闇 399(懲りずにインターコンチ編)
闇 399(懲りずにインターコンチ編)

2025/11/25 tue
前回の章
二千十七年三月十八日、土曜日仏滅。
前回の競馬惨敗からもう少しで一週間が経つ。
五万円近く貯まった俺。
正確には四万八千円。
鳥良商店でご馳走してくれた関西ヤクザ夫婦。
先週は彼らの店でヤケ酒を飲もうとしたら潰れていたという現実。
俺は残った五千円をとても大事に使うよう心掛けた。
でも腹だって減るし、タバコだって吸いたい。
だから川越と新宿を五回往復して掛かったすべての経費が七千円だったという事だ。
もちろん小江戸号なんて別途に特急料金掛かるようなものは乗らない。
贅沢は心の敵なのを俺は十二分に知っている。
今日出れば一万プラスになるから五万以上に持ち金になると思い出勤したら、台の設定を大幅に変えるから土曜日は店を休むらしい。
そんな店都合で突然の休みって、俺はどうすりゃいいのだ。
もっと二、三日前に言えって話である。
まあ雇われている以上文句も言えない。
岡部さんには事情を話し、今回は三万円だけにしてもらおうと電話をすると、今週は急に仕事が入ってしまったようでまた一人で過ごす事となった。
つまりこの四万八千円は思う存分とまでいかないものの、ちょっぴり派手に使っていいという事になる。
明日も休みなので降って湧いたような連休。
もう土日だからって競馬をするような馬鹿な真似はしない。
さすがに懲りた。
何が運命を変える日だ。
溺れ死にそうになっただけじゃねえかよ……。
二千十四年の有馬記念のような奇跡は早々起こるものではない。
人生イージーモードなどどこにも存在しないのだ。
まあ無理して金を使う必要もない。
仕事を終え真っ直ぐ家に帰り、プレステーション3の電源を入れる。
今の俺にはドラゴンエイジインクイジションがお似合いさ。
うん、面白なー、楽しいなー。
「おい、智一郎」
馬鹿親父が部屋越しに呼んでいる。
人がゲームをやってりゃあ邪魔しやがってよ……。
キリのいいところで止めて、親父の部屋へ行く。
「何よ?」
「腹減ったなあ」
「……」
「カツ丼とか食いたくないか?」
「嫌だね!」
「何だとテメー!」
俺は黙って親父の部屋へ出てゲームの続きを開始した。
先週メタメタ競馬で負けた俺に対し、うるせえぞと抜かした屑。
俺はあの時一週間は弁当抜きにしてやると心に誓ったのだ。
今日はまだ土曜。
ふん、一日早かったな。
明日ならまだカツ丼程度買ってきてやったが、誓いの日まで一日足りないようだ。
そんな事を考えている内に睡魔が襲ってくる。
そのまま寝落ちしてしまう。
夢を見た。
ゴリの夢だった。
やめればいいものを何故かまたゴリのフォローへ回る俺。
何したって無駄なんだから、やめろって。
しかし夢の中の俺はまるで言う事を利かない。
俺の視点は空の上から眺めているような俯瞰。
まるで立体的な映画を強制的に見せられている気分だった。
次々と女を紹介し、必死に俺はゴリへ紹介を繰り返す。
それなのに感謝も何もなく言う事さえ利かないゴリ。
もうやめろ…、本当にやめろって!
いくら叫んでもゴリのフォローをする俺には届かない。
やがて場面はおじいちゃんが亡くなった時に切り替わる。
「……」
夢だとハッキリ分かっていた。
もう覚めろ。
こんなものを夢でもまた見せるな!
電話でゴリへ話す俺。
やめろ!
本当にやめろ!
目を開ける。
部屋の中だった。
嫌な夢を見たものだ。
ゴリへの未練?
馬鹿馬鹿しい……。
おそらくこれは二度と同じ過ちを繰り返さぬよう自身が警告した何かのサインだろう。
一緒にいればそりゃあ楽しかったさ。
馬鹿だけど馬が合った。
でもよ…、おじいちゃんに線香一本もあげに来れないんじゃ、人として終わりだ。
血を分けた兄弟以上に仲良くしていたつもりだったんだけどなあ……。
あまり参考にならないか。
貴彦はとっくに弟ではない。
徹也にしてもあいつは調子が良過ぎる。
身内では一人も信用できる人間がいないのに。
つけっ放しだったゲームをセーブして終わらせる。
時刻は十一時十三分。
そういえば俺が中学生の頃アドベンチャーゲームブックって流行ったよな?
さいとうたかをの『サバイバル』のアドベンチャーブックの漫画系が最初だったような気がする。
あと何だっけ……。
思い出した!
火吹山の魔法使い。
あれこそ初代ロールプレイングゲームの走りだよな。
いや、少し種類が違うか。

文章を読んで行くと選択肢が出てきて、右へ行くなら十三ページ、左へ行くなら四十二ページへ進めってやつだ。
ファミコンだとそれをそのままゲームにしたのが『弟切草』であり、スーパーファミコンだと『かまいたちの夜』だろう。
昔いっぱい持っていたはずなのに、どこへ行ってしまったのか。
何か暇だなあ……。
岡部さんは予定ありで、ゴリも切った。
俺って本当友達いないよな。
一人寂しく部屋に籠っているからこんな事を考えてしまうのだ。
せっかくの連休初日。
遅いけど飲みに行くか。
薄暗くなった深夜のクレアモールを歩く。
近所の呑龍は休み。
さて、どこへ行く?
