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雪の降る街で 第九章 「狂気」 ②

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この作品はフィクションです。実在の人物団体事件出来事とは一切関係ございません。


第九章 「狂気」 ②


「都市攻略に空爆作戦というのは本当に必要なのか? 門真君」

 門真としても久峨の気持ちは痛いほど分かったが、現実は上申しなくてはならない。

「市街戦は守備側が圧倒的に有利となる戦いです。地の利を生かすことが出来、建物が遮蔽物となるので待ち伏せ攻撃も容易です。その為、事前に出来る限り敵の戦力を削いでおく必要があります。最近でも市街戦に突入する前には必ず空爆作戦が実施されています。チェチェン、イラク、シリア然りです」
「我々の手では出来んのか?」

 何とか被害を最小限に止めたい久峨の質問に、空幕長が門真を遮り、身を乗り出した。

「パイロットは都市爆撃の訓練はしておりません。また、電子戦機を保有していないので敵対空兵器のレーダーを無力化出来ません。強行すればこちらの被害が拡大します。米軍に要請するのが最も効果的かと」
「F35は電子戦能力を持っているだろう? ステルス機だから敵にも捕捉され難い」

 航空自衛隊出身の宇垣の指摘に空幕長が苦虫を嚙み潰す。

「確かにその通りですが、空自のF35Aは制空任務を主としておりますので、都市爆撃を実行するのであれば相応の訓練が必要です。それにF35なら海自さんも保有していますし、リムパックでは米空母を〝撃沈〟した実績があると聞いていますが……」

 空幕長の発言に海幕長が慌てて補足する。

「勿論、彼らによる空爆作戦も検討中です。ただ、ながとはまだ南シナ海の海上で、戦闘行動半径の圏外です」
「ながとのF35と言ったら門真君の息子さん夫婦がパイロットじゃなかったか?」

 思い出したように久峨が門真を見る。

「お気遣いは無用です。彼らは宣誓した幹部自衛官です」

 門真がそう言い頭を下げた時だった。突然、指揮所の隊員が血相を変えて立ち上がった。

「横田より入電! 千歳から上がった二機のF15が首都圏こちらに向かっているとのこと!」
「どういうことだ」
「分かりません! 五分待機中の二機が許可も無く突然発進したとのこと!」
「まさか、空自にも奴の仲間が……」
「大臣!」
「ホットスクランブルだ! 直ちに迎撃せよ!」

 宇垣の指示に、一気に対策本部の緊張が高まる。

「了解! ホットスクランブル! 三沢と百里から上げろ! 急げ!」

 指揮所の隊員達が矢継ぎ早に各部隊に指示を出していく。

「総理!」
「今度は何だ?」
「電話です! その……、仲木戸からです!」
「何!?」

 誰もが呆気に取られたが、次の瞬間には蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。

「スピーカに切り替えろ!」
「送ります!」

 周りが固唾を飲んで見守る中、久峨はテーブルに肘をつくと、モニターを睨んだ。

「総理、そしてご臨席の皆さん、こんにちは。仲木戸です」

 笑いを含んだ不敵な声が室内に響き渡る。

「私のことは皆さん、既にご存知でしょうからこの場では割愛させていただきます」

 相手を焦らすかのような、ゆっくりとした語り口。

「総理の久峨だ。前置きなど要らん。何が目的だ?」

 仲木戸の押し殺した笑い声に久峨の顔が益々曇る。

「では単刀直入に。我々の要求はただ一つ。ここ新潟をかつての祖国を体現するための自治区として承認いただきたい。弱腰の貴方達には出来ぬ敵性国資本、及びこの国に巣食う危険分子達を排除して差し上げましょう」
「何を寝ぼけたことを。危険分子とは君のことだろう」

 久峨が苛立ちを隠すことなく吐き捨てる。

「おや? 何か勘違いされているようですね。私たちの目的は日本を守ることですよ。諸外国の間接侵略からね」
「何が日本を守るだ!? 新潟市民八十万人を人質にしておいて偉そうなことを言うな!」
「人質? 居ませんよ、そんなもの」
「何?」

