闇 446(馬とロッコと横浜と地方編)
闇 446(馬とロッコと横浜と地方編)

2026/01/09 fry
前回の章
二千十八年六月三日、日曜日大安。
馬投資サイト運営者兼ラッキーハウス常連の佐藤充が、遅番の時間帯もやってくるようになった。
おそらく早番従業員の橋本、オカマの木下、川崎が競馬話の相手をしないから面白くないのだろう。
「岩ちゃん! 今週の馬投資見た?」
「いえ、まだですが……」
あまりにもしつこいので携帯電話で画面を開く。

第六十八回安田記念の三連単予想が載っている。
1-5-10-12-14-15の六頭ボックスで百二十通り。
「俺は今回固いと思うんだよね。だから普段なら十頭ボックスだけど、今回は六頭に絞ったんだよ。まあ間違いなくこれで決まるね。岩ちゃんもこれを参照にしなよ」
百円ずつ買ったとしても一万二千円になるような買い方を誰がするのだ。
まだ荒れそうなレースなら分かる。
固いと言いながらでこれだ。
まるで話にならない。
適当に相槌を打ちながら話を聞き流し、業務を遂行した。
ただでさえ忙しい時間帯の遅番に加え、充のお喋りが入ると無駄に忙しい。
例の如く香川はキャッシャーにいながら他の客のINの反応が一瞬遅れると、呼び出して小言。
それなら充を黙らせるか、自分が相手しろよと思う。
唯一俺より後から入った木幡は、数ヶ月になるのにイマイチ使えないまま。
人工透析で週に三回しか出勤できない吉岡は置いておき、遅番では二番手という面倒な立ち位置。
唯一ラッキーハウスへ入って良かった面が、一年半ほど働き日給が千円上がった事ぐらいだった。
帰りの電車の中で安田記念の予想をして、携帯電話から馬券を買う。
充の見立てでは固いと言うが、今回もそこそこ荒れるのではないかと感じていた。
本川越駅に到着すると自転車に跨った裸の大将みたいなオヤジが「ゔぁあ〜」とか奇声を発しながら目の前を通り過ぎる。
すぐ近くにある交番のお周りが二名駆け足でそのオヤジへ近づくと「ゔぁあ〜」と叫びながら全力で逃げていく。
先頭を全力疾走で追う若めの新米警官。
面倒臭そうにハァハァ言いながら息の上がる太っちょ警官。
奇声を発しながら逃げるオヤジとの距離は、一向に縮まる気配もない。
ふむ、平和な街である。
どうでもいい騒ぎを見届けてから駐車場へ行くも、猫たちは出てこない。
基本的にあの子たちは夜型なのだろう。
風呂に入ってからゆっくり休む。
夕方に目覚め、競馬の結果を確認すると、またどうしょうもない外し方をして負けた。
あまりにも悔しくてフェイスブックへ投稿する。
安田記念、三連単10からとか…
10-…-1とか……
三連複でも買ってて…
三連単で4も買ってたのに、何故取れないの……
もう宝塚記念まで競馬辞めよう
一応充の馬投資予想でもチェックしてみる。
一着10番モズアスコットと、三着1番スワーヴリチャードは押さえているものの、二着の4番アエロリットは買えていない。
つまりあのチビ介、偉そうに固いと言いながら外しているのだ。
三連単推奨でやっているので、配当が六万三千二百八十円と話にもなっていないじゃないか。
まだ4番を買って外れた俺の負け方のほうがマシだ。
しかし飛んだ休みになってしまったものである。
負け犬は部屋で大人しくゲームをして過ごすしかない。
二千十八年六月十日、日曜日赤口。
週末になると遅番の時間に出没する佐藤充。
クソ忙しい中、隙さえ見せるとすぐ競馬の話をしてくる。
代わりに木幡を話相手としてつけるも、競馬を理解できない人間には用がないらしい。
それは吉岡にしても同じだった。
せっかく競馬から距離を置こうと思っているに、充があまりにもうるさいので金を賭けては負け続き。
昨日の土曜競馬も全滅だ。
「岩ちゃんはさ、俺の言う通りにしないから勝てないんだよ」
勝てないも何もおまえの予想だって当たっていないじゃないかと突っ込みたいが、あくまでも客なのでこちらが我慢するしかない。
うんざりしながら業務を終え、気分転換にパチンコ屋へ寄ってみる。
久しぶりに勝てたので、帰りの電車で馬券を購入。
寝て起きてから競馬の結果を見て、一喜一憂する。
これは久しぶりに弾んだ投稿ができそうだ。
今日競馬勝った!
土曜→全滅
日曜→メイン全滅だけど、7レースから馬連&三連複一点買い勝負で、東京8レースの三連複のみ当たる
悔しいので、地方競馬へ
6レース三連単買って、3レース当たった(笑)
ガチガチばかりだけど
帰りにパチンコ寄る
まどかマギカとかいう変な台を選ぶ、台番号の都合で
この時点ですでに1700回転以上してて、当たりは一度も無し
6000円すぐに飲まれ、万札を投入
するとリーチが
外れそうになって、台をチョップすると、5当たり(笑)
5-7-7-7-7アルティメットチャンス突入
8000発ちょい出て辞める
換金29000円……
まあ勝ちは勝ちか……
毎週毎週十万も負けてばっかいられるかっつーの
競馬は9000円くらいだけ勝ち
パチンコ29000円勝ち
わー
豚玉でも食うか
あ、今月中にロト七、頑張って当てて、働かないで生きたいと思います
パチンコでも競馬でも勝つ。
たまにはこんな事でもないと人生やっていられない。
大正浪漫通りを突き抜けた右手にあるお好み焼きのかぶやへ行き、酒を飲み豚玉を焼いて、太麺焼きそばを食べて小さなお祝いをした。
明日もまだ休みなのだ。
のんびりこうして過ごすのも悪くない。
二千十八年六月十一日、月曜日先勝、入梅。
そういえば加賀屋のおばさんのところ、最近顔を出していないなと思い大正浪漫通りへ向かう。
「智ちゃん、あなたはちゃんと貯金しているの」
「競馬で負け続けたけど、昨日勝ったんですよ」
「駄目でしょ。ちゃんとお金貯めないと……」
いつもの愛情のあるお小言が始まる。
幼少の頃からなので、俺に対してズバズバ言ってくれるおばさんは心の中で母親代わりだった。
顔を見せなきゃ見せないで文句を言われるので、たまにこうした時間も自分にとっては必要なのだろう。
加賀屋を出ると、隣りにあるスガ人形へ入り先輩の栄治さんと世間話をする。
小学中学と同じ学校で近所なので、考えてみれば結構な長さの付き合いだ。
「そういえば、すぐそこの中央通りにピザ屋できたよ。暇そうでマスターも深刻そうな顔していたから、智ちゃんも時間ある時顔出してみたら?」
「ピザ屋ができたんですね! 今日休みで何もする事ないし、早速行ってみますよ」
スガ人形を出て、そのまま中央通りへ行くと、ピッツェリア『ロッコ』という看板が見える。
栄治さんが話していたのはこの店だろう。
店内は中々広くカウンター席以外にもテーブル席があり、さらに奥にもまたスペースがある。
一人なのでカウンター席へ腰掛けるも、俺以外誰も客がいない状態だった。