篠崎の大漁丸はまだ間に合うかな。
左に曲がればジミードーナツのあった交差点を逆に向かう。
次の交差点を渡れば岩上整体跡地。
今じゃ不動産の建物が建っている。
二階にあった焼肉の炙りやも隣り合った街中華王賛も無い現実。
今じゃ篠崎の大漁丸ぐらいしか行く店がない。
少し進むと見えてくるが、お店の暖簾をマスターが閉まっているところが見えた。
俺が顔を出せば入れてくれるだろうが、さすがに自分一人入れたところで迷惑だ。
俺はUターンをしてクレアモールへ戻る。
以前だったら奈美のぼだい樹があった。
もう今は違う店。
どこかの県の老舗の旅館の女将として嫁いだと聞いた。
誰から聞いたんだっけ?
あ、幼少期のピアノの先生である飯島敦子先生だ。
いつだか川越へ戻ってきて天下鶏で飲んでいる時偶然出くわし、その話を聞いた。
もう何年か前になる。
寂しいなあ…、あの岩上整体の時うまくものにできていたら、俺の人生も変わっていたんじゃないだろうか?
あの時春美の奴がフライングで入ってこなきゃあ、奈美と上手くいっていたのだ。
そりゃあさ、品川春美は大本命だったよ。
インターコンチを前日ドタキャンするまではね……。
俺は彼女の為に絵を描き、ピアノを弾き、小説を書き始めたんだから。
奈美には申し訳なかったが、あの時春美を選んだのは仕方ない。
まああれで奈美とはぎこちなくなってしまい、彼女が俺に微笑む種類が変わってしまったのだ。
考えてみれば春美は胸がない。
奈美は結構デカい。
何で俺はあの時春美など選んでしまったのだろうか?
多分あのままいっていれば奈美は抱けたはず。
絶対にボリューム感から考えてみれば、春美より奈美。
俺は本当に馬鹿な真似をしてしまったのだ。
二兎を追う者は一兎をも得ず。
二兎は追ってねえよ、ボケ!
本当に昔の人間はくだらないことわざを考えたものだ。
一人で居酒屋へ入るの何か嫌だなあ。
家に帰りたくなってきた。
うん、資源節約の時期なんだ。
時流の流れに沿って大人しく帰ろう。
ぼだい樹跡地を少し過ぎた辺りで引き返す。
俺は何で川越など帰ってきたのだろうな……。
おいおい、何を勘違いしている?
帰る場所がこの街しかなかっただけ。
岡部さんの手助けあって、ギリギリ生還したのを忘れるなよ。
どうも最近の俺はぬるま湯に浸かっていたようだ。
三月に入り、もうちょいで春。
まあ寒くはあるけどね。
親父との奇妙な慣れ合い。
あれは本来許しちゃいけないやつだ。
考えてみろ。
あの男が何をしてきたか?
お袋が出て行った小学三年生の頃、俺は加藤皐月に会っている。
つまりお袋がいた頃から絶対に不倫をしていたという根拠になるだろう。
今でいうネグレストだった親父。
学費も出さなければ、ただ家の金を使い近所で飲み歩いて大騒ぎしていただけ。
忘れちゃいけないのが、ピアノの先生だ。
もちろん敦子先生ではない。
お袋が出て行ったあとの市役所の近くの家にいたピアノの先生。
親父の不倫相手だったのを小学三年生辺りから俺を生徒として送り込み、格好をつけていたのだ。
俺が岩上整体を開業する前、おじいちゃんが何かの会で敦子先生と遭遇して発覚した過去。
それまで俺は自分自身の記憶を改ざんして生きていた事になる。
本来俺は記憶力は絶対にいいはず。
未だ覚えている電話番号だって五十個は言える。
それなのに敦子先生がずっと小学六年生まで俺にピアノを教えてくれた思い込んでいたあの頃。
市役所のピアノの先生の家だって顔だってハッキリ覚えていたはずなのに、それらをすべて敦子先生と合体させ都合よく記憶させていたのだ。
ただでさえ馬鹿なのに自慢の記憶さえ間違っていたら、俺の価値ってどこにあるのとなってしまう。
だから市役所のほうの先生は、罪悪感から俺に連繋寺のピープルランドへ帰り道寄り好きなだけゲームをやらせてくれたのだ。
考えてみれば二百か三百円を小学生のガキに与えるだけの行為。
あの当時の俺にしてみたら天国だった。
昔から俺はチョロかったのか……。
岩上整体へ患者としてよく来てくれた長澤さんがオーナーだったビルの前を通る。
二千七年末ぐらいにビルを売ってしまい、もう床屋もないんだもんなあ。
新宿クレッシェンドがグランプリを取った瞬間俺がいた地下の床屋。
今じゃガールズバーになっている。
若い女が客引きで外に二人ほど立っていた。
時代の流れは無慈悲なものだ。
「お兄さん、一杯どうですか?」
「ん、お兄さん? 悪いけど俺はもう四十五だぞ?」
「え、見えなーい! 全然三十代に見えますよ」
「いくら何でもそりゃあねえだろ!」
「でも本当に若く見えますよ。最初見た時三十代後半ぐらいかなと思いましたから」
「むー」
「良かったらせっかく仲良くなれたので一杯飲んでって下さいよー。私たちお客さん連れて帰らないとこのまま外にいるようなんですよ」
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
