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アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その捌】結婚って、一人でも生きていける二人が、それでも一緒にいたいと思う時にするものよ。 ③

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【その捌】結婚って、一人でも生きていける二人が、それでも一緒にいたいと思う時にするものよ。 フランス人ファッションデザイナー ココ・シャネル ③


 演習が始まった。初日は、米空軍と空自が主体となり、制空権確保を目的とした連携に重きが置かれていたが、二日目には離島奪還を想定した演習が行われ、米空軍のF22と空自のF15の援護の下、米海兵隊と海自のF35による敵水上艦艇への対艦攻撃訓練や、占拠された島嶼への爆撃訓練が展開された。

「あしがら」との訓練で対艦戦への自信を取り戻していた夕陽は、ウィズウォリアーでの好調をそのままに、敏生とのコンビで「大戦果」を上げて、米軍からの賞賛を浴びた。

 そして三日目からは、いよいよ、日米混成のACM訓練が行われることとなった。事前に聞いていた通り、夕陽のエレメントパートナーはエイミー。

 当初はどうなることやらと不安に感じていたが、いざ組んでみると、エイミーとのエレメントは全てが新鮮だった。どちらかというと、彼女はそのイメージから「剛腕」だと思い込んでいたが、一緒に飛んでみると実態は「柔よく剛を制す」で、以前に敏生が言っていた、正に女性パイロットならでは、の戦い方だった。

 ジェンダーレス云々ではなく、身体的な特徴として出来ることと出来ないことが彼女の中で整理されていて、とても分かりやすい。

『イデア! そっちに行ったわよ!』
「ラジャー! 任せて!」

 エイミーの追撃を免れた「敵」のF15EXが、夕陽のライトニングの前に躍り出る形になったところを、すかさず仕留める。

「Fox3! ロックオン!」
『イエス! やったわね! これで撃墜キル3機ずつよ!』

 即席コンビとは思えないほど、彼女との息はピッタリ。敏生と同じくらいやりやすい。

 あ、そうか。これ、敏生が前に……。

 女性ならではの戦い方を身につけるようアドバイスをされた時、敏生がエイミーの飛び方を真似て、何度も繰り返し稽古を付けてくれたことがあった。多分、あの時の感覚が残っていたからだろう。

 演習自体は、日米両軍の関係向上を目的とした混成演習となったので、面子を気にする必要が無くなったせいか、川越は二日目を終えて、急用を理由に市ヶ谷に呼び戻され、不破も理由は分からないが、同じく那覇に戻ってしまった。

 夕陽としては一度、二人と手合わせをしてみたかったのだが、仕方ない。 

 また、同じ所属部隊のパイロット同士はマッチングされないので、敏生との対戦機会も無かった。

 それでも、米空軍の精鋭や、全国から集められた空自の猛者たちとの演習は、確実に技量向上に繋がるまたとない機会。何より、自衛隊で実戦配備されている女性パイロットはまだ少数、空自の時から女性同士で一緒に飛ぶ機会など皆無だったので、トップパイロットのエイミーの飛び方を味方として学べるのはとてもありがたかった。

 日々、撃墜の山を重ねていく日米の女性パイロットコンビに、周囲もだいぶ騒がしくなっていて、敏生が言うには、夕陽は米空軍の連中から「南洋のメデューサ」と呼ばれ始めているらしい。

「こんなに可愛いのにメデューサとは失敬だよな。まあ、怖い名前が付いている方が虫除けにはなるんだけど……」

 と複雑な表情を浮かべる彼。

 メデューサって何? と、スマホで画像検索をしてみたら、髪の毛が蛇の恐ろしい怪物が出て来て、さすがにこれは嫌だ、と思ってしまった。

 睨まれると石になってしまうらしく、散々男を睨みつけて撃退してきた覚えはあるものの、米軍の連中にはそこまで知られていないはず。空自の誰かの入れ知恵では? と勘繰ってしまう。

 もっとも、このような渾名が増えることは認められている証。勲章の一つと捉えて、気にしないことに決めた。

 一方、演習を終えた夜は、連日、ひたすらエイミーとガールズトーク。英語力も急速に上達していくのでありがたい。そして、エイミーもまた、大の恋バナ好きの乙女だった。

 もちろん、敏生とのこれまでの顛末も、根掘り葉掘り聞かれていた。

「何が変なの? 確かにデーティング期間が一年半は長いとは思うけど、人それぞれよ」

 敏生と出会ってから付き合うまで、自分が奥手だったために一年半も掛かってしまったことを話したところ、返ってきた反応。

「デーティング?」
「ああ、そういえば日本人はデーティングはせずに、コクハツする文化だったわね」

 たまに日本語が混じるのも、だいぶ慣れてきた。敏生と一緒だった操縦教育課程の時に、彼と仲良くなりたくて、独学で恋愛に関する日本語を色々と学んだことを、笑いながら話してくれた彼女。

「あ、それは正しくはコクハクです。デーティングって何ですか?」
「コクハクね。覚えたわ。デーティングはそうね、何て言えばいいのかしら? トライアル期間かな。お互い、友達なのか恋人になるのか、将来結婚できそうなのか、まずはデートを重ねて相手を見定める期間ね。いきなりLワードをコンフェッションして恋人になる文化はアメリカには無いわ」

 なるほど。だからエイミーはあの時、敏生を気軽にデートに誘ったのか。
 Lワードって何だろう? 後で調べないと。

「逆にデーティングが長かったから、ユウとトシはお互いのことをよく知ることが出来て、早く結婚出来たんじゃない?」

 あ、なるほど。確かに、敏生もすり合わせはとっくに終わってるよね、と言っていたことを思い出す。

「で、ハズバンドになったトシはどうなの? 優しい?」
「はい。出会った時から変わらず、すごく優しいです」
「良いわね。毎日メイクラブはしているの?」

 エイミーが枕を抱きしめながら、興味津々といった様子で聞いてくる。

 ん? メイクラブってなんだっけ? 愛を作る? 敏生はいつも「愛してる」って、言葉に出してくれるから、多分、そういう雰囲気づくりのことだよね?

