時間と休息が必要な時間が分かれる人もいます。週の前半は仕事ができても、後半になると疲れが強くなることもあります。

治療は予定表の上では終わります。

けれど、身体や気持ちは、予定表どおりには動きません。

治療が一段落したあと、通院や周囲の手助けが減る一方で、家事や仕事が戻ることがあります。身体や気持ちの経過、必要な支援には大きな個人差があります。【注】国立がん研究センター「がん情報サービス」および関連研究を参考に、JKMF編集部が作成した概念図です。時間的な順序や回復度を定量的に表したものではありません。

支えは減っていき、役割は戻ってくる

治療が一段落する頃、周囲の手助けが減る一方で、家事や仕事の役割が戻ってきたと感じる人もいます。

通院への付き添いがなくなる。
買い物や食事を家族へ頼む回数が減る。
子どもの送迎を再び引き受ける。
職場で担当していた仕事が戻ってくる。

支えが減ることと、役割が戻ることは、近い時期に起きる場合があります。

けれど、その間にある身体の状態は、周囲からは分かりにくいものです。

本人自身も、「治療は終わったのだから」と考え、以前と同じ役割を引き受けようとすることがあります。

少し無理をすれば、家事ができる。
一日なら通常勤務ができる。
食事へ行けば、楽しく話すこともできる。

できたことだけを見れば、生活は戻ったように見えます。

けれど、そのあとに長い休息が必要になることまでは、見えないことがあります。

以前と同じように動けない自分を、怠けているように感じてしまう人もいます。

それでも、生活上の役割が戻る速度と、身体が回復していく速度が違うことは、その人の努力不足ではありません。

治療後の生活には、できるか、できないかだけでは測れない部分があります。

どのくらい続けられるのか。
翌日まで含めて無理がないのか。
助けを減らす時期は、今でよいのか。

一度決めた分担を元へ戻すのではなく、その時の状態に合わせて置き直すことが必要になる場合があります。

本人と家族は、同じ病気を違う場所から見ている

初回のがん治療を終えた本人と家族9組、18人を対象にした小規模な質的研究では、本人と家族が「個人にしか分からないつらさ」を抱えながら、気遣いすぎない関係や協力の仕方を試行錯誤していく過程が報告されています。

限られた参加者を対象にした研究であり、すべての家族に当てはまるものではありません。それでも、互いを完全に理解することだけが、関係の支えではないことを示しています。

本人は、これ以上家族を心配させたくないと思うことがあります。

家族は、病気のことばかり考えず、日常へ戻ってほしいと思うことがあります。

どちらも、相手を大切に思う気持ちから生まれるものです。

そのため、

「まだ疲れる」
「今日は難しい」
「次の検査が怖い」

と本人が言いにくくなることがあります。

家族の側も、

「まだ聞いてよいのだろうか」
「病気を思い出させない方がよいのではないか」

と迷います。

本人の状態を一度で理解することも、家族の気持ちを一度ですべて説明することも難しいでしょう。

先週できたことが、今週も同じようにできるとは限りません。

一度戻した役割や距離を、また調整し直してもよい。

その前提が共有されるだけでも、「元どおりにしなければならない」という負担は、少し変わるのかもしれません。

復職する日と、以前と同じように働ける日は別になる

仕事へ戻る日は、分かりやすい区切りです。

本人にも、家族にも、職場にも、「日常が戻った」と感じやすい日になります。

ただ、復職できることと、以前と同じ仕事量を続けられることは同じではありません。

がん情報サービスでは、治療内容や体調の見通しを確認し、本人の状況に合った働き方を考えることが案内されています。

勤務時間や仕事量を調整し、状態の変化に応じて見直す方法もあります。復職日を一つのゴールにせず、その後も働き方を調整していく時間として考えた方が合う場合があります。

仕事との両立については、既刊「病気と仕事は、なぜ両立が難しいのか」で、もう少し詳しく扱っています。

治療が一段落したあとも、相談していい

治療中は、症状や検査について、医師や看護師へ話す機会があります。

通院の間隔が空くと、医療者との接点も少なくなります。

「この程度で連絡してよいのだろうか」
「治療が一段落したあとも、相談してよいのだろうか」

そう考える人もいます。

令和5年度患者体験調査では、病気や療養生活について誰かに相談できたと回答した人は60.6%でした。

がん相談支援センターを知っていた人は55.1%です。そのうち実際に利用した人は21.1%で、利用した人の72.4%が「役に立った」と回答しています。

相談窓口が存在していても、知ることと、実際に相談することの間には距離があるように見えます。

がん相談支援センターでは、診断や治療だけでなく、治療後の療養生活、仕事、お金、学校、家族や医療者との関係、不安などについて相談できます。

本人や家族に限らず、どなたでも無料・匿名で利用できます。その病院へ通院していなくても相談でき、相談内容が本人の同意なくほかの人へ伝えられることはないと案内されています。

治療後の生活について話せる場所

症状や体調について

  • 主治医

  • 看護師

  • 薬剤師などの医療スタッフ

生活、仕事、家族、お金について

  • がん相談支援センター

  • 社会福祉士、医療ソーシャルワーカー

医療ソーシャルワーカーは、治療費、退院後の生活、在宅療養、就労、家族や仕事の悩みなど、療養生活に関わる幅広い相談に応じる専門職です。

同じ経験をした人と話したいとき

  • 患者会

  • ピアサポート

相談するときに、質問をきれいに整理しておく必要はありません。

「治療は一段落したのに、生活がうまく戻らない」
「何を相談したらよいのか、自分でも分からない」

というところから話せる窓口もあります。

元に戻ることだけが、回復ではないのかもしれない

治療前と同じ生活へ戻る人もいます。

家事や仕事の配分を変える人もいます。

以前とは違う速度で暮らす人もいます。

どの状態が回復で、どの状態が回復ではないと、外から決めることは難しいように思います。

周囲の人も、いつまで心配し、どこまで手を貸せばよいのかを、一度で判断する必要はありません。

「今は、どのくらいできそう?」
「前と同じ分担で大丈夫?」
「手伝ってほしいことは変わった?」

そうやって、状態が変わるたびに小さく聞き直す関係もありそうです。

治療の区切りは、大きな節目です。

ただ、その先の生活は、以前の場所へ一斉に戻っていくものではありません。

今の身体に合わせて役割を減らしたり、助け方を変えたり、できることをもう一度確かめたりする。

治療が一段落したあとの時間には、以前へ戻ることよりも、今の生活に合う形を探していく時間が含まれているのかもしれません。


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