フリーランスの孤独は、寂しさではなく「自分だけが知らない情報」のことだった
独立して8年になる。フリーランスの孤独がいちばん形になって現れたのは、寂しさを感じた夜ではなかった。自分のプロジェクトの人事を、異動する本人から聞かされた日だった。
孤独は感情の問題だと思われている。だが私の実感では、それは構造の問題だ。そして構造の問題なら、打ち手がある。
Ⅰ.自分のプロジェクトの異動を、異動する本人から聞かされた
方針転換の会議には、必ず呼ばれていた
私はフリーランスとして、ある企業のプロジェクトでリーダー的な立場を任されていた。
プロジェクトに責任を持っていたから、方針転換にかかわる会議には必ず呼んでもらえていた。仕事の情報は、ちゃんと流れてきていた。実力で呼ばれている、という実感もあった。フリーランスでも、仕事ぶりを見てもらえていれば、意思決定の場に入れてもらえる。そう思っていた。
それでも「人の話」は、社員の会議で決まっていた
あるとき、別の案件がうまくいっていないという理由で、私のプロジェクトのメンバーが異動することになった。
私がそれを知ったのは、異動の3日前。教えてくれたのは、会社ではなく、異動する本人だった。
決まったのは社員のミーティングで、私には知らされていなかった。プロジェクトの責任者なのに、自分のチームの人事を、当事者から又聞きする。このときはさすがに口論になった。ただ、いま振り返ると、しょうがなかったとも思う。悪意があったわけではない。私がその情報の流れる経路の上に、そもそもいなかっただけだ。
仕事の情報は来る。でも、組織の情報は来ない。フリーランスの立ち位置というのは、そういうものだった。
Ⅱ.フリーランスの孤独は、感情ではなく構造でできている
社員には「見えない共有網」がある
コロナ禍で在宅勤務が定着した頃から、私も自宅で働くことが増えた。そこで気づいたことがある。
社員には、業務の外側に交流の場がいくつもある。社員だけのリモート飲み会。社員旅行。社員だけに流れる社内の情報。在宅勤務で誰もが物理的には離れていても、社員はこの見えない共有網の中にいる。
フリーランスは、そこに触れられない。契約している業務の情報は届くが、その外側にある「なんとなく共有されていること」からは、制度的に外れている。
案件の情報は階段式に降りてくる——フリーランスはその階段の外にいる

新しい案件やプロジェクトの話は、たいてい社内の上のほうで決まる。そこから管理職へ、現場へと、階段を降りるように情報が流れていく。
社員はこの階段のどこかに立っている。何もしなくても、順番が来れば情報は届く。
フリーランスは、この階段の外にいる。だから放っておくと、「自分だけが知らない情報」が増え続ける。一つひとつは小さな情報でも、積み重なると、会話の前提がズレはじめる。みんなが知っていることを自分だけ知らない状態というのは、疎外感として体に返ってくる。私が「フリーランスの孤独」と呼びたいのは、この状態のことだ。
だからフリーランスは、社員より構造的に不利だ
はっきり書いてしまうと、情報と交流に関して、フリーランスは社員より絶対に不利だ。実力で信頼を保つという土台はもちろんあるが、その上に乗る情報と交流は、何もしなければ確実に薄くなる。
データもこの実感と重なる。フリーランス600名を対象にした2024年の調査(テックビズ調べ)では、仕事中に孤独を感じたことがある人は40.7%。フリーランス経験1年未満に限ると62.5%にのぼる。

