アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その肆】結婚を成功させるには、いつまでも同じ人と、何度も恋に落ちることである。 ②
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【その肆】結婚を成功させるには、いつまでも同じ人と、何度も恋に落ちることである。 アメリカ女性作家 ミニョン・マクラフリン ②
調整の結果、両家の引き合わせは一週間後に決まった。ホッとひと息つくと、帰り支度をしてチェックアウト。その足で勝野の家を訪問することになった。
勝野の家は基地に隣接する海上自衛隊の大和宿舎。自衛隊の宿舎といえばボロが代名詞だが、そこはまだ築十年も経っていない、優良物件。
敏生が婚約報告と、仲人のお願いで連絡をしたところ、新居の下見も兼ねて、詳細を報告に来い、と言われたのでお言葉に甘えることにしたのだった。
「まさか航海から戻って二日後に婚約とはな。俺もホッとしたよ。おめでとう」
「この人、ずっと言ってたのよ? あいつらさっさと結婚しちゃえばいいのに、って」
勝野の妻の瑠美がお茶を出してくれる。目元のパッチリした、正統派美人。元フラッグシップキャリア国際線のCAとしての抜群の気遣いで、聞くところによると、宿舎の主婦たちのリーダー的存在らしい。
「物件だがな、瑠美が確認してくれて、運良くZ棟三階の南の角部屋が空いてたから、早速、総務部長に連絡して、明日朝一で抑えてもらうようにお願いしておいた。管理人にも連絡済みだから後で内覧しておけ」
「ながと」のクルーは航海明けで長期休みだが、地上勤務の厚木基地は、明日は普通に勤務日。色々と手続きを進めたいので、明日は元々、二人で基地に赴くつもりだった。
「マジですか!? ありがとうございます!」
二人揃って、勝野夫妻に頭を下げる。新居探しは時間が掛かると思っていたので、感謝しかない。
「それから、これ、大切だろう」
勝野が差し出したのはクリアファイルに入った婚姻届。驚いて二人で顔を見合わせる。
「余計なお世話かもしれんが、証人欄に瑠美と俺で署名しておいた。今は長期休暇中だから、証人探しも大変だろうと思ってな。書き損じた時のために二部用意しておいた」
「まさかここまで……。本当にありがとうございます……」
敏生が目を潤ませている。
「この人ったら、敏生君から電話受けるなり、すごく張り切っちゃってね。役所の休日窓口までひとっ走り行ってくる、って。ダウンロードでいいじゃない、って言ったんだけど、何か不備があったらまずいから、役所に置いてある本物使った方がいいんだ、って」
呆れたように顛末を明かしてくれる瑠美に、勝野が笑う。
「お前らは俺にとって息子と娘のようなもんだからな。不安を抱えながら飛ばれたら敵わん。これくらい、お安い御用だ」
どこまでも面倒見の良いボス。
「隊長のお子さん、まだ高校生と中学生じゃん。」
「物の例えだろ」
目を拭いながら突っ込む敏生に、勝野が豪快に笑いながら返す。
「ありがとうございます、隊長」
夕陽もまた、涙を拭いながら頭を下げた。大きな課題のうち、二つが一瞬にして片付いてしまった。
「まだ先だが、休み明け一発目のブリーフィングが、まさか婚約を一気に通り越して結婚報告になるとはな。面白いから、皆には黙っておけよ」
勝野が楽しそうに敏生に持ち掛ける。
「マジですか? さすがに、グループLINERで、みんなには事前報告しておこうかと」
「そうよ。今後もあるんだし、こういうことはちゃんとしておいた方が良いわ」
瑠美が夫を諌める。
「何だ、つまらんな……。よし、その代わり結婚式はうんと盛り上げるぞ」
変わり身の早い勝野は、卓上カレンダーを引き寄せると、数枚めくって、二人に見せた。
「横須賀の同期に確認したが、ここら辺なら航海予定は入ってないようだ」
確かに、その時期であれば余裕を持って準備が進められそうだが……。
「同期とはいえ、よく司令部の幕僚がそんなこと教えてくれましたね」
夕陽も感じた疑問を、勝野に投げかける敏生。
「なーに。統幕長の息子の結婚式の予定を組まなくちゃいけないんだが、どこにしたら良いか? 主賓は首相になるだろうから、航海予定はちゃんと調整しないと責任問題になるぞ、って脅しただけだ」
え? 今、何て……?