入ってすぐの場所に大きな焼き窯が置いてある。
俺はサラダとピザを注文し、スピルタスで作ったレモンサワーを注文。

サラダは少し想像と違ったが、基本的にレタスとトマト、それにキュウリがあれば余計なものはいらないのでちょうどいい。

ピザは純粋に美味しかった。
レモンサワーもかなりお気に入りの味。
お土産もできるようなので、一枚持ち帰りで焼いてもらい馬鹿親父へ持っていってやる事にした。
俺は数杯お代わりを注文して、マスターと会話を楽しむ。
まだ開店間もないので客入りも少なく先々不安だと内心を打ち明けてくる。
以前大正浪漫通りで行ったピザ屋と違い、この店はかなり気に入ったので明るくなれるよう元気付けた。
「まだ客入り少ないのは認知されていないからだけで、俺も近所だし色々宣伝しておきますよ。大丈夫ですって、そんな不安そうな顔しなくたって。ピザも美味しいし、料金設定だって安いじゃないですか。今は我慢の時なだけですって」
栄治さんの言っていた通り、いい店だ。
これからはここも行くルーティンに入れよう。
ロッコを出ると腹がまだ減っているなと思い、同じ通りにあるレストランシブヤへ入る。
「岩上さん、今日ランチできないんですよ」
「構わないですよ。それならナポリタンとカレーライス下さい」

