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雪の降る街で 第五章 「警報」 ②

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この作品はフィクションです。実在の人物団体事件出来事とは一切関係ございません。


第五章 「警報」 ②


「だが、彼の〝檄〟に触発された自衛官は思いのほか多かった。そして彼等の一部は三島の理念再興を目指し、極秘裏に結社を立ち上げた。来るべき間接侵略に対抗する為に」

 宮本が不敵な笑みを浮かべる。この状況を、まるで心の底から楽しんでいるかのように。

「秘密結社の名は三楯会みたてかい。そして現在いま、リーダーを務めるのがこの男、仲木戸賢治です」

 騒然となるも、誰もが首を傾げる。この現代に於いて、あまりに現実離れした内容に。

「ひと月前、奴は姿を消しました。幹部と思しき連中も一斉に姿を消しています。そして奴らを監視していた我々の調査官三名と、警視庁公安部の刑事が二名、行方不明になっている。恐らく消されたものと思われます」
「馬鹿な……」

 久峨が呻く。

「あの事件から一体何年経っていると思っているんだ? 大体そんなに長い間、何故その三楯会とやらは明るみに出なかったんだ?」
「彼らの目的は祖国を蹂躙せんとする革命勢力の駆逐にあります。その仮想敵が安保闘争以来表立った行動を起こしてこなかった以上、彼らも表舞台に躍り出る必要は無かった」
「なら彼等が起つ理由など無いじゃないか」

 官房長官の永野が宮本に疑問を呈する。

「如何にも。ですがもし、誰も気がつかないうちに間接侵略が始まっていたとしたら?」
「そんな馬鹿な……」
「お忘れですか? つい数年前、この国は政治・経済の根底から蝕まれようとしていたのですよ? 不甲斐なかった貴方たちに取って替わった、彼の国の傀儡政権によって」

 永野が押し黙る。現政権政党の彼等にとっては忘れることの出来ぬ忌々しき在野の日々。

 彼等が政権の座を追われた結果、国内では政治的・経済的な空白が生まれて弱体化し、近隣諸国の増長を招いたと言われているが、それはあくまで表向きの話だ。

 政権奪取に乗じ、烏合の衆であった政権の中枢に紛れ込んだ革命勢力が、彼の国々と通じてこの国の根底からの破壊を目論んだのが真相だ。

 当時、円高政策により国内の産業空洞化を推進して彼の国からの輸入拡大を図り、また、周辺諸国が急速に軍拡を図る中、日本だけが防衛予算を削減し続けた。その他にも事業見直しと称し、無駄な公共工事だけでなく、国の根幹を成す事業までが廃止された。

 結局、そのきな臭さに気がついた国民達によって、革命勢力は政権の座から追われたのだが、当時の政策は今もボディーブローのように、この国にダメージを与え続けている。

「話を戻しますが、この三楯会は想像以上に自衛隊内部で根を張っています。メンバー以外の支援者も多数存在していると思われる。彼らの結束は強固で少しの綻びも見せない。国体護持の名の下に、ね。だから私は驚きませんよ? 貴方方の中に支援者がいても」
「何を言うんだ君は!? 失礼じゃないか!!」

 岩見が途端に血相を変えて机を叩く。

「黙れよ、造反者を出した分際で。こっちは配下を喪ってるんだ」

 宮本は岩見を睨み付けると、吐き捨てた。

「やめないか君達!」

 総理の久峨自ら、二人の間に割って入る。

「宮本さん。貴方は先ほど、彼がここ最近、閑職に追いやられていたと言っていたね。それが今回の件と何か関係あるのかい?」

 場の空気を変えようと、門真は自身の疑問を差し込んだ。

 東京都北区にある十条駐屯地は決して閑職ではない。陸海空三自衛隊の補給本部が置かれている、現代戦で最も重要な兵站戦略の中枢だ。

 これまで最前線部隊を中心にキャリアを積んで来た彼にとっても、バランス良く経験値を積むには最適な職種のはず。だからこそのキャリアパスだと思っていたのだが。

「それは貴方の配下である陸幕長殿にお聞きになったら如何ですか? 門真統幕長殿」
「岩見君?」
「……閑職に回したつもりはありません。本部長の補佐として赴かせたのですが」

 バツが悪そうに答える岩見。宮本が小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

「肩書きだけはねぇ。重要な仕事には全く携わらせていなかったそうじゃないですか」
「そんなことは……」
「まあ、大きな声じゃ言えないでしょうなあ。陸幕のホープが部下の女性自衛官と不倫した挙句、それを知った奴の妻が絶望して一人息子を道連れに無理心中したなどとは。陸幕としては大スキャンダルでしょうからねえ」

