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「あれ、何を探してたんだっけ?」冷蔵庫の前で固まる私は、ポンコツじゃなかった

夕食の準備をしている時や、お風呂上がりに一息つきたい夜。
いそいそと冷蔵庫に向かい、少し重たいドアを「ガチャッ」と開けた瞬間。

スーッとした冷たさを顔に感じながら、私はしばしば「完全なる無の境地」に陥ります。

「……あれ? 私、何を取りに来たんだっけ?」

麦茶だったか、マヨネーズだったか、それとも子供に頼まれたチーズだったか。

ほんの数秒前まで、頭の中にははっきりとした目的があったはずなのに、開いたドアの前で冷風を浴びながら、記憶はきれいさっぱり消え去っているのです。

仕方なく一旦ドアを閉めてキッチンから離れると、「あ!麦茶だ!」と思い出すこの理不尽なループ。

「私、ついにここまでポンコツになっちゃったのかな……」と、なんだか少し落ち込んでしまうこと、皆さんにもありませんか?

でも、安心してください。

調べてみると、この「冷蔵庫の前でのフリーズ現象」、私たちがポンコツだから起きているわけじゃないんです。


その物忘れの名は

実はこの不思議な現象、心理学や脳科学の世界では 「ドアウェイ効果(位置更新効果)」 という、れっきとした名前がついていました。

人間の脳は、ある空間から別の空間へ移動して「境界(ドアなど)」を越えるとき、 「前の部屋での要件はこれで終了。はい、次!」 と判断して、直前までの記憶(短期記憶)を一度リセットする働きがあるんだそうです。

つまり、リビングからキッチンへ移動し、さらに「冷蔵庫のドア」という境界線を越えたことで、脳は新しい環境に合わせてパタンッと記憶のフォルダを閉じてしまったというわけです。

麦茶を取りに来たという記憶が消えたのではなく、脳が 「はい!ここからは冷蔵庫のターンです!新しい情報をどうぞ!」 と、気を利かせてリセットボタンを押してしまっていたなんて、少し面白くありませんか?


冷蔵庫の中は「いろんな情報」でいっぱい

さらに、私たちが目的を忘れてしまうもう一つの理由が、冷蔵庫の中の「圧倒的な情報量」です。

冷蔵庫のドアを開けた瞬間、私たちの目にはたくさんのものが飛び込んできます。

賞味期限が近い納豆、ちょっとしなびたきゅうり、ボトルの底に少しだけ残ったドレッシング。それらが一斉に「私を使って!」「明日までだよ!」と、私たちの脳に語りかけてくるんです。

人間の脳が一時的に覚えておける情報量(ワーキングメモリ)には、小さな作業机くらいの広さしかありません。

そこへ、冷蔵庫からの「おしゃべりな情報」がドサドサッと雪崩れ込んでくるせいで、一番端っこに置いてあった「麦茶を取りに来た」という本来の目的が、ポロッと机から落ちてしまうんです。

だから、「何しに来たか忘れたけど、とりあえずこの賞味期限ギリギリのヨーグルト、食べちゃおう」なんていう、おかしな行動をとってしまうわけですね。


ひとりごとが、意外と救ってくれる

「でも、ちょっとくらい対策できないの?」と思いますよね。

そこで一つ、調べていて「なるほど!」と思ったことを共有させてください。

脳科学の分野には 「声に出すと記憶が定着しやすくなる」 という研究があります(「生産効果」と呼ばれるそうです)。

「麦茶を取ってくる」「麦茶、麦茶、麦茶!」と声に出しながら冷蔵庫に向かうだけで、ドアウェイ効果に対抗できる可能性があるんだとか。

なんとも頼りない対策に聞こえますが、試してみると実は結構効くんです。

家族に聞かれて「え、ひとりごと……?」と不審がられるリスクはありますが、それはそれで笑いになるので、これはこれでありかもしれません。


脳も頑張ってる、ポンコツじゃない私たち

この「ドアウェイ効果」や「記憶がこぼれ落ちる現象」、実は疲れている時や、仕事や家事で頭がいっぱいの時ほどよく起こるそうです。

「また忘れちゃった」と落ち込む必要はありません。

それは私たちの脳が、パンパンになった情報をなんとか整理して、新しい環境に合わせて必死に働いてくれている 「健康な証拠」 なのですから。

毎日、たくさんのタスクを抱えながら、あっちの部屋へ、こっちの部屋へと動き回っている私たち。

冷蔵庫の冷風を浴びて「……?」と立ち尽くした時は、「あぁ、今の私、いろんなことを考えすぎて脳の机がいっぱいになっているんだな」と、少しだけ自分を労わってあげてください。あなたの脳は、毎日本当によく頑張っているんです。

「あ、またやっちゃった」と思ったときは、ぜひこの「ドアウェイ効果」を思い出して、自分を許してあげてくださいね。 皆さんの「あるあるな忘れん坊エピソード」があれば、こっそり私にも共有して笑い飛ばしましょう!


「チーズ、チーズ、チーズ……」と心の中で唱えながら、キッチンへと足を進めていたその時…

「あのね、ママ」

「……あれ?」


▼もう少し「ふしぎ」を眺めたい方へ

冷蔵庫のドアを開けた時と同じように、私たちの脳は商品の『重さ』まで勘違いしているのかもしれません。

探していた物が『買った直後』に見つかる皮肉。私たちの脳が隠している、不器用で愛おしい盲目の正体。

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