カレーライスを食べながら、テーブルに置いてあるピザを見る。
昔、十六号沿いにあったレストラン『チャップリン』で、親父がたまにピザのお土産持ってきてくれた事あったなあ。

今じゃそのレストランは結構前に潰れなくなってしまったが、壁にチャップリンの顔が描かれていたのは未だ覚えている。
大きくなったら行ってみたいと思っていたが、高校生でアルバイトしたケンタッキーの時はもう無かったから随分前に潰れてしまったんだな……。
そんな事を思い出しながらナポリタンを食べ終わり、親父の部屋へ向かう。
「親父、ピザお土産で焼いてもらったよ。食うでしょ?」
「おう、悪いな」
子供の頃のお返しじゃないけど、たまにはこういうのもいいもんだ。
二千十八年六月十二日、火曜日友引。
「赤崎さん、良かったら明日休みますか?」
十一日の夜に出勤して開口一番店長の香川が変な質問をしてくる。
休み明けで仕事に来て、また休む?
意味が分からなかった。
事情を聞くと遅番は全部で四人いるが、誰かしらが休みを取った三人で経費の問題もあり回したいようだ。
明日の休みを木幡が突然キャンセルして出ると言い出したので、週三回の吉岡はともかく俺に聞いてきた。
さすがに一日出てまた休みじゃ稼ぎにならないので断る。
仕事中夜中に佐藤充が来店。
とうとう平日でも遅番へ来るようになってしまったのか……。
平日でもどこからしら開催されている地方競馬の話を延々と話し続け、俺にもやってみたほうがいいとしつこい。
「ここに来て負けてる金だって、俺の場合ほとんど地方競馬で勝っている金だからね。岩ちゃんも教えてあげるからやってみなよ」
休憩時間になり出前を取り奥で食事していても、ゲームを放置して俺のところへ来る充。
あまりのしつこさに根負けして、地方競馬も携帯電話で購入できる『スパット4』をインストールする。
あまりにも付き纏わられるのもウンザリしたので、香川へやはり明日を休みもらえるかと言ってみた。
嬉しそうな表情で香川は頷く。
そんなに一人分の経費が浮くのが嬉しいのか、この屑野郎め。
実際に充がラッキハウスで負けていく金額は、月で五十万前後。
本当にそんな金額を地方競馬で当てているのなら、確かに中央競馬よりいいかもしれない。
帰ってから賭けてみると、酷い惨敗だった。
あまりにも悔しくて、フェイスブックへ投稿する。
地方競馬買えたので買っちゃった(笑)
でも9000円だけ
金沢11R 17:10発走
三連複3-5-6-10BOX 4点 ハズレ
三連単3-5-10BOX 6点 ハズレ
【結果】三連複3-6-8 1070
三連単8-6-3 9130
川崎9R 18:55発走
三連複1-4-8-11BOX 4点 ハズレ
三連単1-4-11BOX 6点 ハズレ
【結果】三連複6-11-14 5350
三連単6-11-14 28250
川崎10R 19:30発走
三連複1-2-3-9-13BOX 10点ハズレ
各300円ずつ
【結果】三連複3-11-12 11470
あー、やんなきゃよかったよー!
全部外れた……
あんなチビの口車など乗らなければよかった。
しかし今さらどう呪ったところですべて遅い。
結局のところ充のせいにしたところで、スタップ4をインストールして馬券を購入したのは俺自身なのだから。
パチンコ行っても全然いいところなしで負ける。
明日は休みだから横浜でも遊びに行こう思ったけど、運気が明らかに落ちているから大人しく川越にいよう。
二千十八年六月十三日、水曜日先負。
朝方になり酒井さんの側近である金太郎が来店。
また自分の運営する洋服の通販サイトで服を買ってくれと頼まれる。
うんざりしていたが、店長自ら率先して購入しているので俺も買わない訳にいかない。
充に金太郎と精神的疲弊しながら帰る。
ひょんな事から休みにしてしまったが、今日この特別な日にそうして良かったと思った。
何故なら今日の十三日は、三沢光晴さんの命日。

