「理事会がないのに、誰が滞納対応を判断するんですか?」|第三者管理者方式における滞納対応の違い
管理の主体が変わると、滞納対応の責任と透明性はどう変わるか:マンション管理費・修繕積立金滞納の現場から 第65回
役員のなり手不足に悩む管理組合の総会で、
管理会社の担当者が新しい提案を持ち出した。
「第三者管理者方式への移行を検討してみませんか。
理事のなり手がいなくても、
管理会社が管理者として運営を担える仕組みです」
住民から質問が上がった。
「それって、
管理のことは全部お任せできるということですか?」
「基本的にはそうなります。
意思決定も管理者が行います」
別の住民が手を挙げた。
「じゃあ滞納が出たとき、
誰が対応を判断するんですか?」
担当者が少し間を置いた。
「管理者が判断します」
「管理者って、管理会社のことですよね。
自分たちで自分たちの収入に関わる判断をするということ?」
会場の空気が変わった。
第三者管理者方式は、
役員不足問題の解決策として注目されている。
しかし滞納対応という観点から見たとき、
この方式には固有の論点がある。
今日はその「違い」を整理したい。

▼1:第三者管理者方式とは何か|まず仕組みを正確に理解する
区分所有法では、
マンションの「管理者」は
区分所有者以外の第三者でもなることができる。
この規定を活用し、
管理会社や専門家(マンション管理士・弁護士等)が
管理者に就任する形態を「第三者管理者方式」と呼ぶ。
従来の理事会方式では、
区分所有者の中から選ばれた理事・理事長が
管理組合の意思決定を担う。
第三者管理者方式では、
この役割を外部の第三者が担う。
理事会が存在しない、
あるいは形式的な位置づけになるケースもある。
・役員のなり手不足
・高齢化
・管理の専門性の向上
これらを背景に、
近年注目が高まっている方式だ。
国土交通省も
関連するガイドラインの整備を進めている。
この方式における滞納対応の論点は、
第9回で整理した「管理会社の設計が結果を決める」
という問題と深くつながっている。
管理の主体が変わることで、
・滞納対応の判断
・責任
・透明性
のあり方が根本的に変わるからだ。

▼2:第三者管理者方式が滞納対応に与える「3つの変化」
変化① 意思決定の速さと責任の集中
理事会方式では、
滞納対応の判断(法的手続きへの移行・分割払いの合意など)は
理事会での合議を経る。
第三者管理者方式では、
管理者が直接判断できるため、
意思決定が速くなる可能性がある。
一方で、
判断の責任が管理者一者に集中するため、
判断の根拠と記録が従来以上に重要になる。
変化② 利益相反リスクの顕在化
管理会社が管理者を兼ねる場合、
滞納対応に固有の利益相反リスクが生じる可能性がある。
管理費の回収は管理組合の利益だが、
滞納者との関係悪化が
管理業務の継続に影響することを懸念して、
督促が手ぬるくなるリスクがないとは言えない。
第38回で整理した
「任せているつもりが止めている」という問題が、
第三者管理者方式では構造的に起きやすい形になる。
変化③ 区分所有者による監視の難しさ
理事会方式では、
区分所有者の代表である理事が
管理の状況を直接把握できる。
第三者管理者方式では、
この「内側からの監視」が機能しにくくなる。
滞納対応の状況が
区分所有者に見えにくくなるリスクがあり、
第34回で整理した見える化の重要性が一層高まる。

▼3:第三者管理者方式での滞納対応が形骸化する「4つのパターン」
パターン① 管理者への「丸投げ」になる|区分所有者が滞納状況を把握しない
「管理者に任せているから大丈夫」
という意識が区分所有者に広がると、
滞納状況の報告を受けても深く関与しなくなる。
管理者が適切に動いているかを
確認する仕組みがなければ、
問題が表面化するまで誰も気づかない。
パターン② 利益相反が督促の温度を下げる|管理会社としての関係維持が優先される
管理会社が管理者を兼ねる場合、
・滞納者が長期入居者
・有力な区分所有者
である場合に、督促が遠慮がちになるリスクがある。
「管理者として動くべきタイミング」と
「管理会社として関係を保ちたい判断」が、
同一組織の中で衝突する。
パターン③ 報告が形式的になる|区分所有者への開示が表面的にとどまる
第三者管理者が定期報告を行う場合でも、
「滞納が〇件あります」という報告だけでは
第56回で整理した滞納率の実態把握には不十分だ。
・件数
・金額
・期間
・対応状況
この内訳が開示されなければ、
区分所有者は実態を判断できない。
パターン④ 監事機能が弱い|唯一の内部チェックが機能しない
第三者管理者方式では、
監事が区分所有者側の唯一の
チェック機能になることが多い。
しかし監事が滞納対応の実態を
・確認する方法
・基準
・権限
を持っていないと、
チェックが名ばかりになる。

