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アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その肆】結婚を成功させるには、いつまでも同じ人と、何度も恋に落ちることである。 ①

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【その肆】結婚を成功させるには、いつまでも同じ人と、何度も恋に落ちることである。 アメリカ女性作家 ミニョン・マクラフリン ①


 夢じゃなかった。左手の薬指に輝く、エンゲージリング。
 何度もまじまじと見つめては、きゃーっ、と足をバタつかせて喜びに浸る。

 プロポーズから一夜明けたホテルの一室。窓の外は少しずつ明るくなり始めていたが、まだ敏生は隣でぐっすりと寝ているので、起こさないように気をつける。

 六本木ヒルトップに出掛けたあの日。彼が、お腹が痛い、と言ってなかなかトイレから戻って来なかったことがあったが、実はお店に引き返して購入手続きをしていたらしい。

 昨日、高増屋に行きたい、と言ったのも、実はこのリングを受け取るのが目的で、リングの裏の〝Toshiki to Yuhi〟の文字を彫るのに時間がかかることから、航海後に横浜店で受け取れるよう、調整していたようだ。

 お互いの両親への挨拶と親友への紹介が済み、満を持して昨夜のプロポーズに至った彼。

 夕陽が思い悩んでいた間、彼もまた、自分との将来のことを真剣に考え、悩んでくれていた。そのことが何よりも嬉しい。

「おはよ、夕陽」

 振り向くと、敏生が目を覚ましていた。

「お、おはよう。ごめん、起こしちゃったかな?」
「可愛く喜んでる夕陽を見たら、眠気なんか吹っ飛んだよ」

 彼に抱き寄せられる。

「……夢みたい。あたし、敏生のお嫁さんになれるんだね」
「夢見心地は俺の方だよ。俺、全てをかけて夕陽のことを幸せにするから」
「あたしも敏生のこと、いっぱい幸せにするからね!」
「嬉しいよ。じゃあ、これからの二人のこと、色々と話し合わないとな」
「うん!」

 唇を重ねると、彼の胸に頭を預ける。

「えっと、まずは式場探しかな?」
「それは今後の航海予定を探ってからだね。まずはこのオフの間に、お互いの両親への結婚のお伺いかな。あとは隊長に話をして、仲人をお願いしないと」

 言われてみるとその通りだ。まずは地固めが先決。

「住むところはどうしよっか?」
「綾瀬か大和の宿舎かな。今後の転勤も考えると、安く浮かせておきたいね」
「そっか。色々と物入りになってくるもんね」

 転勤か……。夫婦になっても、お互い単身赴任があり得るのが幹部自衛官。だが、夫婦になれば、会うのに言い訳なんて必要なくなる。それもまた嬉しかった。

「ね、ひとつだけお願いがあって……」
「ん?」
「あたし、門真夕陽になりたい。いいよね?」

 彼が目を見開く。

「逆にいいの? 手続きすごく大変だよ? 俺は夕陽と一緒になれるなら神月敏生だっていいし、俺の両親みたいに通称という手もあるんだよ?」
「どっちかが名前変わるんなら、あたしは大好きな人の姓を名乗りたい。門真敏生の妻だ、って周りから見られたいの」
「夕陽……」

 ぎゅっと抱きしめられる。

「すごく嬉しいよ。手続きとか大変だから、一緒にやって行こう。銀行とかクレカとか保険とか。名前の変更以外にも色々やることあるから、家に戻ったら早速、入籍に向けてToDoリスト作ろうか」
「うん!」

 元気よく返事をして、ふと考える。

「でも色々と大変なら……、早く入籍して、このオフを使ってちゃっちゃと手続きを始めた方がいいよね?」

 夕陽の提案に、少し驚いたような表情を見せる彼。

「……確かに、入籍を待つ意味はあまりないな。善は急げ、だし、敢えて言うなら縁起担ぎの日取りくらいかな?」
「大安とか?」
「天赦日っていうのもあるみたいだよ。天が全てを赦す、日本の暦で一番の吉日みたい」

 敏生は手を伸ばしてサイドテーブルのスマホを取ると、早速調べ始める。

「ふーん、一粒万倍日っていうのも良いらしいね。小さな一粒から大きく実るんだって。あれ? ちょっと待って……、十日後に天赦日と一粒万倍日が重なってる日がある」

 夕陽は一緒に画面をのぞき込んだ。

「ほんとだ。でも先負だね」
「先負だから、午後なら問題無いよ。十日間もあれば両親への挨拶と、隊長への報告は調整できるかも。よし、一旦この日で置こうか」
「うん! じゃあ、朝ごはんから戻ったら、実家に電話してみるね。今日は祝日だから居ると思う」
「了解。俺は親父に連絡入れてみるよ。出来たらこの後、近いから戸塚に寄って行きたいけど。お袋は呉だろうから、下関の日程が決まったら、その前後に入れようか」