フェイスブックに投稿した写真は、千九百九十四年六月三日の三冠統一ヘビー級試合で川田利明さんへフィニッシュホールドで解禁した『タイガードライバー91』を使った。
この試合の最後の衝撃は未だハッキリ覚えている。
俺が全日本プロレスを駄目になった年。
その翌年、自衛隊の同期鳥谷部に誘われ目黒の軌道屋で住み込みをしていた頃、少ない給料の中この試合のビデオテープを買ったのだから。
一緒に住んでいた従業員たちにも見せ、俺が行こうとしているところの先輩レスラーはこんなにも凄いんだと自分毎のように誇らしげに語った若かりし頃。
ジャンボ鶴田師匠の命日からちょうど一ヶ月後になる三沢さんの命日。
時間が経つのって、本当に早いものだ。
黙祷を捧げると、立門前通りにある小江戸っ子うどんへ行き、茄子汁うどんを頼んだ。

若い女の子がアルバイトで働いていたので、どうせ金太郎のところで服を買っても着ないから、その子に洋服を買ってあげる事にした。
俺の意味不明な行動にメガネの店主が状況を聞きに来たので、誤解がないよう伝える。
今働いている職場のオーナーの側近が洋服の通販サイトをしており、付き合いで買う羽目になった。
しかし購入したところで俺はその服を着ないので、それならアルバイトの子に買ってあげて着てもらった方がいいだろうと。
店主も了承してくれ、気持ち代わりにお礼でかき揚げの天ぷらをプレゼントしてくれた。
夕方になると佐藤充から着信が入る。
最初は無視していたが、何度も掛かってくるので仕方なく出た。
内容は川崎競馬で関東オークスがやるからと、どうでもいいものだった。
一体この地獄のような状況は何なのだろう?
あまりのしつこさに疲れ、俺も関東オークスを買う事を伝え電話を切る。
充の予想通り買うのだけは嫌だったので、三沢さんの命日にちなんだ数字を選んで買う。

