アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その捌】結婚って、一人でも生きていける二人が、それでも一緒にいたいと思う時にするものよ。 ②
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【その捌】結婚って、一人でも生きていける二人が、それでも一緒にいたいと思う時にするものよ。 フランス人ファッションデザイナー ココ・シャネル ②
「あのやんちゃなトシが僚機と共に成長して、結婚までするとは。感慨深いな」
不破が敏生と夕陽を眺めながら、しみじみと漏らす。
「ああ、いい上官になったようだな。俺も市ヶ谷でお前の活躍を耳にするのが誇らしいよ」
A幹部の宿命とはいえ、伝説のパイロットがデスクワークの日常を送っていることを示唆する言葉に、夕陽の胸がチクリと痛む。
今の川越は、明日の敏生の姿。彼の表情も少し寂しげに見える。
「あ、そういえばこの間、観閲式で久しぶりに紀美とばったり会いましたよ」
思い出したかのように、敏生が話す。恐らく、自分の様子を見て、さり気なく拾い上げてくれたのだろう。
「……そうか。元気そうだったか?」
「はい。川越三佐に会ったらよろしく、って」
「ありがとう。さて、そろそろ時間だ、義広。明日からの演習に備えて、今日のうちに感覚を取り戻しておきたい」
「おし、行くか。お前のために若葉マーク持ってきておいたぞ」
川越と不破は、笑い合うと、敏生と夕陽に会釈して、乗機に向かっていった。
「な、かっこいいだろ? 川越三佐とヨシさん。あの二人はずっと俺の憧れなんだ」
「ふふ。かっこいいかもしれないけど、あたしは二人にヨシヨシされてる敏生がすごく可愛くて、キュンキュンしちゃった」
からかう様に夫を覗き込む。
「おいおい、煽らないでよ。これから一週間、男女別の宿舎で禁欲生活なんだから」
「昨日、いっぱいお写真撮ったんだから、それで我慢してね」
弱り切った夫に、クスクスと笑うと、すっと彼に身体を寄せた。
「ありがとうね、紀美のこと」
返事の代わりに、彼の手がポンと頭の上に乗る。
「さて、先ずは宿舎に荷物運んでひと息つくか」
「うん!」
荷物を拾い上げ、宿舎に向かおうとしたところ、二人の行く手を遮った人影。
仁王立ちしていたのは、夕陽の因縁の相手。
「久しぶりね。あなたたち。待っていたわよ」
「エイミーさん……」
睨みつけるような表情の彼女に、傍らの敏生はどこ吹く風。
「おう、エイミー! 久しぶり。元気だったか?」
気安く声を掛ける敏生に、一転して、笑顔で抱き着くエイミー。挨拶だとは分かっていても、やはり穏やかな気分ではいられない。
彼の妻の立場を手に入れたはずなのに、湧き上がる焦燥感。やがて、彼女は敏生とのハグを解くと、夕陽の方に視線を向けた。
「ユウ……」
嫌味のひとつでも飛んでくるかと咄嗟に身構える。だが。
「久しぶりね。会いたかったわ!」
次の瞬間、ぎゅっと抱き締められた。予想もしなかった展開に、訳もわからず目を白黒させる。
「で、あなたたち、あたしに何か言うことあるんじゃないの?」
夕陽を抱きしめたまま、エイミーが顔を上げる。
彼女の大きな胸に顔を埋める形になってしまい、息苦しさでジタバタする。
「あれ? 誰に聞いた? クリスは本土に帰っちゃったし」
「そんなのどうでもいいわ。酷いじゃない、あたしに何の連絡もくれないで。」
「悪い悪い。会った時に言おうと思っててさ」
「まあ、いいわ。おめでとう。式はいつなの? まだなら、あたしも参加していいのよね?」
「来れるのかい? 東京で二カ月後だけど」
「本当に!? 今回は半年カデナに居るから、問題ないわ! 東京ならヨコタまで定期便で行けるし」
「分かった。ありがとう、調整するよ」
「やったわ! すごく嬉しい!」
ようやく解放され、プハッと息をする。
「とりあえずユウ、あたしたち、今回は同部屋にしてもらったから、一週間、いっぱいお喋りするわよ!」
「……ええっ!?」
「マジか!?」
「ユウの荷物はこれね? さっ、行くわよ!」