経験の浅い人ほど孤独を感じる、という点が示唆的だと思う。独立した直後がいちばん、会社員時代の「情報の網の中にいる感覚」とのギャップが大きいからだ。
もうひとつ、同じ調査で孤独を感じる理由の1位に挙がったのは「仕事の獲得・維持の難しさ」だった。孤独の原因は仕事の不安だ、と多くの人が答えている。でも私の実感では、順序が逆だ。仕事が取れない不安の根っこにあるのが、情報と関係の断絶なのだ。
Ⅲ.「情報は来るもの」という会社員の感覚を、まず捨てる
なりたての頃は、社員の感覚のまま受け身だった
では、どうすればいいのか。私の話をする。
独立したての頃、私は受け身だった。
会社員のときは、情報は来るものだった。会議に呼ばれ、共有事項が流れ、休憩室で誰かが教えてくれる。その感覚のまま独立すると、待っていれば情報が届くはずだと、無意識に思ってしまう。
でも、届かない。仕組みの上で、フリーランスに情報は自動では流れてこない。聞きに行かないと、来ない。私がそれを本当に理解したのは、独立してしばらく経ってからだった。
仕事終わりの一杯と、合間の雑談が、社員の何倍も効く
といっても、大げさな人脈術は要らない、というのが私の結論だ。
仕事が終わったあとに飲みに行く。仕事の合間に、少しだけ雑談する。社員にとっては当たり前すぎて価値を意識しないこの行動が、フリーランスにとっては何倍も重要になる。社員は黙っていても共有網の中にいるが、フリーランスはこの小さな接続だけが、網の代わりになるからだ。
これには行動科学の裏づけもある。社会学者マーク・グラノヴェッターの「弱い紐帯の強み」という有名な研究によれば、仕事にかかわる有益な情報は、家族や親友のような強いつながりよりも、「たまにしか会わない知人」からもたらされることが多い。強い絆は自分と同じ情報を持っているが、弱いつながりは自分の知らない世界の情報を運んでくるからだ。
つまり、社員より深い絆を作る必要はない。社員だけの情報網そのものには入れなくても、その網の中にいる人と雑談する経路は作れる。階段の外にいるなら、階段の中にいる人と話せばいい。私のいまの情報源は、ほとんどこれでできている。
Ⅳ.関係は、幸福の話である前に、仕事の生命線だった
ハーバードの80年研究が言う「良い人生は良い関係から」

ハーバード大学には、1938年から80年以上続いている「成人発達研究」という追跡調査がある。現在の責任者ロバート・ウォールディンガーらが著書『グッド・ライフ』(辰巳出版)にまとめた結論は、シンプルだ。幸福と健康をもっとも強く予測するのは、富でも名声でもなく、良い人間関係だった。
孤独を放置しないほうがいい、という話は、だからまず健康の話として正しい。
ただ、フリーランスにとっては、その一段手前にもっと切実な意味がある。
案件が終わって関係が切れるとき、次の紹介ルートも一緒に消えている
私は独立してから8年間、営業をせずに紹介だけで仕事を続けてきた。その経験から言えるのは、紹介は関係の上しか流れてこないということだ。
案件が終わったとき、そこで関係も一緒に終わってしまえば、その現場から次の仕事が運ばれてくることは二度とない。逆に、案件が終わっても関係が残っていれば、忘れた頃に電話が鳴ることがある。私の8年は、ほとんどそれでできている。
つまりフリーランスにとって孤独は、気分の問題である前に、業績の問題だ。「自分だけが知らない情報」が増えている状態は、同時に「自分を思い出してくれる人」が減っている状態でもある。
まとめ:孤独を感じたら、それは「聞きに行け」のサインだ
フリーランスの孤独の正体は、寂しさより「自分だけが知らない情報」が増えていく構造にある
社員には見えない共有網(社内の交流・社内だけの情報)があり、フリーランスは制度的にその外にいる
調査でも、フリーランスの40.7%が仕事中に孤独を感じ、経験1年未満では62.5%にのぼる
対策は大げさな人脈術ではない。「情報は来るもの」という会社員の感覚を捨てて、聞きに行く。仕事終わりの一杯と合間の雑談が、社員の何倍も効く
関係は幸福の条件である前に、フリーランスにとって次の仕事が流れてくる唯一の経路だ
孤独を感じたときは、自分が弱っているサインだと思わなくていい。網の外にいるという、ただの位置の通知だ。だったらやることは決まっている。聞きに行く。それだけだ。
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営業をせず、紹介だけで8年続けてきた具体的な話はこちらに書きました。
そもそもなぜ独立したのか、という経緯の話です。
出典
株式会社テックビズ「フリーランスのメンタルヘルスに関する実態調査」(2024年8月実施、20〜60歳のフリーランス600名対象のインターネット調査)
ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ『グッド・ライフ――幸せになるのに、遅すぎることはない』(児島修訳、辰巳出版、2023年)
Harvard Study of Adult Development(1938年開始)
Granovetter, M. (1973) "The Strength of Weak Ties," American Journal of Sociology 78(6)
