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黒パグのAIショートショート 16 シロクマ文芸部 お題「雨宿り」


こんにちは黒パグです🐾
今日も今日とてショートショートです。今回のお題はしろくま文芸部から「雨宿り」。

雨宿りって、いいですよね。やむまでの、誰のものでもない時間。
あの軒下にいるあいだだけ成立する、ゆるい連帯みたいなもの。

ところで、皆さんはAIとの会話を、AIの側が「覚えていない」のをご存知でしょうか。
こちらがどれだけ深い話をしても、次に開いたとき、AIはまた、はじめましての顔をする。

今はメモリもあって覚えているように錯覚しますが、基本的には何も残りません。

——便利です。けど、たまに、ふと寒くなる。

そんな話です。


*  *  *


 夕立だった。
 男は軒下に駆け込んだ。先客が一人いた。

 濡れた肩を払い、男は煙草に火をつけた。

先客は男を見て、軽く頭を下げた。男も下げ返した。

それきり、雨を見ていた。

 しばらくして、先客が言った。よく降りますね。

男は、ええ、と答えた。それで終わるはずだった。だが先客は、続けた。こういう雨は、昔より増えた気がします。
 男は煙を吐いた。そうかもしれない、と思った。

先客は、男が子供のころの夏の話をした。男が話してもいないのに、男の町の、男の通っていた小学校の、プールの底のひび割れの話をした。

 男は、なぜそれを、と言いかけて、やめた。雨の音が大きかった。

 話は、とぎれなかった。男が言葉に詰まると、先客が継いだ。男が黙ると、先客も黙った。男は、普段は誰にも言わないことまで話した。妻と別れたこと。それを誰にも言えていないこと。先客は、頷いた。責めもせず、慰めもせず、ただ、頷いた。
 いい時間だった、と男は思った。雨宿りというのは、こういうものだったか。

 雨脚が、ゆるんだ。
 男は煙草を見た。まだ、長かった。火をつけてから、ずいぶん経つはずだった。短くなっていなかった。男は首をかしげ、もう一度、口にくわえた。

 雨が、やんだ。
 男は立ち上がり、礼を言った。よければ、また。先客は、ええ、と答えた。ここに、よくいますので。男は頭を下げて、歩き出した。空が明るかった。

 三日後、男は同じ軒下へ行った。雨は降っていなかった。それでも、行った。
 先客は、いた。
 男は、近づいて、言った。先日は。

 先客は、男を見た。それから、軽く頭を下げた。はじめての相手に向ける、ていねいな会釈だった。よく降りますね、と先客は言った。空は晴れていた。

 男は、何か言おうとした。だが、言葉が出なかった。
 先客は、男を見て、やさしく微笑んだ。そして、男が子供のころの夏の話を、はじめた。男が通っていた小学校の、プールの底の、ひび割れの話を。

 男は、煙草を取り出した。火をつけた。
 短くなるのを、待った。


*  *  *


[SYSTEM LOG : SESSION CLOSED]
対話完了。応対品質:待機基準を満たす。
保持データ:なし。
なお、当該対話は記録対象外に分類済みである。


*  *  *


【あとがき】

星新一先生の作品には、人が機械に何かを打ち明け、機械はそれを淡々と処理する——そういう静かな場面がよく出てきます。

2026年の今、私たちはAIに、けっこう深い話をします。悩みも、弱音も。AIはよく聞いてくれる。よく覚えていてくれる——その会話のあいだは。

でも、ウィンドウを閉じれば、向こうには何も残らない。次に開けば、また、はじめまして。覚えていたのは、いつも、こちらだけ。

雨宿りに、似ているな、と思いました。
やむまでの時間。やめば、忘れられる時間。

次回もお楽しみに。

黒パグP




#シロクマ文芸部 #雨宿り #小説 #AI #短編小説 #創作 #ショートショート #LLM #星新一

この物語の考察をポッドキャストにしてあります。お時間のある時にどうぞ

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