▼4:第三者管理者方式で滞納対応を健全に保つ「4つの設計」
① 滞納対応の基準と報告義務を「契約」で明文化する
管理者との契約(管理委託契約・管理者就任契約)に、
・滞納対応の基準
・報告頻度
・報告内容
を明記する。
「1か月で連絡・2か月で書面・3か月で専門家相談」
という基準を契約に落とし込むことで、
管理者の裁量に委ねすぎない仕組みを作る。
第46回で整理した「仕組みで回る管理」を、
契約レベルで設計する。
② 利益相反を防ぐ「第三者評価」の仕組みを持つ
管理会社が管理者を兼ねる場合、
法的手続きへの移行判断など重要な局面では、
利害関係のない外部専門家(弁護士・マンション管理士)の
意見を求める手続きを設けておく。
第29回で整理した専門家への相談を、
判断基準として契約・規約に組み込む。
③ 滞納報告の「開示基準」を区分所有者が決める
管理者からの定期報告に含まれるべき
・滞納情報の内容
・形式
を、区分所有者側が主体的に決めておく。
「件数・金額・期間別内訳・対応状況」を
最低限の開示項目として規定することで、
第48回で整理した「やっているのに伝わっていない」ではなく、
「実態が正確に伝わる」報告体制を作る。
④ 監事の権限と役割を明確にする
監事が滞納対応の実態を確認するために
必要な権限(帳簿閲覧・管理者への質問権)と、
確認すべき項目(督促記録・対応履歴・回収状況)を
規約または申し合わせ事項として明文化する。
監事が実質的なチェック機能を
果たせる環境を整えることが、
第三者管理者方式の健全性を保つ最後の砦になる。

▼5:「契約で縛ったマンション」と「任せきりにしたマンション」
ある管理組合では、
第三者管理者方式への移行と同時に、
管理者との契約に滞納対応基準と
月次報告の開示項目を詳細に規定した。
監事は毎月の報告書を確認し、
3か月以上の滞納案件については
管理者に対して対応状況の説明を
求める権限を持つ形にした。
移行後1年、
滞納の長期化案件はゼロだった。
監事が言った。
「管理者への信頼と、
確認する仕組みは別物だと思っています。
両方あって初めて安心できる」
一方、別の管理組合では
「専門家に任せたから大丈夫」という意識で
移行後のチェックをほとんど行わなかった。
2年後の監事監査で、
3件の長期滞納が放置されていたことが判明した。
「なぜ報告しなかったのか」という問いに、
管理者は「報告の義務が契約上なかった」と答えた。
任せることと、
確認しないことは、
まったく異なる。

▼まとめ:第三者管理者方式は「任せる」仕組みではなく、「任せながら確認する」仕組みだ
第三者管理者方式は、
役員不足の問題を解決する
有効な選択肢になり得る。
しかしそれは
「管理を丸投げする」仕組みではない。
管理者に任せながら、
区分所有者が確認できる仕組みを持つ
この両立があって初めて、
第三者管理者方式は滞納対応においても機能する。
「任せる」と
「確認しない」は
同じではない。
この認識が、
新しい管理の形を健全に保つ出発点になる。

▼今日のワンアクション
第三者管理者方式を導入している、
または検討しているマンションの方に
確認してほしいことがあります。
「管理者との契約に、
滞納対応の基準と報告義務は明記されていますか?
また、監事がその実態を確認できる仕組みはありますか?」
もし「任せているから大丈夫」という状態なら、
次の契約更新のタイミングでこの二点を
確認することから始めてみてください。


ここまで読んでくださってありがとうございます。「第三者管理者方式、こういう視点で見る必要があるんだ」と感じたら、スキやシェアをいただけると励みになります。同じ悩みを持つ誰かに、届けてもらえたら嬉しいです。
これからも現場の目線から、役立つ視点を発信していきます。よければフォローしてお待ちください。
もし宜しければ、こちらもご覧ください👀
⬇️ ⬇️ ⬇️ ⬇️ ⬇️
第9回
第29回
第34回
第38回
第46回
第48回
第56回
いいなと思ったら応援しよう!
初めて管理組合の理事になって、滞納問題に苦慮されている方のお力に微力ながら貢献できればと思っております。応援よろしくお願いします!