六月十三日だから、まず6-13。
あとは鶴田師匠やおじいちゃんの命日も十三日だから、3でいいか。
ひと眠りしてから結果を見て愕然とした。

5-6-3で三連単十万四千二百円の配当。
鶴田師匠の命日にちなんでなら、何故五月を入れなかったのだ?
そしたら買う数は増えるものの、一点五百円くらいになるはずだから、五十万円になったのに……。
まあしょうがない。
結果が分かったあとでどうのこうの思ったところで、すべてはあとの祭り。
充から着信が来たら、さすがに面倒なので放置して寝て一日が終わった。
二千十八年六月十九日、火曜日仏滅。
新宿での仕事明け、思わず来てしまった、横浜へ。
誰にも言わずお忍びで。
特に目的もなければ人との約束もない。
純粋に誰も俺を知らない場所で、解放されたかったのだ。
地元川越だと歩いているだけで無理がある。
初期横浜時代の四十歳までを生まれた頃から育った街だから。
新宿歌舞伎町では、ウザい人間が多過ぎる。
ここ数ヶ月佐藤充の粘着競馬話により、心が疲弊し悲鳴を上げていた。
職場の人間は誰一人プライべーどで会おうという奴もいない。
横浜ならトータルで三年ちょっと住んでいたし、知らない土地を言うわけではない。
こっちで会うのは石川雅之だけだが仮に連絡して約束しても、待ち合わせの為携帯電話の電源を入れておくと後々面倒な事になってしまう。
何故なら……。
「……」
携帯電話が鳴り出す。
相手は佐藤充から。
もちろん出ない。
出るつもりもない。
何故なら今日は業務中ではなく、プライベートだから。
あのチビのせいで、四六時中競馬競馬と本当にうるさくてうんざりだ。
土日になればJRAの中央競馬。
平日だと、どこかしら開催されている地方競馬。
知り合った頃は、あいつのペテン師紛いの口調に騙され、奴の運営する馬投資に乗った事もある。
おかげでかなりの金額を損失した。
「岩ちゃんは俺の言った通り買わないから駄目なんだよ」
惨敗し金を失った俺に対し、傷口に塩を塗り込むかのような台詞。
だいたい十頭以上も三連単ボックスで百円ずつ買って、荒れたレースを取るなんて発想自体頭がおかしい。
十頭を三連単ボックスで百円ずつ買うと、七万二千円。
十一頭なら九万九千円。
十二頭で十三万二千円だ。
つまり三連単の配当が十万以上つかない限り、当ててもマイナス。
三連複ならその六分の一の値段で買える。
もちろんその分の配当は低くなってしまう。
だが充理論でいう当てていく事に意義があると言うなら、同じはずだ。
だが、十頭ボックスを三連複で買って一万二千円。
それだけ買っているのに、充は稀に外す。
一度文句を言った事がある。
するとあのチビは悪びれもせず、口を開く。
「馬投資で出す予想と、俺が実際に買う馬券は違うよ。だって事前に発表したものと、そのあとまだ調べて買い目を変えたものは違うの当たり前じゃん」
思い出す度殺意が湧いてくる。
それでいて馬投資の会員代月額五万円だと抜かす始末。
またイライラしてきたぞ……。
再度携帯電話が鳴る。
また充から。
友達誰もいないだろ、この馬鹿。
放置していると、十コールで止む。
鳴り終わるのを待ち、電源を切った。
さて、今日は自由な時間を満喫しよう。
楽しむぞー。
まだ昼前なのでとりあえず睡眠を取りたい。
以前横浜時代によく行ったタイマッサージの店へ行く。
過去ちょっとした恥ずかしい思い出はあるものの、タイ人に悪い事はしていない。
仕事終わって帰る途中、どうしても焼肉が無性に食べたくなった。
一人で行くのも嫌だし、誰か誘おうにも時間帯は朝の四時だし、どうしようか迷う。
そうか…、いつも行くタイのマッサージへ顔を出し「一人で行くの嫌だから焼肉行かないか?」とあの二十二歳のタイ人を誘えば、もの凄く自然だろう。
我ながら中々の頭の冴え具合である。
意気揚々とそのマッサージ屋へ向かい、階段を駆け上がった。
俺の顔を見るなり、店のママは「おう、いらっしゃい」と笑顔。
ここはタイミングが大事。
俺は「どうしても焼肉が食べたくて、一人じゃ嫌だから娘さん連れてっていい?」といった内容を一気にマシンガントークで話した。
娘さんに前回マッサージを受けた際、さり気なく会話の中で焼肉が好きと言う情報を収集していたのである。
ママも行きたそうだったから「ちゃんとおみやげ買って持たせるよ!」と強引に母子を切り離す。
う…、時に男って生き物は非情にならなきゃならない事もあるわけだ。
笑顔でこちらに来る二十二歳の娘さん。
内心、完璧な作戦遂行だとほくそ笑んだ。
焼肉行って親睦を深めて…、それから……。
そんな先の展開を妄想しながら歩いていると、悲劇はここから始まった。
何故か娘さんのおばあさんまで一緒についてくるのである。
「あ、あのですね、おばあさん…。ちゃんとお土産おばあさんの分も持って帰ってくるから……」
俺は必死にゼスチャーも加えつつ説明をするが、そのおばあちゃん、娘さん共にまるで日本語を理解してくれない。
何度話しても、おばあさんは黙ったまま娘さんと一緒についてくるのである。
何てこったい、セニョリータ。
仕方なく諦め、そのまま焼肉屋へ向かった。
最初に約束したので、ママの分の焼肉をお土産で頼み、黙々と肉を焼き、三人分の会計をすべて払い、泣きそうになりながら俺は部屋へ戻った。
こうして俺は、翌日四十三歳の誕生日を迎える訳である……。
「オー、社長サン、お久しぶりネ」
タイマッサージのママは数年ぶりなのに俺の顔を覚えていてくれた。
待てよ……。
あの時の二十二歳の可愛いタイ人の娘って、あれから三年だから今二十五歳。
上手くいけば、今度こそデートへ誘えるんじゃないだろうか?
「ねえ、ママさん。今日は百三十分のコース頼むから、そのまま寝ちゃってもいい?」
「オーケーよ」
施術を受けながら、さり気なくタイミングを見計らう。
ここのマッサージは本当に上手い。
いかに自分の身体に疲れが残っていたのかを痛感する。
「ママさんの娘さんいたでしょ? 二十代の。あの子はまだここで働いているの?」
「アー、娘、結婚したヨ」
「……」
あのクソアマ…、人に焼肉だけ奢らせてしっかり自分は結婚だと?
それを口に出せないもどかしさ。
その内、睡魔とマッサージの気持ち良さ交互に挟まれて、俺は意識を失った。
目を覚ます。
妙に身体が軽い。
見覚えのない薄暗い景色。
どこだ、ここは?
慌てて飛び起きる。
タイマッサージの部屋の中だった。
そうだ、俺は横浜へ来ていたんだっけ……。
「ママさん、長い時間眠っちゃってごめんね」
「大丈夫ヨ。社長サン、よく寝てたヨ」
お礼を伝え店を出る。
さて、これからどうするか?
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