 トントンと話が進んで行くのが嬉しくて仕方ない。お互いの気持ちを測りかねていたことが、進展の遅さの原因だっただけに、すり合わせが済んでしまえば、そこは瞬時の判断に長けた戦闘機パイロット同士。一気呵成に物事が進んで行くのは、当然と言えば当然だった。

 ベッドから出て、下着を身に付け、服を着ると、手短に洗面と化粧を済ませる。

 せっかくの一流ホテルの朝食バイキングだったが、二人とも気ばかり急いてしまい、さっさと食事を終えて再び部屋に戻ると、早速、チェックアウトの時間まで段取り開始だ。

 お互いの話し声が妨げにならないよう、敏生は浴室で電話している。夕陽は窓際で電話を掛けると、少しして母親の真理子が電話に出た。

「あ、おはよう、夕陽です」
〝あら、どうしたの?こんな朝から〟
「あのね、実はそっちに行って話をしたいことがあって。敏生と一緒に」
〝え……? もしかして婚約解消とか?〟
「ええ!? なんでそうなるのよ?」
〝だって、この間、婚約の報告に来たばかりじゃない〟
「え? あれはお付き合いの報告で、今回が婚約の挨拶なんだけど……」
〝そうだったの? 敏生クン、一生大切にします、って言ってたから、いつ式を挙げるのかお父さんとずっと気にしてたのよ?〟」

 どうやら、自分の早とちり癖は親の遺伝らしい。ということは、結婚自体の根回しは完了済みか。

「あ、ご、ごめんなさい。正式な彼からのプロポーズは昨夜だったから……」

 言い訳しながら、正式って何だ? と自ら突っ込む。

〝何でも良いけど、帰って来なくていいから、先方のご両親とのご挨拶の日取りを、早めに調整して頂戴。実はお父さんとあたし、海外の日本人学校に転任の話があってね〟
「ええっ!?」
〝まだ先の話だけど、早くお願いね〟
「あ、うん……。分かったわ。あ、でね、入籍だけはさっさとしちゃおうと思ってて、実は十日後がすごく日取りが良くって。そのお伺いもあったんだけど……」
〝そうなの? あたしはいいけど、ちょっと待ってね、一応お父さんにも聞いてみるわ〟
「あ、ありがとう」

 電話の向こうで、和博との話し声が聞こえ、しばらくして、再び真理子が電話に出た。

〝入籍は好きにしなさい、って。ただ、後付けでもいいから、両家の引き合わせや結婚式はちゃんとしなさい。まあ、敏生君のことだから問題無いとは思うけど、って〟

 あのたったの二日間で、ここまで両親の信頼を得ているとは。改めて敏生の人たらしの能力に驚嘆する。

 その後、互いの近況などを軽く交わして、電話を切った。敏生の方はまだ電話しているようだ。

 あれだけ厳しかった両親が、敏生との結婚をこんなにもあっさりと、しかも十日後の入籍をいとも簡単に認めてくれるなんて、あの和解があったとはいえ、拍子抜けだった。

 少なくとも自分の方は、全て問題はクリア。あとは彼の両親が何て言うか。祈る様な気持ちで浴室のドアを見つめていると、ガチャっと開いて敏生が出てきた。

「どうだった? お義父様」
「いや〜、怒られた怒られた。すごく」
「ええっ!? ダメだったの?」
「いや、結婚自体は大歓迎だけど、夕陽さんはご両親にとって大切な一人娘だろう。ご両親へのご挨拶もせずに、入籍なんか認められるか。その日に入籍したいんだったら、母さんも連れてその前に山口にご挨拶に伺うから、今すぐ先方のご都合を確認しなさい、って。あと、勝野隊長にもすぐ電話しろ、その後、自分からもドタバタですみませんとお詫びしておくから、って」

 さすがは人望の厚い統幕長。ただ。

「えっと、もちろん予定は確認するけど、お忙しい統幕長と艦隊司令の予定なんて、今日明日で調整出来ないでしょ!?」
「いや。聞いたらお袋は航海予定しばらく入ってなくて、親父も首相や大臣へのレクチャーや、米軍との重要な会合は入って無いから、今なら調整可能だって」
「奇跡だね……。分かったわ。もう一度電話するね!」
「うん。俺も隊長に電話するわ。あ、あと、お家にお邪魔するのは迷惑だろうから、引き合わせの場所はご両親のお家の近場で、親父の方で見繕っておくって、お伝えしておいて」
「そんな……、お義父様、気を遣い過ぎよ」
「まあ、親父はそういう人だからさ。好きでやってるし、気にしなくていいよ」

 そう言って、敏生が再び、電話をするために浴室に入っていった。


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