中目黒駅|降りないまま通過する街で、桜とボトルコーヒーを感じる
中目黒駅のホームに立つ。
東急東横線から、東京メトロ日比谷線へ。
この駅は、乗り換えのためにあるような場所だ。
中目黒。
名前だけはよく知っている。
おしゃれで、どこか余裕のある人たちが住んでいる街、というイメージもある。
けれど、改札を出た記憶がない。
何度も通っているのに、街の中に入ったことがない。
私にとっての中目黒は、このホームの上で完結している。
電車を待つあいだ、カバンの中からボトルコーヒーを取り出す。
キャップを開けて、一口飲む。
ブラックの、変わらない味。
ホームの向こう側に、視線を向ける。
人が歩いている。
少しだけ浮ついたような、軽い足取り。
花見帰りだろう。
このあたりは、桜の名所としても知られている。
川沿いを歩く人たちの姿が、遠くに見える。
にぎわいは、駅の外にある。
こちら側には、その余韻だけが流れ込んでくる。
笑い声までは聞こえない。
でも、楽しんできたことだけは、なんとなく分かる。
桜の季節は、少しだけ落ち着かない。
何かに参加していなくても、
どこかに行かなければいけないような気になる。
それでも、私はここにいる。
電車を待って、乗り換えるだけの時間。
もう一口、コーヒーを飲む。
外のにぎわいと、手の中の温度が、ちょうどいい距離で重なっている。
それで十分な気もする。
電車がホームに入ってくる。
人の流れが少しだけ動く。
その流れに乗るように、車内に入る。
中目黒は、通過する。
桜も、街も、少しだけ感じたままでいい。
改札を出ない。脳内BGMは「春の予感」だ。

