「契約の範囲で対応しています」|その一言が、滞納対策を止めていませんか?
「任せているつもり」が止めている。契約で変わる回収力:マンション管理費滞納の現場から 第38回
理事会の終盤。
理事:「滞納、なかなか減りませんね……」
フロントが静かに答える。
「督促は継続しています」
理事長が続ける。
「管理会社さんにお願いしているんですよね?」
「はい、契約の範囲で対応しています」
その一言で、少し空気が止まる。
「契約の範囲で」、
この言葉、現場ではよく出てくる。
でも実はここに、
見落とされがちな問題がある。
「何をどこまでやるかは、契約で決まっている」
今日は、滞納対策と管理会社との契約の関係を整理したい。

▼1:「基本業務じゃないんですか?」:契約のズレが現場を止める
若手フロントが言われる。
「もっと強く対応できませんか?」
フロントは少し困った顔をする。
「契約上、ここまでの対応になります」
理事:「内容証明って出せないんですか?」
フロント:「オプション対応になります」
理事:「え、基本業務じゃないんですか?」
ここで初めて気づく。
どこまでが基本業務で、どこからが追加対応なのか。
意外と共有されていない。
結果として「やってくれると思っていた」
「そこまでは契約外です」というズレが起きる。
フロント自身も苦しい。
「やりたいけど、契約上できない」
この板挟みは、
管理会社への不満でも担当者の怠慢でもなく、
契約設計の問題だ。
滞納対策は「気持ち」ではなく、
契約で動く仕事だ。

▼2:滞納対策のレベルは、担当者の努力ではなく契約で決まる
管理会社との契約は、
・業務範囲
・対応レベル
・費用
を決めるものだ。
滞納対策でいうと、
・督促の方法(電話・文書)
・頻度
・法的手続きへの関与
・報告の内容
これらが契約で決まっている。
ここで重要なのは、
契約に書いていないことは、基本的にやらない(やれない)
という現実だ。
管理会社も組織として費用対効果を考えており、
契約外の業務を無償で継続することはビジネス上難しい。
これはフロントの問題ではなく、
仕組みの問題だ。
一方で理事会は「しっかり対応してほしい」と思っている。
このギャップが現場の停滞を生む。
契約は、
見えないブレーキにもなるし、
アクセルにもなる。
滞納対策のレベルは、
担当者の努力だけでは埋められない領域がある。
契約をどう設計するかが、回収力を決める。

▼3:「任せているつもり」が生む、4つの停滞パターン
パターン① 督促が「形式的」になる:実行の形骸化
定型文の送付のみで、相手に响かない。
契約上「督促する」とだけ書かれており、
・内容
・タイミング
・頻度の基準
がないため、最低限の対応で終わる。
パターン② 法的対応が遅れる:判断の先送り
契約外のため、
法的手続きへの移行判断が後回しになる。
長期滞納化するだけでなく、
第28回で整理した時効の問題にも直結する。
「いつ動くか」の基準を契約に組み込んでいないことが原因だ。
パターン③ 報告がざっくりしている:情報の粒度不足
総額や件数だけの報告になる。
第34回で整理した「動けない理事会」と同じ構造だ。
「報告する」とだけ書かれた契約では、
報告の粒度は定義されない。
パターン④ 「任せきり」になる:合意不在のまま期待だけ積み重なる
契約内容を確認しないまま
「管理会社がやってくれているはず」と思い込む。
期待と現実がズレ続け、不満だけが積み重なる。

▼4:契約を「見えないブレーキ」から「アクセル」に変える4つのステップ

① まず契約書を開く
・滞納対応はどこまで含まれているか
・何がオプションか
を確認する。
国交省の標準管理委託契約書をベースにしている場合、
督促の回数・方法・報告義務の基準が記載されているはずだ。
自分のマンションの契約がそれと比べてどうなっているかを確認するところからスタートできる。
② 「現場で足りない部分」を洗い出す
・初動が遅い
・報告が分かりにくい
・法的対応の判断が遅い
これらを現場目線で整理する。
「なんとなく動きが弱い」ではなく、
「どこが・なぜ」を具体的に言葉にすることが、
次の対話を前向きにする。

③ 管理会社と「対立ではなく共有」の対話をする
「今の契約だとここまでですよね。ここを強化したいです」、
この会話が重要だ。
管理会社も回収できた方が業務がしやすい。
その共通利益を軸に話すと、交渉が前向きになる。
要求するのではなく、共通の目標に向けて役割を整理する対話として臨むと、関係が壊れない。
④ 具体的に書き直す:そして役割分担を明確にする
・業務範囲の拡張
・報告内容の具体化
・法的対応フローの明確化
をポイントに、「具体的に書く」ことを意識する。
あわせて「管理会社→実務対応、理事会→判断・方針」
という役割分担を明文化することで、互いが動きやすくなる。

▼5:「同じ会社なのに、動きが全然違う」:契約を変えたマンションの変化
あるマンションでは滞納が増えていたが、
契約内容は昔のままだった。
督促はしているが動きが弱い、
そこで契約を見直した。
・督促フローの明確化
・報告の一覧形式への変更
・一定期間で法的対応を検討する基準
の追加を行った。
結果、初動が早くなり、長期滞納が減少した。
理事長が言った。「同じ会社なのに、動きが全然違いますね」

一方、別のマンションでは契約はそのまま、
対応を求めるだけだった。
現場は変わらない。
フロントも苦しい。
結果として滞納は増え続けた。
契約を変えずに結果だけ求めても、現場は動けない。
変えるべきは担当者への期待ではなく、契約の設計だ。

▼まとめ:曖昧さを減らすことが、関係を良くする
マンションの運営は契約の上に成り立っている。
「頑張ってほしい」だけでは動かない。
「こう動く」と決めることが必要だ。
それが契約だ。
関係を良くするのは、曖昧さを減らすことだ。
管理会社との間で「何をどこまでやるか」を明確にすることが、
フロントを動かしやすくし、
理事会の判断を速くし、
滞納対策全体を前に進める。
求めるべきことを契約に書く。それが結果的に、全員を楽にする。

▼今日のワンアクション
管理会社との契約書を開いて、ここを確認してください。
「滞納対応、どこまで書かれていますか?」
この一歩が、「止まっている理由」を見つけるきっかけになります。

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