 ひとり合点し、にっこりと頷く。

「はい、いつも」
「ワオ! 本当に!? すごいわね! 彼はマッチレスなのね!」

 予想外の彼女の驚き様に、首を傾げる。

 ん? アメリカ人は愛してる、って普通に良く言うんじゃなかったっけ?

「いいなー。あたしもどこかに良い人いないかしら」
「えっ? エイミーさんなら良い人がたくさん現れるんじゃないですか? とってもチャーミングだし」
「デーティングする男は常に何人かいるけど、エクスクルーシブしたい男はなかなかいないのよ」

 そう言って、大げさに肩を竦めて見せるエイミー。

「エクスクルーシブすると恋人になるんですか?」
「うーん、一歩手前かな? とりあえず見定める人を一人に絞ってトライアルするのよ。で、お互いが良ければ、そこで初めて、ボーイフレンドとガールフレンドになるのよ」
「恋人になるまですごく色々あるんですね」
「ああ、恋人の関係と言えるのは、更にどちらかがLワードを言ってからね」

 まだ儀式があるのか。映画やドラマで見てきたものとは全く異なる世界に、興味が湧く。 

「あ、さっきも出てきたけど、Lワードって何ですか?」
「端的に言うと、I love youね」
「えっ? じゃあそれまではお互いI love youは一度も言わないんですか?」
「I like youで充分だわ。Lワードは本当に特別なのよ。付き合い始めて直ぐに言っちゃう人は、軽すぎて信じられないわ」

 知らなかった。そこまで重い言葉だったとは。ただ、アメリカ人が恋人同士に至るまでの長くて慎重な過程は、どことなく自分と敏生が慎重に愛を育んできた日々と重なって、自分は決して臆病なわけではなかったんだと思えたことが、何よりも嬉しかった。

           *

 共同演習は全てのプログラムが終わり、フェアウェルレセプションも済んで、厚木への帰還準備。

 この一週間、とても濃厚で充実した日々だった。

 トラベルポッドへの荷物の搬入を、すっかりと打ち解けたエイミーが、名残惜しそうに手伝ってくれる。

 今回はちゃんと、SNSにメールアドレス、携帯の番号と、今後も繋がり続けられるように、複数の連絡先を交換し合った。リムパック以来、トラウマになっていた彼女とここまで仲良くなれたことが信じられない。

「ユウ、この一週間、本当に楽しかったわ。次は結婚式ね。あなたのウェディングドレス姿、楽しみにしてるわ」
「こちらこそ。本当に楽しかったし、エイミーさんとお友達になれて嬉しかった。結婚式は気をつけて来て下さいね」

 しばしお別れのハグ。お互いの目に涙が滲む。

「エイミー、ありがとうな。夕陽と仲良くしてくれて」

 傍らの敏生が、御礼を挟む。日本の絶対的エースパイロットとして、この演習でもトップのキルスコアを上げ、絶大な存在感を示した彼だが、何故か表情は冴えない。

 もっとも、エイミーはその事情を察しているのか、クスッと笑うと、夕陽から離れ、悪戯っぽく彼を見上げた。

「あなたの大切なユウをお返しするわね。一週間、ありがとう」

 エイミーは敏生ともお別れのハグを交わしたが、彼女と分かり合えた今では、夕陽の中に複雑な感情が湧き上がることも無くなっていた。

「それからあなた、かなりマッチレスみたいじゃない。彼女が可愛くて我慢できないのは分かるけど、壊さないよう、ほどほどにね」
「……はい?」

 彼女の言葉にきょとんとする敏生。

「お幸せに」

 エイミーは再び夕陽と軽くハグすると、手をふりながら、その場を去っていった。

「マッチレスって……、あいつと何を話したの?」

 彼女が去って行った方を見つめながら敏生が聞いてくる。

「あ、えっとね、彼は優しい? って聞かれて、はい、って答えたら、毎日メイクラブはしてるのか? って聞かれたから、エブリタイムって答えて……。何か変だった?」

 敏生は夕陽の顔を見つめてポカンとしていたが、やがて、顔を抑えると、何故だか必死に笑いを堪えている。

「まあ……、夕陽にその分野のボキャブラリーがある訳ないしね。あながち間違いでも無いし、いっか」

 彼は夕陽の頭にポンと手を乗せると、耳元に顔を寄せた。

「この一週間、夕陽不足で溜まりに溜まっているから、家に帰ったら覚悟してね。次回、困らない様に手取り足取り、たっぷりと英会話のレッスンもしてあげるから」
「え? なになに? どういうこと?」

 訳もわからず戸惑っていると、敏生に耳打ちされ、自分の顔がみるみる赤く染まっていくのが分かった。

「うっ、うそぉ――――――!!??」

夕陽の絶叫が、真っ青な南洋の空に響き渡った。



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