見出し画像

探し物が『新しいのを買った直後』に見つかる不思議。脳科学でちょっとだけ納得してみる話

カバンの中を三往復、ひっくり返して確認したはずなのに。

つい数分前に 「ここには、絶対に、無い」 と確認したはずの、その場所。

そこから 「お待たせ!」 と言わんばかりの顔で探し物が現れる瞬間、皆さんはどう感じますか?

私は、自分の目と記憶が、実は一番信じられないのかもしれない……と、遠い目をすることにしています。


「ない」と叫ぶ私を、脳が見つめていた

それは、ある肌寒い、小雨の降る朝のことでした。

相棒であるワイヤレスイヤホンの「左側」だけが、忽然と消えたんです。

昨日、確かにリビングのテーブルに置いたはず。

なのに、ない。

カバンの底まで手を突っ込み、ソファーのクッションをすべて床に投げ出し、挙句の果てには冷蔵庫の中まで確認しました。

「いや、ここにあるわけないよね」 とセルフツッコミを入れつつも、人間、極限の焦りの中では、論理よりも「万が一」に賭けてしまう生き物です。

結局、その日は 「もういい! 無音でいく!」 とヤケクソになって家を飛び出しました。

そして、その日の夕方。 片方失くしたショックに耐えかねて、新しいモデルをポチり、届くのを待っていた時のことです。 ふと、脱ぎっぱなしにしていたズボンのポケットに手を入れると……。 そこには、朝、私が数十回は確認したはずの場所なのに。 そこから涼しい顔で現れた「左側」がありました。


脳が仕掛ける「心理的盲点」という名のいたずら

なぜ、私たちは目の前にあるものを見落としてしまうのでしょうか。

実はこれ、脳の 「スコトーマ(心理的盲点)」 という仕組みが関係しているみたいです。

脳は、膨大な情報から必要なものだけを選び出すために、常に「フィルター」をかけています。

恐ろしいのは、一度「ここにない」と強く思い込むこと。すると、たとえ網膜が捉えていても、脳は勝手にその情報をゴミ箱へ放り込んでしまうのです。

「一生懸命探している」という私の熱い想いが、皮肉にも「ここには無いという確信」を強め、脳に強力なフィルターをかけさせていたわけです。

私の脳は、 私のために一生懸命働いた結果 、私に嘘をついていた。

そう思うと、相棒(脳)を叱るのも、少し気が引けてきます。


「諦める」という名の、最強の解決策

面白いことに、探し物が見つかるのは、いつも「もういいや」と諦めた直後。

これには、脳の 「デフォルトモードネットワーク(DMN)」 が一役買っています。

私たちが必死に何かに集中しているとき、脳はその一点に全エネルギーを注ぎ込み、周りが見えなくなります。

ところが、探すのをやめて「はぁ、疲れた」とぼーっとした瞬間。 脳はリラックスモードへ。まるで「裏の作業」のように、せっせと記憶の整理を始めてくれるわけです。 これを心理学では「インキュベーション(孵化)効果」と呼ぶそうです。

休憩中、私たちの意識が別のところへ飛んでいる間に、脳の奥深くにいる「探し物担当」が、バラバラになった記憶のピースを静かに繋ぎ合わせてくれている。

その結果として、「あ、あっちのズボンだ!」という、あの唐突なひらめきがやってくるんですね。


買った瞬間に、ヤツらは「帰宅」する

そして、この現象のクライマックスといえば。

「もう出てこないから新調しよう」と決心し、お店でお金を払った、あるいはAmazonの注文確定ボタンを押した、その数時間後です。

なぜか、無くしたはずの「旧型」が、ひょっこりと姿を現します。

新しく届いたイヤホンを耳に挿した瞬間に、ズボンのポケットから転がり出てくる「旧型」の左側イヤホン。

あれを見た時の、あの込み上げる敗北感といったらありません。「あ、新しい子が来たなら、俺はもうお役御免だね」とでも言いたげな、そのあまりに潔すぎるタイミング。

どうやら新調した際のお代は、探し物たちが姿を現すための 「帰宅手数料」 なのだと割り切るしかなさそうです。


この「タイミングの悪さ」への敗北感

最新の研究では、脳の海馬に 「探し物細胞(Finding Cells)」 なる、特定の「物体」そのものに反応する細胞があることもわかってきました。

この細胞たちが、私たちが「あきらめ」という名の休戦協定を結び、脳内の焦燥感が消えた 「今さら感」 たっぷりのタイミングで、一番元気にパトロールを始めるのかもしれません。

日常のふとした瞬間に起こる、この絶妙すぎるタイミング。

「偶然だね」で済ませるにはあまりに鮮やかで、でもどこか健気な、私たちの脳が仕掛ける小さな演出。そう思えば、二つ並んだイヤホンも、少し可笑しく見えてくる気がします。


「ない」を楽しむ

探し物が見つからないイライラしているときは、きっと脳も「昨日の記憶もあやふやな、週の後半の木曜日」みたいに疲弊している状態。

そんなときは、いっそ諦めてしまうのが一番の近道かもしれません。

お茶を淹れたり、窓の外を眺めたり。

コントロールできない「偶然」に身を任せてみると、世界はまた、違った色で見え始めるはずです。

私たちの脳は、案外「思い込み」で世界を面白く(あるいは少し面倒に)見せてくれているようです。

……ま、結局、私の手元には、新しく買ったイヤホンと、戻ってきたイヤホン。

二つの「同じもの」が並んでいるわけですが。

「予備があるって、なんだか心の余裕だよね」

そう強がって、今日もまた、ふしぎな日常(笑)を楽しもうと思います。

次は、何を無くすことになるんでしょうか。

・・・・・・あ、スマホ、どこ置いたっけ。


▼もう少し「ふしぎ」を眺めたい方へ

目の前にあるのに見えない不思議。逆に、一度意識するとそればかり見かけるようになる、脳の「逆転現象」も覗いてみませんか。

予備を買った瞬間に現れる探し物. その絶妙なタイミングは、くしゃみの回数で一喜一憂するあの「偶然の罠」とも似ているようです。

いいなと思ったら応援しよう!

いたち|ふしぎを眺める時間 記事を読んで、何か少しでも心に残るものがあったなら嬉しいです。いただいた応援は、次の「ふしぎ」を探しに行く力になります。