闇 449(2018年47歳編)
闇 449(2018年47歳編)

2026/01/11 sun
前回の章
二千十八年九月五日、水曜日友引。
いよいよあと一週間ほどで俺も四十七歳になる。
三沢光晴さんが亡くなったのが四十六歳だから、とうとう俺のような人間が追い抜いてしまう訳だ。
もう小説すら書いていない。
相変わらず裏稼業ゲーム屋で下っ端。
神様がもし本当にいるならば、何故このような世界を作り上げたのだろうか?
あの人と俺では雲泥の差。
まだ俺に何か残された宿命でもあると言うのか?
酷な事をするものだ。
そんな事を思いながら休みなので、中央通りにあるピザ屋のロッコで食事を取る。
スペアリブと自家製ソーセージ食べながら、赤ワイン片手に自家製レモンチェロのレモンサワー飲んで過ごす俺。

こんな俺に何が一体できる?
二日前はレストランシブヤでナポリタンを食べた。

つまり裏稼業で得た汚い金を地元川越で少額の金を使い、ちょっとした経済を回しているだけのゴミ同然。

目の前のスペアリブをフォークとナイフを使い、食べやすいサイズに切り分ける。

大きなソーセージの盛り合わせも一口大に切り、酒と交互に口へ運ぶ。
まだ数回の来店なのに、常連客のように大切に俺を扱ってくれるロッコには本当に感謝をしている。
幸せを感じつつも、これが現実逃避な事実に気付き、酷く自虐的な気分になる。
二千十八年九月十二日、水曜日仏滅。
また早番へシフト変更を命じられ、時間調整で休みのような形になる。
毎日のように通る埼玉りそな銀行の駐車場。
しかしまったく野良猫ニャーニャーたちを見掛けなくなってしまった。
一体どこへ行ってしまったのだろう?
早番の時なら仕事帰りにいつもいたのに、遅番という真逆のリサイクルにより、まるで会えなくなってしまった。
最低でも六匹もいたあの子たちが、一匹も見掛けなくなるなんて何があったのか?
保護ならいい。
保健所などによる駆除だとしたら、目も当てられなくなってしまう。
明日の誕生日から皮肉な事に早番の出勤。
また仕事帰りの時間帯に寄れば、きっといてくれるはず。
そう思いたい。
時間的に余裕あるのを利用し、周辺を探し回るも見つからない。
二時間ほど歩き回り、諦めピザ屋のロッコへ向かう。

すっかり常連と化した俺。
猫の事や仕事での遣る瀬無さをここで酒を飲みながら誤魔化す。
チーズがたっぷり掛かった生ハムのサラダを食べながら、酒を堪能する。

とうとう明日で俺も四十七歳。

フォッカチオをつまみながら、四十六歳最後の一日を噛み締める。

ポテトフライも注文し、ハチノスの煮込みも頼む。

栄治さんもいい店を教えてくれたものだ。
マスターと世間話をしながら酒を飲み終え、また猫を探し回る。
本当にどこへ行ってしまったのだ?
空振りに終わり、仕方なく家へ戻る。
そろそろプレステーション4の本体を買わないといけない。
以前橋本から買ったものは、あれから故障したまま。
昔のようにあちこちに玩具屋がある訳ではないし、買った店でもないのに修理だけ出すのはどうも気が引ける。
一見便利になったようで、実は分かり辛い世の中になっているのかもしれない。
夜になるまで眠いのを堪え、ゆっくり眠る。
起きたら四十七歳。
あのラッキーハウスの中で、俺は誕生日を仕事で過ごす。
二千十八年九月十三日、木曜日大安。
誕生日での出勤。
当然誰一人祝福の言葉などない。
当たり前だ。
俺が誰にも今日が誕生日だと言っていないから。
「赤崎さん、一服どうぞ」
責任者橋本の指示で、奥へ行きセブンスターを咥える。
携帯電話からフェイスブックを確認すると、うんざりするほどの祝福コメントが届いていた。
嬉しい気持ちと、憂鬱な気持ちが半分半分。
一人一人は俺に対して丁重なコメントをくれている。
だから俺も礼節を考えたら一人一人にコメントをするようだ。
ここが厄介で憂鬱になる点だ。
一体何十人からコメントが来ている?
現時点で二十九名から……。
高校時代の同級生である小谷野から食事へ行かないかと誘いのメッセージがあったので了承する。
仕事終わりに高田馬場で小谷野と落ち合い、前回同様洋包丁へ向かう。
彼はグレンリベットのボトルを用意してくれて、粋な計らいをしてくれた。

妙に腹が減っていたので三人前分の食券を購入。
ポークからし焼肉ランチ、茄子と肉しょうが焼きランチ、メンチカツと白身魚バター焼きランチ。
「相変わらず食うね、岩上は」
「まだまだ育ち盛りだからね」
個人的な返信は後日に回す事にして、まずは記事を投稿した。
みなさん、お祝いメッセージありがとうございました。
誕生日だけど仕事だったので、終わってから高田馬場来て、高校時代の同級生の小谷野と会って、洋食屋の洋包丁へ。
三品頼んでモリモリ食べました。
おわり
カウンター席しかない狭い店内。
目の前でどんどん作られていく過程を見ながら料理が出てくる。

「お客さん、ライスと味噌汁も三つずつ出しちゃっていいの?」
「ええ、構わないですよ」
「岩上食い過ぎでしょ」
「小谷野も遠慮しないで食いなよ」
俺はそう言いながらポークからし焼肉ランチを食べ出す。

続いて茄子と肉しょうが焼きランチが置かれる。
「小谷野もつまんでいいからね」
「俺は自分の分だけで充分だよ」

メンチカツと白身魚バター焼きランチが出てくると、さすがに苦しくなってくるも頑張って残さず食べた。
「岩上さ、今度からもうちょっといい店にしようよ」
「俺は洋食マニアなんだよー」
昔話をしながら川越へ戻る。
本川越駅へ到着すると小谷野と別れ、駐車場へ向かう。
「ニャー! おい、ニャンタッタ。いないのか? ……」
いくら呼んでも出てこない猫。
少なくともこの場所にはあの子たちはいなくなってしまったようだ。
コンビニへ行きキャットフードを購入。
もし万が一戻ってきたらと考え、駐車場の片隅に餌を巻いておく。
部屋に戻り、投稿を確認すると栄治さん、石川雅之、イワカミ工業の時世話になった現場監督の三上さんなどからコメントが寄せられていたので返事をした。
『ありがとうございます。どんどんこうして老化が進んでいきます。 岩上智一郎』
するとそのコメントを見て櫻井さんが『そんなに食べて「老化」は、ないだろ』と突っ込みを入れてくる。
何にせよ三沢さんよりもこれで俺は一歳だけ年上になってしまったのだ。
複雑な気分のまま四十七の誕生日を終えた。
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