エイミーは足元の夕陽の荷物をすっと拾い上げると、手を引っ張ってくる。想像の斜め上をいく展開に、夕陽はただ、戸惑うばかりだった。
*
エイミーが案内してくれた基地内宿舎の部屋はすごく立派だった。
2ベッドルームで、リビングとダイニングキッチンもかなり広く、すべてがアメリカンサイズ。
厚木基地も米軍との共用なので、基地内の雰囲気はどことなく似ているが、これまで米軍宿舎に立ち入る機会など無かったので、とても感慨深い。
「ユウはこっちの部屋を使ってね。コーヒーは砂糖とミルクを入れてもいい?」
「ありがとうございます。はい、大丈夫です」
夕陽は部屋に荷物を入れると、スマホを見た。
案の定、敏生から心配するメッセージが入っていて、「大丈夫」と返すと、急いでダイニングに戻った。
この後、レセプションも予定されているので、着替えずにフライトスーツのままでいることにした。エイミーもまた、フライトスーツのままだ。
「はい、どうぞ」
エイミーがコーヒーの入ったマグカップをコトンとテーブルに置く。
「ありがとうございます」
彼女に促され、テーブルにつくと、エイミーが神妙な面持ちで夕陽の前に座った。
「ユウ、あたし、あなたにずっと会いたかったの」
「え?」
「あなたに謝りたくて……。リムパックの時、あたし、あなたに散々酷いことを言ったわ。本当にごめんなさい。許して欲しい」
一瞬、耳を疑う。だが、彼女の目は真剣だった。
「リムパックの時、あたし、トシにデートを申し込んだら、あなたとの未来しか考えられない、って断られて。とても悲しくて、つい、あなたに当たっちゃったの」
そういうことだったのか。一年半を経て知る真実。敏生が彼女とのデートを断ったことは聞いてはいたが、彼が既に当時から自分との未来を思い描いてくれていたなんて。
離れて三十分も経っていないのに、もう、無性に彼に会いたくなってしまった。
「あなたは何も悪くなかったのにね。本当にごめんなさい」
夕陽は首を横に振った。
「謝らないで、エイミーさん。あの時のあたしは、あなたの言った通り、覚悟も技量も全然足りてなかった。だからあたしは、公私ともに彼に相応しいウィングマンになれるよう、頑張ってきた。今のあたしがあるのは、あなたがあの言葉と、圧倒的な技量で気づかせてくれたおかげなの」
これは本心だ。あのことが無ければ、戦競のMVPもブレイブシーカーの称号も、そして彼との結婚も無かったかもしれない。
夕陽にとってトラウマだったリムパックでの出来事は、エイミーにとっても、しこりを残していたようで、こんな形でお互い寛解できるのがとても嬉しい。
「ユウ……ありがとう」
エイミーもまた、嬉しそうに夕陽の手を取る。
「あの後、すごく後悔して、貴女に謝る機会をずっと探してたの。連絡先も交換しなかったし、途方に暮れていたわ。そしたらね、ボスから今度、カデナへのローテーションがあるから行かないか、って打診されて、ユウヒ・コウヅキとエクササイズで会えるなら行くわ、って答えたの。で、ボスが司令部に、日本海軍と交渉するように掛け合ったら、ユウヒ・カドマのことか? って聞かれて。あれ? カドマって、トシのファミリーネームじゃない! って。もう、びっくりよ」
事の顛末を楽しそうに笑いながら話すエイミーに、背筋が凍る。まさか、エイミーが自分に謝るためにこの一大演習が組まれたというのか。
言えない、誰にも。散々、辛酸を嘗めさせられてきたエイミーにリベンジを果たすため、航空総隊が全国から猛者をかき集めたというのに、当の本人はこんな乙女チックな理由で日本にやって来ていたなんて。
「でね、今回のエクササイズ、あたしは貴女とエレメントを組むことになったわ。ね、素敵だと思わない? 二人で男共を血祭りに上げましょうね!」
はい? そんなこと、全く聞いてないです。……大丈夫なのか、この演習は。
夕陽の手を取りながらきゃっきゃと喜ぶエイミーに、夕陽は引きつった笑いを浮かべつつ、絶望的な気分に陥っていた。
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