 仲木戸の返答に、久峨が唖然とする。

「言ったでしょう、我々はいかな人質も取るつもりはないと。新潟県庁、新潟市役所、新潟駅それぞれを中心に半径三キロの市民は全て避難させました。よって今、市街中心部に残っているのは我々と、各国が残したネズミ共です。なので遠慮なく来ていただきたい」

 狐につままれたような対策本部。自ら手の内を曝け出す彼の意図を、誰もが測りかねる。

「君は……一体何をしたいんだ」
「私はただ、この愛する祖国の自我を取り戻したいだけです」

 一転、ぞっとするような暗い声。

「ここ新潟に日本人の理想郷を築き、見せつけることで、国民達は否が応でも国の在り方を考えるようになるでしょう。それはやがて国全体に伝播していく。その時、日本は漸くかつての美しい姿を取り戻すことが出来るんです。周辺国の思惑に惑わされることのない、強い自我を持った真の姿に」
「そんなこと……認められる訳ないだろう」

 かつて所信表明演説で「美しい国を目指す」と標榜した久峨が呻くように声を絞り出すと、彼の含み笑いが聞こえてきた。

「それが叶わぬなら一度、あの戦争の記憶を書き換えるしかないですね。偽りの記憶を、新たな忌まわしき記憶によって」
「どういうことだ?」
「我々が何故この反乱を起こしたのか。人々がこれから始まる惨禍・・・・・・・・・をその理由と共に思い返すとき、同時に周辺国や売国奴共への警戒感も呼び覚ます。騙され易く忘れっぽい国民には強烈な記憶のすり替えが必要だ」

 狂気。

 しんと静まり帰る室内。

「君は本気で戦争をするつもりなのか?」
「愚問ですね。我々が本気であることは既にご存知の筈だ」

 誰もが言葉を継げぬ中、切り出したのは門真だった。

「仲木戸一佐、統幕長の門真だ。ひとつだけ教えて欲しい。君は何故、かつての仲間に引き金を引けるんだ?」

 今、隊員の誰もが感じている切実な疑問。

「それは我々が常に覚悟を決めている自衛官だからですよ。勿論、貴方達も含めてね」

 抑揚のない声。門真がぎゅっと拳を握りしめる。その時。

「百里からホットスクランブルで上がったF15二機が、先ほどの二機に呼応するようにこちらに向かってきているとのこと!」
「何!?」

 再び騒然となる対策本部。

「言ったでしょう、我々は本気だと」

 その声を最後に、通信が途絶えた。

「ペトリオットでの迎撃を横田に指示だ! 地上の職員は直ちに地下へ退避! 急げ!」

 航空総隊司令も務めたことのある宇垣が矢継ぎ早に指示を出す。

「大臣! ここで撃墜すると市街地への被害がッ……!」

 空幕長が血相を変えて宇垣を押し止めようとする。

「奴は戦争を仕掛けてきたんだ! 撃墜せんと被害が拡大するだけだぞ!」
「ペトリオットシステムダウン! 起動しません!」

 悲鳴のような報告に本部内が凍り付く。

「まさか……ここにも奴の……」

 都心に侵入したのは千歳と百里から飛び立った合計四機のF15J・イーグル戦闘機。

 制空戦闘機ゆえに対地攻撃は不得手だが、目標が建造物であれば空対空ミサイルでも損害を与えることは可能だ。

 そして彼らにとってその損害が甚大である必要など無かった。人々に与えるインパクトさえ絶大であれば。

 世界最強の名をほしいままにしてきたイーグルにとって、対空砲火も対空ミサイルも飛んでこない状況下で暴れるなど造作ないこと。

 ためらい無く、次々と銀翼から発射されていくミサイル。

 それは戒厳令下の帝都を恐怖に陥れるには充分過ぎる所業だった。

 四機のイーグルはミサイルを撃ち尽くすと、北北西の方角へ悠然と飛び去って行った。


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あとがき

 ついに対策本部の面々に対してもキバを剥いた仲木戸。

 彼の狙いは果たして……?

 そして空自からも造反者が出てしまった今、その古巣の状況をあの二人が看過する訳がありません。

 はい、ということで次回、10月31日(金)に投稿予定、久しぶりにアホウドリカップルが登場です。

 引き続き、お付き合いをいただけますと嬉しいです🙇‍♀️