 宮本の発言に出席者の間に動揺が走る。

「それは本当かね? 岩見君」

 宇垣が驚いた様子で岩見を見た。

「お相手の女の子も戦車隊に異動とは、陸自さんも中々やることがえげつないですなあ」

 下卑た笑みを浮かべる宮本。と、その時。

「デタラメ言うな!!」

 突然室内に響き渡った怒声。見ると、対策本部となっている大会議室の後方で、情報収集活動に従事していた一人の職員が立ち上がり、憤然と宮本を睨みつけている。

 彼のことを門真は良く知っていた。息子の防大時代以来の親友であり、常に冷静沈着な・・・・・・・彼のことは。

「何だね、君は?」
防衛省情報本部DIH統合情報部所属、一等海尉、槙村和馬だ!!」

 室内が静まり帰る。

 宮本に対して苛立ちを募らせていた防衛省の職員達は誰一人、彼を止めようとしなかった。それどころか彼に同調した職員達が次々と立ち上がる。

「あれは不倫なんかじゃない! 二人の関係は妻子が亡くなった後のことだ! それに仲木戸の妻子が亡くなったのは無理心中じゃなくて事故だ! それを貴様らが!」
「何だね? 言うに事欠いて我々が事実を捻じ曲げているとでもいいたいのか?」
「その通りだろう! そのせいで何の罪も無い娘が傷つき、夢を諦めたっ……!」
「槙村一尉!! 止めなさい!!」

 宮本に向かっていこうとした槙村を制止したのは統合情報部長の福山昌宏ふくやままさひろ一等空佐。

「部長……」
「宮本部長、私の部下が失礼をしました」

 情報本部長の藤川の後方に控えていた福山はスッと立ち上がると、深々と頭を下げた。

「まったく、どういう教育をしてるんだね? DIHは。ただでさえ役立たずの分際で!」

 宮本が溜飲を下げるどころか気色ばむ。福山もまた、射る様な視線で顔を上げたからだ。

「あんたらは調別(陸上幕僚監部調査部第二課別室)の頃からのシギントだけやってりゃいいんだよ! 俺らを差し置いてヒューミントに手を出すからこんなことになるんだ!」

 怒りに任せて宮本が捲し立てる。

「……それはどういうことだ? 宮本君」

 久峨が問い質すと宮本は福山を指差した。

「DIHさんはハニートラップで仲木戸から情報を引き出そうとしてたんですよ。防大を卒業したての、若くて綺麗な女性自衛官を奴の配下として送り込んでね」
「宮本部長、今の発言は撤回していただきたい。彼女は頭脳明晰で非常に優秀、期待の部員だった。そんな大切な部下をハニトラに充てるほど、我々は落ちぶれちゃいない」

 毅然とした態度で宮本を睨みつける福山。

「いい加減にしないか!! 君たちは!!」

 久峨は憤懣やるかたない様子で背もたれに身体を沈めると、右手で顔を覆った。

「じゃあ何かね? この男は妻子を亡くし、閑職に追いやられた腹いせで何かを起こそうとしてるのかね? 冗談じゃないよ全く!!」
「仲木戸はそんな小さな男ではありません。もっとも全てを失い歯止めがかからなくなったのは事実ですが。槙村君、あれを出して」

 福山から指示を受けた槙村は急いでモバイルを持ってくると、ケーブルを繋いだ。

 プロジェクターに映し出されたのは所在地、面積、コメントが書かれた一枚のリスト。

「何だねこれは? 不動産情報のようだが」
「その通り、不動産情報です。彼の国により買収された国内要衝の一覧です。これが彼の部屋に置き手紙のように残されていました」

 またも起こるざわめき。

 リストアップされている土地は、北は北海道から南は沖縄まで全国津々浦々。そのいずれもが在日米軍基地や自衛隊基地の近傍に位置している。

 勿論、安全保障に携わる者達はこの事実を知っている。

 外国人による土地取得は法律で禁じられておらず、また、WTOに加盟している以上、取得を制限するのは難しく、誰もがもどかしい思いをしていたのは事実だ。


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あとがき

 冒頭にも記載しましたが、この章の中で語られている過去の政治の話は、あくまで、この国にありがちな架空の出来事、としてお読みくださいませ╰(*´︶`*)╯♡

 さて、藍の過去が徐々に明らかになってきましたね。真相は果たして……。 

 そして三楯会と仲木戸賢治。この令和の時代に、彼らは一体何をしようとしているのか。

 次回は9月19日(金)に掲載予定です! 

 いよいよ第一戦車大隊にも動きが出てきます。

 引き続き、お付き合いをいただけますと嬉しいです🙇‍♀️