「隊長、黙ってろ、って言っといて自分からバラしてんじゃん!」
敏生のツッコミに夕陽がずっこける。
「突っ込むところはそこじゃないでしょう!?」
「うん?」
「首相が主賓ってどういうことですか!?」
「うーん、まあ、そうなるだろうね。親父は首相お気に入りの懐刀の一人みたいだし、政治家だから、結婚披露宴は大好物だろうし」
「だな」
呑気な二人に一瞬、気が遠くなる。だが、今考えても仕方ない。気になることは。
「政治家って、披露宴出席しても良いの? あと、自分たちも国家公務員だし、ご祝儀とか受け取っちゃダメだよね?」
厳しい国家公務員倫理規定が、夕陽の脳裏をよぎる。
「それだと公務員は結婚式挙げられないじゃないか。冠婚葬祭では、社会通念上の範囲であればご祝儀を受け取っても大丈夫だ。ちなみに政治家も、ご祝儀だけ贈るのは賄賂で禁止されているが、自ら出席してその場で相応の金額を渡す分には問題無いとされている」
「さすが隊長。助かります」
敏生も気になっていたようで、ホッとした様子で勝野に頭を下げた。
「そりゃ、お前らの三倍以上は国家公務員やってるからな」
「あなた、式場のことはいいの?」
瑠美が肘で夫をつつく。
「ああ、そうだ。あとな、式場だが、自衛官の強い味方で、防衛省共済組合市ヶ谷会館所属所、というところがあってな。共済直営だから自衛官とその家族なら、費用をだいぶ抑えられる。チャペルも豪華だし、ホテルもリニューアルして間もないから良いらしいぞ」
初めて聞いた。そんなところがあったとは。
「あ、それ考えましたよ。ホテルグランドヒル市ヶ谷ですよね。ただ、夕陽も俺も港町出身だから、海の近くのチャペルがいいな、って話をしてて。少し二人で考えます」
敏生も知っていたのか、と驚くも、彼のことだから、プロポーズ前から、色々と下調べをしていたであろうことは想像に難くない。ここに来る電車の中で、海の見えるチャペルとかいいかも、と軽い気持ちで言ったものの、今後を考えると費用を抑えることは重要だ。
「まあ、お前らは幹部パイロット同士のダブルインカムだから、それもありだな。日取りが決まったら教えてくれ。ちゃんと空けておく」
そう言って、勝野がニヤリと笑うと、敏生は深々と頭を下げた。
「隊長、瑠美さん、今日はお休みのところ、何から何まで、ありがとうございました」
「本当にありがとうございました。何から手を付けて良いか分からなかったので、とても助かりました」
夕陽も彼に倣い、頭を下げながら、御礼を言う。せっかくの家族団らんを長居して邪魔する訳にもいかないので、敏生と目を合わせ、ここらでお暇することにした。
二人は勝野の部屋を出ると、抑えてもらった部屋の内覧に向かった。
「終わったら管理人室に鍵を戻してくださいね。では、ごゆっくり」
案内してくれた管理人が部屋を出て行くと、早速、室内を見て回った。
「わあ、綺麗ね。隊長のお部屋と間取り違うねー」
「建てられた時期が違うから、棟によって間取りは異なるみたいだね。風呂もカチカチ回すやつじゃないし、いいね」
まだ何も無い部屋。これから、彼と二人でこの部屋を彩っていくことを考えただけで、気持ちが高揚してくる。
「どう? 気に入った?」
「うん! でも……。敏生のアパートを引き払うのはちょっと悲しいかな」
「どうして?」
「だって……、敏生と結ばれた、大切な思い出の場所だもん」
言ったあとに急に恥ずかしくなり、ふいっと背中を向けると、背後から抱きしめられた。
「ありがとう。でも、俺はこの場所から、もっともっと夕陽の幸せを上書きしていくつもりだから」
「……うん。あたしも頑張るから。ずっと二人で幸せに居られるように」
後ろを見上げて目を瞑ると、彼の唇が乗ってくる。
「改めてよろしくね、夕陽」
「こちらこそ、よろしくお願いします、敏生。大好き」
しばしの間、ぎゅっと抱き合う。
「……さて、行きますか。幸せの支度に」
「うん! 明日、手続きしたら、少しずつ引っ越しも始めないとね」
夕陽は彼の差し出した手を取ると、一緒に部屋を出た。
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